監視画面のアラートばかり見て夜明けの色を忘れていた僕が、衝動で泊まりに行った峠の上の小さな雲海茶屋で、毎朝の霧の出を風で読む無口な若い女主人に空の読み方を教わるうちに惹かれ、今年いちばんの雲海が割れた夜明けに結ばれた話

1. 夜明けの色を忘れていた

六月の半ば、僕は対向車もない山道を、ひたすら上へ上へと車を走らせていた。霧が、ヘッドライトの中で渦を巻いている。標高が上がるにつれて、ラジオが砂嵐に変わり、やがて、スマホの電波も、一本も立たなくなった。

遠藤悠斗(えんどう ゆうと)、三十歳。都内のデータセンターで、サーバーの監視をやっている。仕事は、夜だ。深夜のオフィスで、壁いっぱいのモニターを睨んで、赤いアラートが上がるたびに、原因を潰す。緑のランプが並んでいれば、それでいい。そういう仕事を、もう五年、続けてきた。

先月、明け方まで障害対応に追われた帰り道、始発の電車で、ふと窓の外を見た。空が、白んでいた。でも、それが朝焼けなのか、ただのモニターの残像なのか、僕にはもう、よくわからなかった。

遠藤悠斗(……俺、最後に、ちゃんと夜明けを見たの、いつだっけ)

思い出せなかった。何百回と夜明けをまたいで働いてきたのに、その色を、ひとつも覚えていない。それが、妙に、こたえた。

きっかけは、その晩、仮眠室のスマホで流れてきた一枚の写真だった。峠の上から見下ろした、雲の海。谷をびっしりと埋めた白い雲が、朝日に染まって、金色に光っている。雲海、というやつらしい。

僕は、画面の中のその夜明けを、ずいぶん長いこと、見ていた。

「雲海 峠 茶屋 素泊まり」で検索すると、ひとつだけ、古びたページが出てきた。電話番号しか書いていない、〈雲海茶屋〉という名前の宿。半分やけくそで、かけた。出たのは、しわがれた老人の声だった。素泊まりなら一部屋空いている、ただし雲海が見えるかは天任せだ、と、ぶっきらぼうに言われた。

それでよかった。僕は、緑のランプの並ばない場所に、行きたかった。

峠を登りきると、霧の向こうに、ぽつんと灯りがにじんでいた。

2. 茶屋の人

〈雲海茶屋〉は、想像していたよりずっと小さかった。

煤けた板壁の、平屋の建物。軒下に、色の褪せた赤提灯がひとつ。その横に、墨で「雲海 出ます」と書いた木札がぶら下がっていたが、「出ます」の上に、白いチョークで大きくバツが書かれていた。

戸を開けると、囲炉裏の煙の匂いがした。奥から、腰の曲がった老人が出てきた。七十は越えているだろう。白い無精髭に、分厚い眼鏡。電話の声の主だ。

高瀬源造「ああ、電話の遠藤さんかい。よう来たな、こんな何もないとこまで。儂が、ここの主の源造(げんぞう)だ」

遠藤悠斗「遠藤です。よろしくお願いします。あの……入口の札、バツになってましたけど」

高瀬源造「ああ、あれな。今日明日は、雲海は出ん。残念だったな」

あっさり言われて、僕は面食らった。明日の朝が、まさに目当てだったのだ。

遠藤悠斗「えっ、もう、わかるんですか? 明日の朝のこと」

高瀬源造「わかるさ。……いや、儂じゃない。あれが、わかる」

源造さんが、顎で、土間の奥をしゃくった。

竈の前に、一人の女性が、しゃがんでいた。火吹き竹で、ふうっと炭をおこしている。物音に気づいて、こちらを振り向いた。

歳は、二十代の半ばくらいか。化粧っ気のない、白い頬。長い髪を、後ろで無造作に一つに結んでいる。藍染めの作務衣の袖をまくった腕が、火明かりに、ほんのり赤く照っている。切れ長の目が、まっすぐ、僕を見た。笑っていない。値踏みするような、静かな目だった。

高瀬千尋「……いらっしゃい。孫の、千尋(ちひろ)です」

遠藤悠斗「え、遠藤です。あの、明日、雲海は……」

高瀬千尋「出ません。風が、南に流れてるから。夜のうちに雲が散る。明日の朝は、ただの晴れ」

ぴしゃり、と言われた。にこりともしない。確信に満ちた、低い声だった。

3. 風を読む

囲炉裏端で、千尋さんが、茶を淹れてくれた。

無駄のない手つきだった。鉄瓶の湯を、いったん湯冷ましに移して、少し待つ。それから、急須に注ぐ。所作のひとつひとつに、迷いがない。差し出された湯呑みの茶は、驚くほど、やわらかい味がした。

遠藤悠斗「……うまい。お茶って、こんな味だったかな」

高瀬千尋「峠の水と、火加減。それだけ」

源造さんは、囲炉裏の向こうで、酒をちびちびやっている。僕は、さっきから気になっていたことを、思いきって聞いてみた。

遠藤悠斗「あの、千尋さん。なんで、明日雲海が出ないって、わかるんですか。天気予報、ここ電波も入らないのに」

高瀬千尋「……予報は、見ない」

遠藤悠斗「じゃあ、どうやって」

高瀬千尋「風。匂い。あと、夕方の谷の色」

千尋さんは、湯呑みを両手で包んで、淡々と続けた。

高瀬千尋「雲海は、谷に冷たい空気が溜まって、湿って、上から蓋がされると出る。だから、夕方に谷が乾いて見える日は、出ない。風が南から上がってくる日も、出ない。雲が、散らされるから」

遠藤悠斗「それ……当たるんですか」

高瀬千尋「外したこと、ほとんどない」

横で、源造さんが、しわがれた声で笑った。

高瀬源造「こいつはな、儂より、よっぽど読む。儂が五十年かけて覚えたことを、三年で抜きおった。……明日は出んが、明後日は、ひょっとすると、出るかもしれんぞ。なあ、千尋」

高瀬千尋「……まだ、わからない。明日の夕方の風、次第」

僕は、思わず、彼女の横顔を見た。火明かりに照らされた頬が、火の色とは別に、少しだけ、得意げに見えた。

監視モニターの前で、僕はいつも、機械が吐き出す数字を読んでいた。けれどこの人は、機械が一台もない場所で、目に見えない空気の動きを、ずっと読み続けてきたのだ。

4. 空振りの朝

翌朝、千尋さんの言ったとおりだった。

夜明け前に叩き起こされて、峠の展望台に立った。けれど、谷には、雲ひとつなかった。澄みきった空に、朝日がのぼって、遠くの山並みが、くっきりと見えるだけ。雲海は、影も形もなかった。

遠藤悠斗「……本当に、出ないんですね」

高瀬千尋「言ったでしょ」

隣で、千尋さんが、白い息を吐いた。少し、笑っているようにも見えた。

高瀬千尋「でも、これはこれで、きれいでしょ。空振りの朝も、悪くない」

遠藤悠斗「……うん。きれいだ」

正直に言うと、雲海が出なかったことよりも、僕は、目の前の朝そのものに、見入っていた。

東の空が、藍色から、桃色に、そして金色に、ゆっくりと変わっていく。山の稜線が、その光を、一本の線で受け止めている。冷たい空気が、肺の奥まで、すうっと入ってくる。

これが、夜明けの色だった。僕が、何百回もまたいできて、ひとつも覚えていなかった、本物の色。

遠藤悠斗「……俺、何年も、夜明けの時間に働いてたんです。でも、夜明けの色なんて、一回も、ちゃんと見たことなかった」

高瀬千尋「……」

遠藤悠斗「画面の中の赤と緑ばっかり見てて。空の色なんて、どうでもよかった」

高瀬千尋「……もったいない」

ぽつり、と千尋さんが言った。それから、少しだけ、こちらを向いた。

高瀬千尋「せっかく来たんだし。今日、もう一泊していけば。明後日の朝なら、ひょっとすると、本物が見られるかも」

無愛想な声だった。でも、その言葉は、たしかに、誘いだった。

5. 谷を歩く

その日、千尋さんは、峠の裏手の道を、案内してくれた。

源造さんは、麓の寄り合いがあるとかで、軽トラで山を下りていった。茶屋には、僕と、千尋さんだけが残された。

ブナの林を抜ける細い道を、千尋さんは、慣れた足取りで歩いた。途中、立ち止まっては、空を見上げたり、葉の裏に触れたり、湿った土の匂いを嗅いだりする。そのたびに、何か小さくつぶやいていた。

遠藤悠斗「さっきから、何を見てるんですか」

高瀬千尋「明日の朝の、下調べ。葉が湿ってきてる。風も、さっきより弱い。……たぶん、谷に冷気が溜まりはじめてる」

遠藤悠斗「じゃあ、明日は」

高瀬千尋「……まだ言わない。外したら、恥ずかしいから」

ちらっと、千尋さんが笑った。今日初めて見る、ちゃんとした笑顔だった。白い頬に、やわらかい線が寄って、それは、ぞっとするほど、きれいだった。

林を抜けると、谷を見下ろす岩場に出た。眼下に、深い谷が、どこまでも続いている。今は乾いて見えるその谷が、明日の朝、雲で埋まるかもしれない。そう思うと、不思議な気持ちになった。

遠藤悠斗「千尋さんは、ずっと、ここに?」

高瀬千尋「……三年前から。それまでは、東京にいた」

遠藤悠斗「東京。意外だな。何を?」

高瀬千尋「……普通の会社員。毎日、満員電車で、画面に数字打ち込んでた。あなたと、たぶん、似たような」

千尋さんは、谷を見たまま、続けた。

高瀬千尋「祖母が、亡くなって。祖父が、一人になって。この茶屋、もう畳むって言いだして。……それを聞いたとき、なんか、勝手に体が動いてた。会社、辞めて、帰ってきた」

遠藤悠斗「……後悔は」

高瀬千尋「ない。一度も。……ここで初めて、私、ちゃんと息してる気がしたから」

風が、千尋さんの結んだ髪を、ふわりと揺らした。

6. 夜霧が降りる

夕方、谷の色が、変わった。

茶屋の縁側で、二人で夕飯を食べていると、千尋さんが、ふと箸を止めて、外を見た。

高瀬千尋「……来た」

遠藤悠斗「え?」

高瀬千尋「霧。下から、上がってきてる」

縁側から見下ろすと、たしかに、谷の底から、白いものが、ゆっくりと這い上がってきていた。みるみるうちに、それは茶屋を包み込んで、軒下の赤提灯が、ぼうっとにじむだけになった。世界が、乳白色の中に、溶けていく。

高瀬千尋「……これは、いい兆候。谷に湿った冷気が溜まってる証拠。このまま夜のうちに蓋がされれば……明日の朝は」

遠藤悠斗「雲海?」

高瀬千尋「……たぶん。今年いちばんの、かも」

千尋さんの声が、初めて、少しだけ、弾んでいた。

霧のせいで、茶屋の周りは、しんと静まりかえっていた。電波もない。テレビもない。聞こえるのは、囲炉裏の炭が、ときどき爆ぜる音だけ。

遠藤悠斗「……静かですね。こんなに静かなの、久しぶりだ」

高瀬千尋「うるさいの、慣れてた?」

遠藤悠斗「うん。サーバーの唸る音と、アラートの音。あれが鳴らない夜なんて、何年もなかった」

囲炉裏を挟んで、千尋さんが、僕を見た。霧の白い光が、障子越しに、彼女の頬を照らしている。

高瀬千尋「……ねえ、遠藤さん。あなた、ここに来たとき、すごく、疲れた顔してた」

遠藤悠斗「……顔に、出てましたか」

高瀬千尋「うん。アラートが上がってないか、ずっと気にしてる顔。……でも、今朝、夜明け見てたときの顔は、ちょっと、違った」

7. 霧の中で

囲炉裏の炭が、ぱちっと爆ぜた。

高瀬千尋「私ね、東京にいたとき、ずっと、誰かに見張られてる気がしてた」

遠藤悠斗「見張られてる……」

高瀬千尋「数字に。ノルマに。評価に。……いつも、何かに追われて、間に合ってるか確かめてた。あなたの、アラートと、同じ」

千尋さんは、湯呑みを両手で包んで、火を見つめていた。

高瀬千尋「でも、ここに帰ってきて、わかったの。空は、誰のことも、見張ってない。ただ、風が吹いて、雲がきて、朝がくる。それを、こっちが、黙って読むだけ。……それが、私には、合ってた」

火明かりに照らされた横顔が、ふと、こちらを向いた。

高瀬千尋「あなたも、たぶん、そういう人。……今朝の顔、見てて、思った」

僕は、もう、自分を止められなかった。

囲炉裏越しに伸ばそうとした手が、届かなくて、僕は立ち上がって、千尋さんの隣に座り直した。彼女は、逃げなかった。まっすぐ、僕を見上げていた。霧のにじんだ光の中で、その目だけが、はっきりと濡れて光っていた。

遠藤悠斗「千尋さん」

高瀬千尋「……ん」

遠藤悠斗「明日、雲海が出ても出なくても。……俺、たぶん、この二日のこと、一生覚えてる」

高瀬千尋「……ずるい。そういうこと、言うの」

千尋さんの白い頬が、火の色とは違う赤に染まった。長い睫毛が、ゆっくり伏せられる。

僕は、そっと、顔を寄せた。

8. 灯りを消して

唇が、触れた。

ちゅ……。

茶の、やわらかい匂いがした。千尋さんの唇は、思いのほか熱くて、かすかに震えていた。一度離して、もう一度。今度は、少しだけ深く。千尋さんが、僕の作務衣の袖を、きゅっと握った。

高瀬千尋「ん……♡」

遠藤悠斗「……心臓、すごい音」

高瀬千尋「……あなたのも、聞こえてる♡」

くすっと笑って、千尋さんが、僕の首に腕を回してきた。舌先で、そっと唇をなぞると、彼女の口が、わずかに開いた。

ちゅ……れろ……ちゅるっ……♡

高瀬千尋「んむ……♡」

囲炉裏の前で、しばらく抱き合っていた。やがて、千尋さんが、潤んだ目で、奥の襖を見た。

高瀬千尋「……部屋、奥に、あるから」

遠藤悠斗「……いいの?」

高瀬千尋「……今夜、あなたを、一人で寝かせる気、もう、ないの♡」

手を引かれて、奥の小さな座敷へ移った。窓の外は、一面の霧。世界から切り離されたみたいな、白い静けさの中だった。敷かれた布団に、千尋さんを横たえる。

もう一度、唇を重ねた。さっきより、ずっと深く。舌を絡めながら、互いの作務衣の帯に、手をかけていく。

ちゅぷ……れろ……ちゅるっ……♡♡

高瀬千尋「ん……んぅ……♡」

ぷはっ、と離れると、唾液が、細く糸を引いた。

高瀬千尋「はぁ……♡ ……灯り、消して? ……恥ずかしい」

遠藤悠斗「霧の光だけで、十分きれいだよ」

高瀬千尋「……もう。そういうとこ♡」

作務衣の合わせを開くと、白い肌が現れた。日に焼けた腕や首と違って、その内側は、霧みたいに、抜けるように白かった。

遠藤悠斗「……きれいだ」

高瀬千尋「……あんまり、見ないで♡」

胸元のさらしをほどくと、形のいい胸が、こぼれ出た。淡い桜色の先端が、白い肌に、ぽつんと色を添えている。腕で隠そうとする手を、そっとどけて、布団に横たえた。右手で、左の胸を包むように触れる。

ふにっ。

高瀬千尋「あっ……♡」

手のひらに吸い付くような、やわらかさだった。指を沈めると、むにっと形を変える。もう片方も、手のひらで包んだ。

高瀬千尋「ん……っ♡ 両方、なんて……♡♡」

親指で、先端を、くりっと転がした。

高瀬千尋「ひゃっ♡♡」

びくんと、千尋さんの肩が跳ねた。小さく硬くなった先端が、指先に、コリコリと伝わってくる。

くりくり……くりくり……♡

高瀬千尋「あっ♡ あんっ♡♡ 悠斗っ……♡♡」

名前を、呼ばれた。それだけで、頭の芯が、痺れた。

唇を、先端に落とす。ちゅっ。

高瀬千尋「ひぅっ♡♡♡」

舌先で転がしながら、反対の胸を、揉みしだく。

ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡

高瀬千尋「あっあっ♡♡ 吸っちゃ、だめっ……声、出ちゃう♡♡」

交互に舌を這わせて、たっぷりと味わう。千尋さんの肌が、うっすら汗ばんで、茶と、霧と、汗の匂いが、ひとつに混ざった。

遠藤悠斗「千尋さん、下も、いい?」

高瀬千尋「……うん♡」

作務衣のズボンを、下着ごと、ゆっくり引き下ろす。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。山道を歩き慣れた、しなやかな腿だった。

遠藤悠斗「……もう、濡れてる」

高瀬千尋「やっ♡ 言わないで……♡ キスの、ときから、ずっとなの♡♡」

桜色の花弁が、透明な蜜で、とろりと濡れていた。指先で、そっとなぞる。

くちゅ……。

高瀬千尋「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」

びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると円を描く。

くり……くり……♡

高瀬千尋「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」

遠藤悠斗「だめじゃ、ないだろ。気持ちいいんだろ?」

高瀬千尋「だってっ♡ あなたの指っ……♡♡」

蜜をかき回しながら、中指を、入り口にあてがった。

遠藤悠斗「指、入れるよ」

高瀬千尋「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」

ずぷ……♡

高瀬千尋「あああっ♡♡♡」

ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、もう一本。

ずぷっ♡

高瀬千尋「ひぃっ♡♡♡ 二本っ……♡♡」

二本の指で出し入れしながら、親指で、突起を同時に刺激する。

ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡

高瀬千尋「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ おかしく、なるっ♡♡♡」

指を曲げて、上側の壁を、ぐっと押す。

高瀬千尋「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」

千尋さんの体が、びくびくと跳ね始める。

高瀬千尋「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」

指の動きを、速める。

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡

高瀬千尋「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

千尋さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。やがて、力が抜けたように、布団に沈み込んだ。

高瀬千尋「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの、久しぶり……♡♡」

9. 霧の夜に

潤んだ瞳で、千尋さんが、ゆっくり身を起こした。まだ余韻に震えながら、僕の帯に、手を伸ばす。

高瀬千尋「……今度は、私」

遠藤悠斗「無理しなくて、いいよ」

高瀬千尋「……無理じゃない。私が、したいの♡」

帯を解いて、下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と、限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。千尋さんが、息を呑む。

高瀬千尋「……おっきい♡♡」

うつ伏せになって、顔を近づけてくる。

ぺろ……。

先端を、舌先で、ちろっと舐めた。

高瀬千尋「ん……♡」

ちゅっ、と先端にキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。

ずぷ……。温かく濡れた、口の中。舌が、裏筋を、なぞる。

高瀬千尋「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」

ゆっくり頭を上下させる千尋さん。ほどいた黒髪が、さらりと揺れて、上目遣いの瞳が、潤んでこっちを見ている。

遠藤悠斗「千尋さん……やば、気持ちいい」

高瀬千尋「んふ♡ ……もっと♡♡」

ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡

頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に、電流が走った。

ずぷっ……ずぷっ……♡♡

遠藤悠斗「待って、それ以上は……イっちゃう」

ぷはっ、と口を離す千尋さん。唇が、唾液で、てらてらと光っていた。

高瀬千尋「……まだ、だめ♡ 最後は、一緒がいい♡」

千尋さんを、布団に引き上げた。財布から、避妊具を取り出す。

高瀬千尋「……ちゃんと、持ってきてたんだ?」

遠藤悠斗「いや、これは、その……一応」

高瀬千尋「ふ♡ 責めてない♡ ……えらい♡」

手早く着けて、千尋さんを、仰向けにした。霧の白い光に、白い肌が、ほのかに浮かんで見える。脚の間に体を滑り込ませて、先端を、入り口にあてがった。

ぬちゅ……♡

遠藤悠斗「入れるよ、千尋さん」

高瀬千尋「うん♡ 来て……♡♡」

ゆっくり、腰を進める。

ずぷ……ずぷぷ……♡♡

高瀬千尋「あぁっ♡♡♡ 入って、くるっ♡♡♡」

きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。

高瀬千尋「おっきい♡♡ 奥まで、いっぱい♡♡♡」

ずぷん♡♡

根元まで、収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。

高瀬千尋「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ ……あったかい♡♡♡」

遠藤悠斗「動くよ」

ゆっくり腰を引いて、また押し込む。

ずるっ……ずぷんっ♡♡

パンっ♡

高瀬千尋「ああっ♡♡♡」

パンッ……パンッ……♡♡

リズミカルに、打ちつけ始める。

高瀬千尋「あっあっあっ♡♡♡ 悠斗っ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」

千尋さんが、僕の背中に、しがみついてくる。窓の外は、一面の霧。世界には、僕と彼女しか、いないみたいだった。肌と肌がぶつかる音が、白い静けさの中に、響いていく。

パンパンパンッ♡♡♡

高瀬千尋「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」

千尋さんの脚が、僕の腰に絡みついてくる。山を歩き慣れた腿が、ぎゅっと締まる。角度を変えて、さらに奥を突くと、結合部から、卑猥な水音が溢れた。

パンパンパンパンッ♡♡♡♡

ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

高瀬千尋「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」

遠藤悠斗「俺も、もう……っ」

高瀬千尋「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イこっ……♡♡♡♡」

千尋さんが、背中に両腕を回して、しがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。

高瀬千尋「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

遠藤悠斗「イく……っ!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

高瀬千尋「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」

千尋さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

高瀬千尋「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」

抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。窓の外では、霧が、いっそう深く、茶屋を包み込んでいた。

高瀬千尋「……まだ、抜かないで♡」

繋がったまま、お互いの心臓の音を、聞いていた。やがて、千尋さんが、僕の胸に頬を寄せて、くすっと笑った。

高瀬千尋「……無愛想で、ごめんね。昼間は」

遠藤悠斗「いや。あの千尋さんも、よかったよ」

高瀬千尋「……変な人♡」

10. 雲海が割れる

――どのくらい眠ったろう。

高瀬千尋「……悠斗。起きて。悠斗っ」

千尋さんの、押し殺した、けれど弾んだ声で、目が覚めた。座敷は、まだ薄暗い。窓の外が、ほんの少し、白み始めていた。

高瀬千尋「来て。早く。……出てる」

遠藤悠斗「え……」

高瀬千尋「雲海。今年、いちばんの」

慌てて着物をひっかけて、千尋さんに手を引かれるまま、峠の展望台へ走った。冷たい空気が、頬を刺す。そして――そこで見たものに、僕は、息を呑んだ。

谷が、すべて、雲で埋まっていた。

足元から、地平線の果てまで、真っ白な雲の海。その海の向こうから、ちょうど今、太陽がのぼろうとしていた。空が、藍から桃へ、桃から金へと、刻一刻と燃えていく。やがて、最初の光が、雲の海の縁に、差し込んだ。

その瞬間――白かった雲海が、一気に、金色に、染まった。

遠藤悠斗「……うわ……」

高瀬千尋「……でしょ」

声が、出なかった。あの夜、仮眠室のスマホで見た一枚の写真。あれを、何倍も超えていた。雲が、生きているみたいに、ゆっくりと谷を流れていく。その流れの上を、光が、刻一刻と、滑っていく。

これが、本物の夜明けだった。

高瀬千尋「……当たったね。今年いちばんの、雲海」

遠藤悠斗「……ちゃんと、読んでたんだ。昨日の、葉の湿りと、風で」

高瀬千尋「うん。……でも、ちょっとだけ、自信なかった。外したら、あなたに、かっこ悪いなって」

千尋さんが、白い息を吐いて、はにかんだ。金色の光が、彼女の頬を、横から照らしている。雲海そのものより、僕は、その横顔から、目を離せなかった。

11. また、この峠で

二人で、毛布を巻いたまま、雲海を見ていた。

金色は、やがて、淡い水色へと変わっていく。谷の雲が、少しずつ、薄れ始める。今年いちばんの雲海が、目の前で、ゆっくりと、終わっていく。

高瀬千尋「ねえ、悠斗。東京、遠いよね」

遠藤悠斗「……まあ、車で、四時間は」

高瀬千尋「……私、ここ、離れられないの。祖父と、この茶屋が、あるから」

遠藤悠斗「……うん。知ってる」

千尋さんが、僕を見上げた。その目が、また、少し不安そうに揺れている。きっとこの人は、これまでも、雲海を見に来ては去っていく人たちを、何人も見送ってきたんだろう。空を読むのと同じくらい静かに、諦めることにも、慣れてきたんだろう。

だったら、僕が、ちゃんと言葉にしないと。

遠藤悠斗「千尋さん。俺、また来る。来月も、その次も」

高瀬千尋「……お客さん、として?」

遠藤悠斗「いや。……恋人として。雲海を見に、じゃなくて、千尋さんに会いに」

千尋さんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと、一粒こぼれた。金色の名残の光が、その雫を、きらりと光らせた。

高瀬千尋「……ずるい。雲海の前で、泣かせる気?」

遠藤悠斗「泣くなって。返事は?」

高瀬千尋「……うん。私も、悠斗のことが、好き♡ ……今日から、恋人ね♡」

そう言って、千尋さんが背伸びして、僕の唇に、ちゅっと軽くキスをした。雲の海の上で、太陽が、もうすっかり高くのぼっていた。

高瀬千尋「ふふ♡ 決まり♡ ……あ、でもね、悠斗」

遠藤悠斗「ん?」

高瀬千尋「次、来たら。今度は、あなたに、空の読み方、教えるから。覚悟して」

遠藤悠斗「えっ、俺、葉っぱの湿りなんて、全然わかんないけど」

高瀬千尋「ふふっ♡ 大丈夫。三年もあれば、覚えられる。……私と、一緒にね♡」

ちょうどそのとき、軽トラのエンジン音が、峠を上がってきた。寄り合いから帰ってきた源造さんだ。展望台に並ぶ僕らと、薄れゆく雲海を見て、源造さんは、すべてを察したみたいに、しわがれた声で笑った。

高瀬源造「ほう。今年いちばんの雲海と、ついでに、孫の春まで出たか。……まったく、よう当てるな、こいつは」

高瀬千尋「……もう。じいちゃん、余計なこと言わないで」

監視画面の赤と緑ばかり見て、何年も本物の夜明けの色を忘れていた僕は、一枚の写真に呼ばれるように、この峠まで来た。

そこで出会ったのは、機械を一台も使わず、風と匂いだけで空を読む――そんなふうに、目に見えないものを、ずっと黙って見つめ続けてきた、一人の女性だった。

これは、たまたまの二日なんかじゃない。きっと、何度でもこの峠に通って、二人で並んで、夜明けの色を数えていく、その始まりの朝だ。

― 終 ―


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