自炊もできず荒んでいた一人暮らしの僕が、商店街の小さな八百屋でおまけばかりくれる日焼けした看板娘に旬の野菜の食べ方を教わるうちに惹かれ、梅雨の晴れ間の夕立の夜に店の二階で結ばれた話

1. コンビニ袋の重さ

僕、三宅亮、二十九歳。

四月の異動で、知らない町の支社に飛ばされた。

仕事は嫌いじゃない。でも、見知らぬ町で一人、というのは、思っていたより堪えた。

借りたのは、古い商店街の裏手の、ワンルーム。

朝は会社、夜は遅く帰って、コンビニで弁当を買う。それだけの日々だった。

三宅亮(……また、これか)

レジ袋の中で、温めた弁当と、缶ビールが、かたんと鳴る。

部屋に帰って、テレビもつけずに、それを食べる。

味は、よくわからなかった。

引っ越してきて二ヶ月。冷蔵庫の中は、いつも、からっぽに近かった。

自炊なんて、もう何年もしていない。

母が元気だった頃は、実家で当たり前に出てきたあたたかい飯を、今になって、ぼんやり思い出す。

三宅亮(……野菜、最後にいつ食べたっけ)

ふと、そんなことを思った夜だった。

帰り道、いつもは素通りする商店街の、シャッターの半分閉じた一角に、まだ灯りのついた店があった。

店先に、夏野菜が、山のように積まれている。

赤いトマト。緑のきゅうり。つやつやした、紫紺のなす。

その鮮やかさに、なぜだか、足が止まった。


2. おまけの看板娘

「立花青果店」。

色あせた庇に、そう書いてあった。

裸電球の下で、野菜が、つやつやと光っている。

三宅亮「……まだ、やってますか」

声をかけると、奥から、明るい声が返ってきた。

立花葵「やってますよー! どうぞどうぞ、見てってください!」

出てきたのは、若い女の人だった。

歳は、たぶん、僕より少し下。

紺の前掛けに、まくった袖。日に焼けた腕と、よく動く、大きな目。

ひとつに結んだ髪が、彼女が動くたびに、元気よく、ぴょこぴょこ揺れる。

立花葵「お兄さん、この辺の人? 見ない顔だなあ」

三宅亮「あ、はい。春に、越してきて」

立花葵「そうなんだ! じゃあ、ご近所さんだ。歓迎しまーす」

にっと笑う、その笑顔が、やけに眩しかった。

僕は、何を買えばいいのかもわからなくて、とりあえず、目についたトマトを、ひとつ手に取った。

三宅亮「……これ、ひとつ」

立花葵「えっ、ひとつ? お兄さん、それだけ?」

三宅亮「あ、いや。一人暮らしなんで」

立花葵「もー。一人でも、ちゃんと食べなきゃだめだよ」

そう言いながら、彼女は、トマトを三つ、袋に入れた。

三宅亮「いや、ひとつで」

立花葵「いいの、いいの。これ、おまけ。今日のトマト、すっごく甘いんだから。食べてみてよ」

押し切られるように、僕は、三つのトマトを買って帰った。

部屋で、ひとつ、かじってみた。

水っぽいだけだと思っていたトマトが、びっくりするくらい、甘かった。

口の中に、ひさしぶりに、ちゃんとした「味」が広がった。

三宅亮(……うまいな、これ)

その夜、僕は、なぜだか、少しだけ、まともな気持ちで眠れた。


3. トミさんの店

それから、僕は、仕事帰りに、その店へ寄るようになった。

最初は、トマトを買うつもりだった。

なのに、行くたびに、看板娘——立花葵さん、というそうだ——は、何かしら、おまけをくれた。

立花葵「あ、三宅さん! 今日はね、きゅうり。曲がってるけど、味は一緒だから」

立花葵「これ、枝豆。茹でるだけだから、お兄さんでもできるって」

僕の名前も、一人暮らしだということも、彼女は、すぐに覚えた。

四回目か、五回目に行ったとき。

店の奥の、小さな丸椅子に、小柄なおばあさんが、座っていた。

立花トミ「いらっしゃい。あんたかい、葵がよく言ってる、おまけのお兄さんは」

立花葵「ちょっと、おばあちゃん!」

おばあさんは、葵さんの祖母で、トミさん、というそうだ。

この立花青果店を、もう五十年、続けているのだという。

立花トミ「葵はねえ、東京で勤めてたんだけどさ。私が腰を痛めたもんだから、手伝うって、帰ってきてくれてね」

立花葵「おばあちゃん、そういうの、お客さんに話さないの」

立花トミ「いいじゃないか。……それでこの子、すっかり八百屋が気に入っちゃってさ。困ったもんだよ」

そう言いながら、トミさんは、しわくちゃの顔で、にこにこ笑っていた。

困った、と言いながら、その目は、孫娘を、心から、可愛がっているのがわかった。

立花トミ「お兄さん。うちの葵の野菜、うまいだろ」

三宅亮「……はい。すごく。毎日、助かってます」

立花トミ「そうかい、そうかい」

トミさんは、満足そうに頷いて、それから、ちらりと葵さんを見て、にやりとした。

葵さんが、なぜか、顔を赤くして、トマトの山を、せっせと積み直しはじめた。


4. 旬の食べ方

ある夜、店じまい間際に寄ったら、葵さんが、店先で、なすを片付けていた。

立花葵「あ、三宅さん。ぎりぎり、間に合ったね」

三宅亮「すみません、いつも遅くて」

立花葵「ううん。……ね、三宅さんさ。野菜、ちゃんと料理してる?」

痛いところを突かれて、僕は、口ごもった。

三宅亮「……正直、トマトは、そのまま、かじってます」

立花葵「えーっ。もったいない! なす、せっかく買ってくれたのに、そのまま腐らせてない?」

図星だった。

冷蔵庫の隅で、しなびかけたなすを、思い浮かべる。

葵さんは、あきれたように笑って、それから、ぱっと、表情を明るくした。

立花葵「よし。じゃあ、教えてあげる。なすの、いちばん簡単で、いちばんうまい食べ方」

彼女は、店の裏の、小さな台所に、僕を招き入れた。

古いガスコンロと、使い込まれた包丁。

立花葵「なすはね、こうやって、縦に切って。ごま油で、じゅーって焼くの」

慣れた手つきで、葵さんが、なすを切っていく。

その横顔が、さっきまでの、おどけた顔とは違って、急に、真剣な、料理する人の顔になった。

ごま油の、香ばしい匂いが、狭い台所に、ふわっと立ちのぼる。

立花葵「焼けたら、めんつゆと、おろし生姜。それだけ。……はい、味見」

差し出された箸を、僕は、受け取った。

とろっと焼けたなすが、口の中で、じゅわっと、汁を出す。

三宅亮「……うまい」

立花葵「でしょ!」

我がことのように、葵さんが、胸を張る。

その得意げな顔が、可愛くて、僕は、思わず笑ってしまった。

立花葵「ね、簡単でしょ? 三宅さんでも、できるよ」

三宅亮「……葵さんが、隣にいてくれたら、できそうです」

言ってから、自分の言葉に、はっとした。

葵さんも、一瞬、きょとんとして。

それから、ぷいと横を向いて、なすを焼くのに、やけに集中しはじめた。

その耳が、ほんのり、赤かった。


5. 夕立の軒下

梅雨の、はっきりしない天気が、続いていた。

その日も、帰り道で店に寄ったら、空が、急に、暗くなった。

ざあっ——と、夕立が、降りはじめる。

あっという間に、商店街のアスファルトが、黒く濡れていく。

立花葵「うわ、すごい降り。三宅さん、傘は?」

三宅亮「……ないです」

立花葵「もー。だめだなあ、三宅さんは」

葵さんは、笑いながら、店先のビニール屋根の下に、僕を引っぱり込んだ。

二人で、軒下に並んで、雨を見ていた。

雨脚は、強い。しばらく、止みそうになかった。

トミさんは、奥で、ラジオを聞きながら、うとうとしている。

雨の音だけが、僕たちの間に、満ちていた。

立花葵「……あのさ、三宅さん」

三宅亮「はい」

立花葵「東京で働いてたとき、私さ。毎日、満員電車で、すり減ってて」

ぽつり、と、葵さんが、雨を見たまま、話しはじめた。

立花葵「おばあちゃんが腰やったって聞いて、半分、逃げるみたいに、帰ってきたの。八百屋なんて、継ぐ気、なかったのに」

立花葵「でも、やってみたら……野菜って、面白くてさ。朝、市場で、いいの仕入れて。それを、誰かが、おいしいって食べてくれる」

立花葵「それだけのことが、なんか、すごく、嬉しくて」

雨の中で、彼女の声は、いつもの明るさの底に、やわらかい、本音の色を滲ませていた。

立花葵「三宅さんがさ。最初、トマトひとつ買ってった日。すっごい、疲れた顔してたんだよ」

三宅亮「……そうでしたか」

立花葵「うん。でも、次の日も、その次の日も、来てくれて。だんだん、顔が、明るくなってって」

葵さんが、こちらを向いた。

雨に濡れた商店街の、灯りを背にして。

立花葵「私の野菜で、誰かが、元気になってくの。……それ見るの、私、毎日、楽しみだったんだ」

胸の奥が、ぎゅっと、熱くなった。

僕は、この町で、ずっと、一人だと思っていた。

でも、ちゃんと、見てくれている人が、いた。

三宅亮「……葵さん。僕、この店に来るの。今、いちばんの、楽しみなんです」

それは、おまけのことでも、野菜のことでも、なかった。

葵さんも、たぶん、それを、わかっていた。

雨の音の中で、彼女は、何も言わずに、ただ、ふわっと、笑った。


6. 日曜の朝市

その週末。

土曜の夜に、スマホが鳴った。

店の伝票に書いてもらった番号で、いつのまにか繋がっていた、葵さんからだった。

立花葵「三宅さん? 急にごめんね。あの……明日の朝、ひま?」

三宅亮「はい。日曜は、何も」

立花葵「じゃあさ! 一緒に、市場、来ない? 私の、野菜の仕入れ。……見たら、絶対、面白いよ」

日曜の朝、まだ暗いうちに、僕は、軽トラの助手席に乗っていた。

ハンドルを握る葵さんは、いつもの前掛けじゃなく、薄手のパーカーを着ていた。

すっぴんに近い、休日の横顔。

そのギャップに、僕は、また、どきりとした。

立花葵「眠い? ごめんね、朝、早くて」

三宅亮「いえ。……なんか、新鮮です」

市場は、夜明け前から、活気で満ちていた。

威勢のいい掛け声。山と積まれた、色とりどりの野菜。

その中を、葵さんは、別人みたいに、きびきびと歩いた。

立花葵「おじさん、このとうもろこし、いい色! 二箱ちょうだい」

仲卸のおじさんたちと、ぽんぽん、言葉を交わす。

野菜を手に取り、ヘタを見て、香りを嗅いで、迷わず選んでいく。

その姿は、店でおどけているときとは、まるで違う、一人前の、八百屋の顔だった。

三宅亮(……かっこいいな、この人)

帰りの軽トラの荷台は、朝採れの野菜で、いっぱいになっていた。

東の空が、白みはじめている。

立花葵「ね、三宅さん。さっきの私、どうだった?」

三宅亮「……正直、見とれてました」

立花葵「ふふ。やった」

ハンドルを握ったまま、葵さんは、嬉しそうに、頬を緩めた。

朝日が、その横顔を、金色に、照らしていた。


7. 梅雨の晴れ間に

その日は、めずらしく、よく晴れた。

長い梅雨の、束の間の晴れ間。

夕方、店じまいを手伝いながら、僕たちは、よく笑った。

トミさんは、「年寄りは、もう寝るよ」と、早々に、二階へ上がっていった。

奥の部屋に、灯りがともる。

店先には、僕と、葵さんと、二人だけが、残された。

立花葵「今日は、いい天気だったね」

三宅亮「はい。……梅雨の晴れ間って、なんか、特別ですね」

シャッターを半分下ろした店先で、葵さんが、売れ残りのトマトを、ひとつ、僕に差し出した。

立花葵「はい。最後の、おまけ」

僕は、それを受け取らずに、彼女の手ごと、そっと、握った。

葵さんの目が、まんまるに、なる。

三宅亮「葵さん」

立花葵「……うん」

三宅亮「僕、トマトを買いに来てるんじゃ、ないんです。……葵さんに、会いに来てます」

夕暮れの、オレンジ色の光が、店先に、満ちていた。

葵さんの頬が、トマトよりも、赤くなっていく。

三宅亮「好きです。……付き合ってください」

ひとしきり、雨上がりの、湿った風が、二人の間を、吹き抜けた。

葵さんは、握られた手を、引っ込めなかった。

それどころか、自分から、僕の手を、きゅっと、握り返してきた。

立花葵「……知ってた。三宅さんが、トマト目当てじゃ、ないって」

立花葵「私もね。……三宅さんが来るの、毎日、待ってたんだよ」

そう言って、葵さんは、泣き笑いみたいな顔で、僕を見上げた。

握った手の中で、トマトが、ころんと、落ちた。

でも、二人とも、もう、それを拾わなかった。


8. 店の二階へ

立花葵「……ねえ。上、来る?」

葵さんの声が、少し、震えていた。

立花葵「おばあちゃんの部屋とは、反対側だから。……私の、部屋」

僕は、頷いた。

店の脇の、狭い階段を上がると、こぢんまりとした部屋があった。

棚には、野菜の本や、料理のレシピが、ぎっしり並んでいる。

でも、ちゃんと片付いていて、彼女らしい、清潔な部屋だった。

立花葵「散らかってて、ごめんね」

三宅亮「いや。……葵さんらしくて、いいです」

窓の外で、また、ぽつぽつと、雨が降りはじめた。

梅雨の晴れ間は、もう、終わったらしい。

僕は、葵さんの頬に、そっと、手を添えた。

日に焼けた、健康そうな頬が、僕の手の中で、ほんのり、熱い。

立花葵「……三宅さん」

三宅亮「亮で、いいです」

立花葵「……亮、さん」

名前を呼ばれて、僕は、ゆっくりと、唇を重ねた。

ちゅっ。

立花葵「……ん」

柔らかくて、少しだけ、夏の太陽みたいな匂いがした。

一度離れて、見つめ合う。

葵さんの目が、潤んで、揺れている。

三宅亮「……もう一回、いい?」

立花葵「……うん」

今度は、もっと、深く。

ちゅっ……ちゅるっ……

唇を重ねながら、彼女の腰に、腕を回す。

葵さんの手が、おずおずと、僕のシャツの背中を、きゅっと握った。


9. ほどけていく夜

部屋の灯りを、小さな間接照明だけにした。

やわらかい、オレンジ色の光。

僕は、葵さんを、そっと、ベッドに横たえた。

立花葵「……あんまり、見ないでね。私、こういうの、久しぶりで」

三宅亮「僕も、緊張してます」

立花葵「……ふふ。なにそれ」

薄手のパーカーの裾から、手を入れる。

ゆっくりまくり上げると、白いブラジャーが現れた。

普段、前掛けに隠れている体は、思っていたより、ずっと、女らしかった。

日焼けした腕と、白い肌の、その境目が、妙に、艶めかしい。

三宅亮「……綺麗だ」

立花葵「やだ……言わないでよ」

葵さんが、両腕で、胸元を隠す。

その手を、僕は、そっと、どけた。

背中に手を回して、ホックを外す。

かちり、と。

肩から紐が滑り落ちて、ふるん、と、白い胸が、こぼれた。

立花葵「……っ」

僕は、その柔らかさを、両手で、そっと包んだ。

むにゅ、と、指が沈んでいく。

立花葵「ん……っ」

三宅亮「……柔らかい」

立花葵「もう……いちいち、言わないの……っ」

口では強がるのに、葵さんの息は、もう、少し上がっていた。

指の先で、つんと色づいた先端に触れると、体が、びくっと跳ねた。

立花葵「ひゃっ……そこ……っ」

三宅亮「ここ、弱い?」

立花葵「……っ、知らない……」

僕は、片方の先端を、口に含んだ。

ちゅっ……れろっ……

立花葵「あっ……ん……っ」

市場で、きびきびと野菜を選ぶ、あの凛とした顔とは、まるで違う。

甘くて、頼りない声が、葵さんの口から、ぽろぽろ、こぼれる。

そのギャップに、僕は、たまらなくなった。

舌で先端を転がしながら、もう片方の胸を、やわやわと揉む。

立花葵「亮さん……っ、それ……だめ……っ」

葵さんの太ももが、もじもじと、すり合わさっている。

僕は、そっと、パンツのボタンに、手を伸ばした。

三宅亮「……脱がせて、いい?」

立花葵「……うん」

下ろすと、白い、下着だけになった。

その中心は、もう、しっとりと、湿りはじめていた。

布越しに、そっと指でなぞると。

立花葵「んっ……」

葵さんの腰が、ぴくんと跳ねた。

三宅亮「……もう、濡れてる」

立花葵「……言わないでって……っ。だって、亮さんが……」

恥ずかしそうに、顔を背ける葵さん。

僕は、最後の一枚を、ゆっくり、脱がせた。

露わになったそこは、間接照明のオレンジの光に、しっとりと濡れて、光っていた。

指で、優しく、敏感な突起を撫でる。

くちゅ、と、小さな水音がした。

立花葵「あっ……♡」

三宅亮「気持ちいい?」

立花葵「……っ、うん……っ♡」

円を描くように撫でながら、指を、ゆっくり、中へ滑らせた。

ずぷ、と。

立花葵「んあっ……♡」

熱くて、きつい中が、僕の指を、きゅっと締めつける。

感じる場所を探って、指の腹で、ゆっくり擦る。

立花葵「あっ♡ あっ♡ そこ……っ♡」

葵さんが、シーツを、ぎゅっと握った。

いつも、明るく、店を切り盛りする彼女が、僕の指一本に、こんなに乱れている。

それが、愛おしくて、たまらなかった。

立花葵「亮さん……っ♡ だめ……それ続けたら……っ♡」

三宅亮「いいよ。イって」

立花葵「やっ♡ 見ないで……っ♡♡」

指の動きを速めると、葵さんの体が、ぐっと反った。

立花葵「あっ♡ あっ♡ ——っ♡♡♡」

びくびく、と腰が震えて、中が、きゅうっと締まる。

息を切らせる葵さんの額に、汗で張りついた前髪を、僕は、そっとよけてやった。


10. 重なる雨音

立花葵「……はぁ……っ。亮さんも……」

葵さんが、潤んだ目で、僕を見上げた。

立花葵「私だけ、ずるい……。亮さんも、ちゃんと、来て」

僕は、避妊具をつけて、葵さんの脚の間に、体を進めた。

熱く張りつめたものを、濡れた入り口に、あてがう。

三宅亮「……いくよ」

立花葵「……うん。来て」

ゆっくり、腰を進めた。

ずぷ……っ♡

立花葵「んっ……あぁ……っ♡♡」

先端が入った瞬間、葵さんが、僕の背中に、しがみついた。

きつい。でも、とろとろに濡れているから、彼女の中は、僕を、奥まで、すんなりと、受け入れていく。

ずず……っ

立花葵「あ……っ♡ 奥まで……来てる……っ♡」

三宅亮「……葵さんの中、すごく、熱い」

根元まで収まって、僕は、一度、深く息を吐いた。

繋がった場所から、毎日、通った日々の距離が、じんわりと、埋まっていく。

ゆっくり、動きはじめた。

ずちゅ……ぱちゅ……

立花葵「あっ♡ ん……っ♡」

窓の外では、雨が、しとしとと、降り続いている。

その雨音に、二人の息と、肌のぶつかる音が、混ざっていく。

三宅亮「葵さん、気持ちいい?」

立花葵「……っ♡ うん……っ♡ すごく……っ♡」

三宅亮「僕も。……ずっと、こうしてたい」

葵さんが、僕の首に腕を回して、自分から、唇を求めてきた。

キスをしながら、奥を突くたびに、彼女の体が、跳ねる。

ぱちゅ……ぱちゅ……ぱちゅっ♡

立花葵「あっ♡ あっ♡ そこ……っ♡ 奥、当たるの……っ♡♡」

三宅亮「ここ、好き?」

立花葵「っ♡♡ 好き……っ♡ 亮さんの、好き……っ♡♡」

それが、体のことなのか、僕自身のことなのか、たぶん、どっちもだった。

ベッドが、小さく軋む。

オレンジの光の中、雨音と、二人の声が、満ちていく。

立花葵「亮さん……っ♡ もう……っ♡」

三宅亮「僕も……っ。一緒に」

立花葵「うん……っ♡ 一緒が、いい……っ♡」

僕は、葵さんを、ぎゅっと抱きしめて、最後の律動を速めた。

ぱちゅぱちゅぱちゅっ♡♡♡

立花葵「あっ♡ あっ♡ イクっ……♡ 亮さん、一緒に……っ♡♡」

三宅亮「……っ、葵さんっ」

ぱちゅんっ——♡♡♡

立花葵「あぁぁ……っ♡♡♡」

奥で、僕が震えるのを、葵さんの体が、ぎゅうっと締めつけながら、受け止める。

二人で、同じ波に、さらわれた。

汗ばんだ体が、ぴったり重なったまま、しばらく、動けなかった。

立花葵「……はぁ……っ。すごかった……」

三宅亮「……葵さん」

立花葵「ん……?」

三宅亮「明日からも、トマト、買いに行っていいですか」

葵さんが、ぷっと吹き出して、僕の胸を、ぽかっと叩いた。

立花葵「当たり前でしょ。……もう、おまけ、たくさんつけちゃうから」

そう言って、僕の胸に、頬を、すり寄せた。


11. 朝の店先

翌朝。

雨は、すっかり上がっていた。

窓の外が、白みはじめた頃、僕は、目を覚ました。

腕の中で、葵さんが、すうすうと、寝息を立てている。

日に焼けた頬が、朝の光に、やわらかく、照らされていた。

しばらくして、葵さんが、ん、と身じろぎして、目を開けた。

立花葵「……おはよ」

三宅亮「おはよう」

立花葵「……あ。私、店、開けなきゃ」

寝ぼけ眼で、慌てて起き上がろうとする葵さんを、僕は、笑って引き止めた。

三宅亮「手伝うよ。……野菜、並べるの」

二人で、階段を下りて、店の前に出た。

朝の空気が、ひんやりと、気持ちいい。

雨に洗われた商店街が、朝日に、きらきら光っている。

軒先のトマトを、二人で並べていると、奥から、トミさんが、ゆっくり出てきた。

立花トミ「おや」

僕と葵さんを、交互に見て、トミさんは、にやりと笑った。

立花トミ「……朝から、いい顔してるじゃないか、二人とも」

立花葵「お、おばあちゃん!」

立花トミ「いいんだよ、隠さなくたって。……はは。やっと、くっついたか」

立花トミ「お兄さん。葵を、よろしく頼むよ。……この子、口は達者だけど、案外、寂しがりだからね」

立花葵「ちょっと、おばあちゃん、よけいなこと言わないで!」

顔を真っ赤にする葵さんを見て、トミさんは、けらけらと、楽しそうに笑った。

知らない町に、一人で、放り込まれて。

コンビニ袋の重さばかり、感じていた僕は。

商店街の片隅の、小さな八百屋に通うようになって。

おまけばかりくれる、まっすぐで、明るい人と、恋人になった。

三宅亮「今日、仕事終わったら、また来ます」

立花葵「うん。……待ってる」

朝日の中、立花青果店の軒先には、採れたての夏野菜が、つやつやと、輝いていた。

僕は、葵さんが選んだ、いちばん赤いトマトを、ひとつ、鞄に入れて。

雨上がりの、初夏の風の中を、職場へと、歩き出した。

― 終 ―


編集部プロフィール画像

編集部が運営。「あの夜」で読める恋の体験談を厳選して公開しています。