在宅勤務で曜日の感覚すらなくした僕が、土に触れたくて借りた週末の市民農園で、隣の区画を黙々と耕す年上の校正者に野菜の育て方を一から教わるうちに惹かれ、遠くで花火が上がる真夏の夜に畑を見下ろす彼女の部屋で結ばれた話

1. 借りた区画

僕、田所悠斗、二十八歳。

都内のIT企業で、在宅勤務をしている。

仕事は、嫌いじゃない。でも、家から一歩も出ない日が、何日も続くと、おかしなことになる。

朝、起きて、パソコンを開く。会議。コードを書く。気づけば、外は暗い。

それを、ただ、繰り返していた。

田所悠斗(……今日って、何曜日だっけ)

ある朝、ふと、それがわからなくなった。

月曜も金曜も、土曜も日曜も、僕の部屋では、同じ顔をしていた。

画面の中の数字は、いつでも、すぐに結果が出る。早くて、正確で、便利だった。

でも、その速さに、いつのまにか、僕の方が、すり減っていた。

何か、もっと、ゆっくりしたものに、触れたかった。

時間をかけないと、どうにもならないものに。

田所悠斗(……土、とか)

なんで、そう思ったのかは、わからない。

子供の頃、亡くなった父が、ベランダでミニトマトを作っていた。それを、ぼんやり、思い出したのかもしれない。

調べてみたら、家から自転車で十分の河川敷の近くに、市が貸している農園があった。

「市民農園・空き区画あり」。

その素っ気ない貼り紙の写真を見て、僕は、なぜか、申し込みのボタンを、押していた。


2. 隣の畝

借りた区画は、三メートル四方の、小さな土の四角だった。

最初の週末。僕は、買ったばかりの軍手と、安いスコップを持って、そこに立った。

そして、途方に暮れた。

土は、思っていたより、ずっと硬い。

スコップを刺しても、半分も入らない。日陰のない畑に、初夏の日差しが、容赦なく照りつける。

十分で、シャツが、汗でびっしょりになった。

田所悠斗(……これ、どうすればいいんだ)

画面の中なら、検索すれば、答えがすぐに出るのに。

ここでは、僕の手と、この硬い土しか、なかった。

途方に暮れて突っ立っていると、隣の区画から、声がした。

結城葉月「——耕すなら、先に水を撒くといいですよ」

顔を上げると、隣の畝に、女の人が、しゃがんでいた。

歳は、僕より、少し上だろうか。

色の褪せた麦わら帽子。長袖のシャツの袖を、きちんと留めている。日焼け止めなのか、肌は、白い。

派手なところは、何もない。なのに、土の上にしゃがむその背中が、妙に、様になっていた。

結城葉月「カチカチの土に、いきなりスコップ入れても、跳ね返されるだけです。前の日に、たっぷり水を撒いて、ひと晩おく。そうすると、土が、ふやけて、やわらかくなるから」

田所悠斗「……あ、なるほど」

結城葉月「あと、その持ち方だと、腰、いきますよ」

立ち上がった彼女が、僕の手から、すっと、スコップを取った。

結城葉月「足で、ここを、踏むんです。腕じゃなくて、体重で刺す」

ぐっ、と、彼女が踏み込むと、あんなに硬かった土に、スコップが、すうっと、深く入った。

その動きには、無駄が、ひとつもなかった。

田所悠斗「……すごい。全然、違う」

結城葉月「慣れですよ」

そう言って、彼女は、麦わら帽子の下で、少しだけ、笑った。


3. 大塚さんの農園

それから、僕は、毎週末、その農園に通うようになった。

通う、というより、通わないと、せっかく蒔いた種が、すぐに、だめになるのだ。

水をやらないと、枯れる。雑草を抜かないと、負ける。

画面の前では、味わったことのない、「待ったなし」の手応えが、そこにはあった。

そして、わからないことがあると、僕は、いつも、隣の区画を見た。

彼女は——結城葉月さん、というそうだ——たいてい、そこにいた。

結城葉月「田所さん、それ、双葉のうちに、間引かないと。全部育てようとすると、全部、ひょろひょろになりますよ」

結城葉月「水は、朝か、夕方。昼の暑いときにやると、根が、煮えちゃうから」

知らないことばかりだった。

葉月さんは、訊けば、なんでも、淡々と、教えてくれた。

ある日、農園の入り口で、麦わら帽子の、小柄なおじいさんに、声をかけられた。

大塚茂「兄ちゃん、最近、よう来とるな。新しい人だろ。わしは、ここの世話役の、大塚」

大塚さんは、この市民農園を、もう十何年も、見守っているのだという。

大塚茂「結城さんに、いろいろ教わっとるみたいだな」

田所悠斗「あ、はい。すごく、助かってます」

大塚茂「あの人はなあ。もう、五年も、ここ借りとるんだ。雨の日も、風の日も、土曜の朝には、いっつも、来とる」

大塚さんは、目を細めて、葉月さんの区画を見た。

葉月さんの畝は、僕のとは、まるで違った。

まっすぐに通った畝。きれいに添えられた支柱。雑草ひとつ、ない。

大塚茂「あの几帳面さは、たいしたもんだ。……でもなあ、ひとりで、黙々とやっとるからさ。たまには、誰かと、しゃべったほうが、いいんだよ」

そう言って、大塚さんは、なぜか、僕の肩を、ぽんと叩いた。


4. 雨の物置

梅雨に入った。

その週末も、空は、朝から、重く曇っていた。

それでも、水やりに来ていると、ぽつ、ぽつ、と、雨が落ちはじめた。

あっという間に、本降りになる。

結城葉月「田所さん、こっち!」

葉月さんが、農園の隅の、小さな物置小屋に、僕を呼んだ。

農具をしまうための、トタン屋根の、簡素な小屋。二人入ると、もう、いっぱいだった。

トタンを叩く雨の音が、ばらばらと、大きくなる。

田所悠斗「……すごい雨ですね」

結城葉月「梅雨ですから」

狭い小屋の中で、葉月さんは、麦わら帽子を取った。

帽子の下から出てきた素顔は、思っていたより、ずっと、若く見えた。

濡れた前髪が、白い額に、貼りついている。

田所悠斗「結城さんは、どうして、畑を?」

訊いてから、立ち入りすぎたかな、と思った。

でも、葉月さんは、雨を見たまま、ぽつりと、答えた。

結城葉月「……私、家で、文章を直す仕事をしてるんです。校正って、わかります?」

田所悠斗「あ……本の、誤字とかを、直す?」

結城葉月「ええ。誤字脱字。事実の確認。一日中、赤いペンを持って、人の書いた文字を、にらんでる」

雨の音に、彼女の、静かな声が、混ざる。

結城葉月「間違いを、見つけるのが、仕事なんです。完璧じゃないと、いけない。一文字でも、見逃したら、だめ」

結城葉月「……それを、何年も続けてたら。ある日、自分の手が、震えてることに、気づいて」

田所悠斗「……」

結城葉月「畑は、その逆なんです」

葉月さんが、雨の向こうの、自分の畝を、見た。

結城葉月「種を蒔いても、いつ芽が出るかは、私には、決められない。曲がって育つのもある。虫に食われるのもある。……でも、それで、いいんです」

結城葉月「『正しい』とか『間違ってる』とか、ない。ただ、育つ。それを、見てるだけで……なんだか、息が、できるんです」

雨が、トタンを、優しく叩いていた。

僕は、その横顔を、見ていた。

几帳面で、無口で。畑のことしか、しゃべらないと思っていた人の、奥の方を、少しだけ、見た気がした。

田所悠斗「……わかる気が、します。僕も、画面の中の、速いものに、疲れて。それで、ここに、来たから」

葉月さんが、こちらを向いた。

雨の薄暗がりの中で、その目が、少しだけ、揺れた。

結城葉月「……そっか。田所さんも、ですか」

そう言って、彼女は、ほんの少し、ほどけたように、笑った。


5. 苗を買いに

雨が続いて、しばらく、畑に行けない日が、あった。

そんな平日の夜。スマホが、鳴った。

いつのまにか連絡先を交換していた、葉月さんからだった。

結城葉月「田所さん。今度の日曜、晴れるみたいです。……夏の苗、買い足しに行こうと思ってるんですけど。よかったら、一緒に、どうですか」

田所悠斗「あ、行きます。ぜひ」

返事をしてから、自分の声が、少し、弾んでいるのに、気づいた。

日曜の朝。郊外の、大きな園芸店で、僕たちは、待ち合わせた。

畑にいるときの、長袖シャツと麦わら帽子じゃない、葉月さん。

薄手のワンピースに、カーディガン。下ろした髪が、肩に、かかっている。

そのギャップに、僕は、思わず、どきりとした。

結城葉月「……変、ですか」

田所悠斗「いや。……その。畑のときと、雰囲気が違って。びっくりしました」

結城葉月「もう。畑だと、土だらけですからね」

園芸店の中を、葉月さんは、楽しそうに、歩いた。

ミニトマト、なす、ピーマン、オクラ。きゅうりの苗を、一本ずつ、葉の色を見て、選んでいく。

結城葉月「いい苗はね、茎が太くて、節と節の間が、詰まってるんです。徒長してるのは、だめ」

田所悠斗「徒長?」

結城葉月「ひょろっと、間延びしちゃうこと。日が、足りなかった子」

赤いペンで文字を直すように、彼女は、いい苗を、迷わず選り分けていく。

その横顔は、雨の小屋で見た、疲れた顔とは違って、生き生きしていた。

帰り道、両手いっぱいの苗を抱えて、僕たちは、並んで歩いた。

結城葉月「田所さんの区画、トマト、植える場所、まだ、ありますよね」

田所悠斗「はい。……結城さんに、教わりながら、なら」

結城葉月「ふふ。教えますよ。ちゃんと、育つように」

その「ちゃんと」が、なんだか、畑のことだけじゃない気がして。

僕は、少しだけ、胸が、熱くなった。


6. 真夏の水やり

梅雨が明けた。

夏が、一気に、来た。

僕の区画では、葉月さんに教わったトマトが、ぐんぐん背を伸ばして、青い実を、たくさんつけていた。

その日は、休日出勤ならぬ、休日の畑仕事を終えて、気づけば、夕方になっていた。

真夏の日が、ようやく、傾きはじめる。

ほかの区画の人たちは、暑さを避けて、もう、みんな、帰ってしまっていた。

農園には、僕と、葉月さんの、二人だけが、残っていた。

結城葉月「夕方の水やりは、いいですよ。涼しくて。……土が、ほっとする音がするんです」

ホースから出る水が、乾いた土に、しゅう、と吸い込まれていく。

熱を持った畑から、土の匂いが、ふわっと、立ちのぼる。

夕暮れの光が、葉月さんの横顔を、オレンジ色に、染めていた。

田所悠斗「……結城さん」

結城葉月「はい」

田所悠斗「僕、最近、土曜と日曜が、楽しみで」

結城葉月「畑、はまりましたね」

田所悠斗「……それも、あるんですけど」

水音の中で、僕は、言葉を、選んだ。

田所悠斗「……ここに来ると、結城さんに、会えるから」

葉月さんの手が、止まった。

ホースの水が、土の上で、小さな水たまりを、作っていく。

結城葉月「……田所さん」

夕日を背にして、彼女が、こちらを向いた。

その頬が、夕焼けのせいだけじゃなく、ほんのり、赤い。

結城葉月「私、無口で。畑のことしか、しゃべれなくて。……つまらない女ですよ」

田所悠斗「つまらなくないです」

僕は、はっきりと、言った。

田所悠斗「雨の小屋で、結城さんが、畑のこと話したとき。……僕、この人のこと、もっと知りたいって、思ったから」

遠くで、ぽん、と、低い音がした。

顔を上げると、河川敷の向こうの空に、大きな花火が、ひとつ、開いた。

結城葉月「……あ。今日、花火大会だ」

夏の宵闇に、赤い光が、ゆっくりと、散っていく。

ぽん、ぽん、と、続けて、花火が上がる。

その光に照らされて、葉月さんの目が、潤んで、揺れていた。


7. 花火の下で

結城葉月「……ここから、見えるんですね。花火」

田所悠斗「そうみたいですね」

二人で、畑の畝の間に、並んで立って、空を、見上げていた。

ぽん。ぽん。

夏の夜空に、次々と、大輪の花が、咲いては、消えていく。

その音が、少し遅れて、お腹に、響いてくる。

僕は、隣の、葉月さんの手に、そっと、自分の手を、重ねた。

土仕事で、少し荒れた、でも、あたたかい手だった。

結城葉月「……っ」

葉月さんが、小さく、息を呑んだ。

でも、その手を、引っ込めはしなかった。

田所悠斗「結城さん」

結城葉月「……葉月で、いいです」

田所悠斗「……葉月さん」

名前を呼ぶと、彼女が、こくん、と、頷いた。

田所悠斗「好きです。……付き合ってください」

花火の光が、二人を、明るく照らして、また、暗くなる。

その明滅の中で、葉月さんは、しばらく、黙っていた。

それから、ゆっくりと、僕の手を、握り返してきた。

結城葉月「……私で、いいんですか。年上で、地味で。土いじりしか、能がない」

田所悠斗「葉月さんが、いいんです」

結城葉月「……ずるいなあ、その言い方」

葉月さんが、泣き笑いみたいな顔で、僕を見上げた。

ぽん、と、ひときわ大きな花火が、夜空いっぱいに、開いた。

その光の中で、僕は、彼女の頬に、手を添えて、ゆっくりと、唇を、重ねた。

ちゅっ。

土と、夏の夜の匂いがした。

結城葉月「……ん」

一度離れて、見つめ合う。

葉月さんの目が、花火を映して、きらきら、光っていた。

結城葉月「……もう一回、いいですか」

今度は、彼女の方から、そっと、背伸びをした。

ちゅ……っ。

花火の音が、二人の頭の上で、絶え間なく、鳴り続けていた。


8. 畑を見下ろす部屋

花火が、終わった。

夜の畑が、しんと、静かになる。

結城葉月「……田所さん。あの、私の部屋、ここから、すぐなんです」

葉月さんが、農園のすぐ隣の、古いマンションを、指さした。

結城葉月「畑が、見たくて。……ここが見える部屋を、選んだんです」

結城葉月「……汗、流していきませんか。一日、畑にいて、ベタベタでしょう」

その声が、少し、震えていた。

それが、ただの提案じゃないことは、僕にも、わかった。

僕は、頷いた。

彼女の部屋は、三階の、こぢんまりとした一室だった。

本棚には、辞書や、校正の本が、几帳面に、並んでいる。

窓際の机の上には、赤いペンが、何本も、立ててあった。

そして、窓からは——夜の市民農園が、月明かりの下に、ぼんやりと、見下ろせた。

結城葉月「……あれ、私たちの畑」

田所悠斗「……本当だ。ここから、ずっと、見てたんですね」

結城葉月「……うん。田所さんが、ひとりで、悪戦苦闘してるのも。……全部、見えてました」

葉月さんが、恥ずかしそうに、笑った。

僕は、後ろから、そっと、彼女を、抱きしめた。

結城葉月「……っ」

汗ばんだ、夏の肌が、僕の腕の中で、熱を持っていた。

田所悠斗「……葉月さん」

結城葉月「……シャワー、先に……」

田所悠斗「……このままが、いいです」

振り向かせて、もう一度、唇を、重ねた。

窓の外では、月明かりが、二人の畑を、静かに、照らしていた。


9. ほどけていく

部屋の灯りを、消した。

カーテンを開けたままの窓から、月の光だけが、青白く、差し込んでいた。

僕は、葉月さんを、そっと、ベッドに、横たえた。

結城葉月「……あんまり、見ないでください。私、こういうの……すごく、久しぶりで」

田所悠斗「……僕も、緊張してます」

結城葉月「……ふふ。なら、おあいこ」

汗で、薄手のシャツが、彼女の肌に、貼りついていた。

ボタンを、ひとつずつ、外していく。

普段、長袖と麦わら帽子に隠れている肌は、白くて、思っていたより、ずっと、やわらかかった。

田所悠斗「……綺麗だ」

結城葉月「……日に、当たってないだけです」

そう言いながら、葉月さんが、両腕で、胸元を、隠した。

その手を、僕は、そっと、どけた。

背中に手を回して、ホックを、外す。

かちゃり、と。

肩から紐が、滑り落ちて、白い胸が、ふるん、と、こぼれた。

結城葉月「……っ」

僕は、その柔らかさを、両手で、そっと、包んだ。

むにゅ、と、指が、沈んでいく。

結城葉月「ん……っ」

田所悠斗「……やわらかい」

結城葉月「……いちいち、言わないで……」

口では、いつもの几帳面な調子で、たしなめるのに。

葉月さんの息は、もう、少し、上がっていた。

指の先で、つんと色づいた先端に、触れる。

結城葉月「ひゃっ……んっ……」

体が、びくっと、跳ねた。

田所悠斗「……ここ、弱い?」

結城葉月「……っ、知り、ません……」

僕は、その先端を、口に、含んだ。

ちゅっ……れろ……っ

結城葉月「あっ……ん……っ」

赤いペンで、人の間違いを、淡々と直す。あの、凛とした人とは、まるで違う。

甘くて、頼りない声が、葉月さんの口から、ぽろぽろ、こぼれてくる。

そのギャップに、僕は、たまらなくなった。

舌で先端を転がしながら、もう片方の胸を、やわやわと、揉む。

結城葉月「悠斗さん……っ、それ……だめ……っ」

名前を呼ばれて、胸の奥が、きゅっと、なった。

僕は、彼女の、汗ばんだお腹に、唇を落としながら、下着に、手を伸ばした。


10. 月明かりの中で

最後の一枚を、ゆっくり、脱がせる。

月の光に、葉月さんのすべてが、青白く、照らし出された。

そこは、もう、しっとりと、濡れていた。

布越しに、そっと、指でなぞる。

結城葉月「んっ……」

葉月さんの腰が、ぴくんと、跳ねた。

田所悠斗「……もう、濡れてる」

結城葉月「……言わないでって……っ。だって、悠斗さんが……」

恥ずかしそうに、顔を、背ける葉月さん。

指で、優しく、敏感な突起を、撫でる。

くちゅ、と、小さな水音がした。

結城葉月「あっ……♡」

田所悠斗「……気持ちいい?」

結城葉月「……っ、うん……っ♡」

円を描くように撫でながら、指を、ゆっくり、中へと、滑らせた。

ずぷ、と。

結城葉月「んあっ……♡」

熱くて、きつい中が、僕の指を、きゅっと、締めつける。

感じる場所を探って、指の腹で、ゆっくり、擦る。

結城葉月「あっ♡ あっ♡ そこ……っ♡」

葉月さんが、シーツを、ぎゅっと、握った。

いつも、几帳面で、無口な人が、僕の指一本に、こんなに、乱れている。

それが、愛おしくて、たまらなかった。

結城葉月「悠斗さん……っ♡ だめ、それ続けたら……っ♡」

田所悠斗「……いいよ。イって」

結城葉月「やっ♡ 見ないで……っ♡♡」

指の動きを、速める。

結城葉月「あっ♡ あっ♡ ——っ♡♡♡」

びくびく、と腰が震えて、中が、きゅうっと、締まった。

息を切らせる葉月さんの額に、貼りついた前髪を、僕は、そっと、よけてやった。

結城葉月「……はぁ……っ。悠斗さんも……」

潤んだ目で、葉月さんが、僕を、見上げた。

結城葉月「私だけ……ずるい。……ちゃんと、来て」

僕は、避妊具をつけて、彼女の脚の間に、体を、進めた。

熱く張りつめたものを、濡れた入り口に、あてがう。

田所悠斗「……いくよ」

結城葉月「……うん。来て」

ゆっくり、腰を、進めた。

ずぷ……っ♡

結城葉月「んっ……あぁ……っ♡♡」

先端が入った瞬間、葉月さんが、僕の背中に、しがみついた。

きつい。でも、とろとろに濡れているから、彼女の中は、僕を、奥まで、すんなりと、受け入れていく。

ずず……っ

結城葉月「あ……っ♡ 奥まで……来てる……っ♡」

田所悠斗「……葉月さんの中、すごく、熱い」

根元まで収まって、僕は、一度、深く、息を吐いた。

繋がった場所から、毎週、隣の畝で過ごした時間が、じんわりと、埋まっていく。

ゆっくり、動きはじめた。

ずちゅ……ぱちゅ……

結城葉月「あっ♡ ん……っ♡」

窓の外には、月明かりに照らされた、二人の畑。

その静けさの中に、二人の息と、肌のぶつかる音が、混ざっていく。

田所悠斗「葉月さん、気持ちいい?」

結城葉月「……っ♡ うん……っ♡ すごく……っ♡」

田所悠斗「僕も。……ずっと、こうしてたい」

葉月さんが、僕の首に、腕を回して、自分から、唇を、求めてきた。

キスをしながら、奥を突くたびに、彼女の体が、跳ねる。

ぱちゅ……ぱちゅ……ぱちゅっ♡

結城葉月「あっ♡ あっ♡ そこ……っ♡ 奥、当たるの……っ♡♡」

田所悠斗「ここ、好き?」

結城葉月「っ♡♡ 好き……っ♡ 悠斗さんの……好き……っ♡♡」

それが、体のことなのか、僕自身のことなのか。たぶん、どっちも、だった。

結城葉月「悠斗さん……っ♡ もう……っ♡」

田所悠斗「僕も……っ。一緒に」

結城葉月「うん……っ♡ 一緒が、いい……っ♡」

僕は、葉月さんを、ぎゅっと抱きしめて、最後の律動を、速めた。

ぱちゅぱちゅぱちゅっ♡♡♡

結城葉月「あっ♡ あっ♡ イクっ……♡ 悠斗さん、一緒に……っ♡♡」

田所悠斗「……っ、葉月さんっ」

ぱちゅんっ——♡♡♡

結城葉月「あぁぁ……っ♡♡♡」

奥で、僕が震えるのを、葉月さんの体が、ぎゅうっと締めつけながら、受け止める。

二人で、同じ波に、さらわれた。

汗ばんだ体が、ぴったり重なったまま、しばらく、動けなかった。

窓の外の畑が、月明かりの中で、静かに、息づいていた。


11. 土曜の朝

翌朝。

カーテンを開けたままの窓から、夏の朝日が、まっすぐ、差し込んでいた。

腕の中で、葉月さんが、すうすうと、寝息を立てている。

普段、麦わら帽子の下に隠れている素顔が、朝の光に、やわらかく、照らされていた。

しばらくして、葉月さんが、ん、と身じろぎして、目を、開けた。

結城葉月「……おはよう、ございます」

田所悠斗「おはよう」

結城葉月「……あ。私、畑、水やり……」

寝ぼけ眼で、慌てて起きようとする葉月さんを、僕は、笑って、引き止めた。

田所悠斗「一緒に、行くよ。……朝の水やり、教えてもらったし」

二人で、マンションを出て、すぐ隣の、農園へ向かった。

夏の朝の空気は、ひんやりと、気持ちよかった。

僕たちの畑では、トマトが、朝露をのせて、赤く、つやつやと、光っていた。

ホースで、土に、水を撒く。

しゅう、と、乾いた土が、水を吸う音がした。

結城葉月「……ほら。土が、ほっとする音」

田所悠斗「……ほんとだ」

並んで、水やりをしていると、入り口の方から、声がした。

大塚茂「おや」

世話役の、大塚さんだった。

僕と葉月さんを、交互に見て、大塚さんは、にやりと、笑った。

大塚茂「……朝から、二人で、仲良く水やりかい」

結城葉月「お、大塚さん……!」

顔を、真っ赤にする葉月さん。

大塚茂「いいねえ。結城さんが、誰かと、しゃべってるとこ、わし、初めて見たよ」

大塚茂「兄ちゃん。この人はなあ、几帳面で、ちょっと不器用だけど。野菜を育てるのだけは、誰よりも、丁寧なんだ。……大事に、しなよ」

結城葉月「もう、大塚さん、よけいなこと、言わないでください……!」

けらけらと笑いながら、大塚さんは、自分の区画の方へ、歩いていった。

在宅勤務で、曜日の感覚すら、なくしていた僕は。

土に触れたくて、借りた、小さな畑で。

赤いペンに疲れた、年上の、無口な人と、恋人になった。

田所悠斗「葉月さん。来週末も、ここで」

結城葉月「……うん。待ってます」

夏の朝日の中、二人の畑には、僕たちが育てた野菜が、青々と、茂っていた。

葉月さんが、いちばん赤いトマトを、ひとつ、もいで、僕に、差し出した。

結城葉月「はい。……今朝の、最初の一個」

かじると、太陽の味がした。

画面の中では、絶対に、手に入らなかった味だった。

― 終 ―


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