六月の、梅雨の晴れ間の火曜日。俺は、木曽谷を縫う中央西線の各駅停車に揺られて、山の奥へ奥へと運ばれていた。
俺、立花透(たちばな とおる)、二十九歳。都内の大手ハウスメーカーで、注文住宅の設計をしている。
注文住宅、とは言っても、実際にはほとんど決まったパーツの組み合わせだ。同じ規格の窓、同じ規格の階段、同じ規格の外壁。施主の顔も見ないまま、間取りのパターンを少しいじって、量産される家の図面を一日に何枚も引く。新人の頃に夢見ていた「人の暮らしを設計する仕事」とは、だいぶ違う場所に俺はいた。
立花透(……俺、最後に、いいなって思える家を描いたの、いつだっけ)
きっかけは、休憩室で同僚が見ていた一枚の写真だった。木造の二階家がびっしりと軒を連ねる、細長い宿場町。出格子の細い桟が、夕日を受けて、金色の縞を描いていた。
「中山道の奈良井宿だってさ。日本一長い宿場町」。同僚は何気なく言って、スマホをしまった。でも、俺はその縞模様の格子戸が、しばらく頭から離れなかった。あんなに緻密で、あんなに静かな木の仕事を、人間の手は本当にやっていたのか。
気づけば、観光協会のサイトで「奈良井宿 町並み散策ガイドツアー」をぽちっと押していた。平日開催、一人参加可、所要およそ半日。残った有休を、俺はためらわず一日ぶつけることにした。
特急を乗り継いで、最後は二両きりの各駅停車。窓を細く開けると、雨上がりの檜の匂いと、川の匂いが、どっと流れ込んできた。
*
奈良井の駅に降りると、空気がひんやりと澄んでいた。標高はもう千メートルを超えているらしい。改札を出てすぐ、宿場の入り口に、その町並みは始まっていた。
思わず、足が止まった。
通りの両側に、黒く煤けた木造の家が、見渡すかぎり軒を連ねている。二階がせり出した出梁(だしばり)造り。一階には、細い桟を隙間なく並べた千本格子。瓦ではなく、石を載せた板葺きの屋根。電柱が一本もなくて、視界のどこにも、現代が映り込まない。
立花透(……すごい。これ、全部、人が手で組んだのか)
図面でしか家を見てこなかった目に、その質感は、ほとんど暴力的だった。木の家がこんなに美しいなんて、俺は、ずっと忘れていた。
集合場所の案内所の前に、すでに何人かが立っていた。年配の夫婦と、写真を撮りに来たらしい若い男。みんな、思い思いに格子戸を眺めている。
そこへ、案内所の引き戸が、からりと開いた。
七尾凛「おはようございます。本日のガイドを担当します、七尾です」
よく通る、けれど穏やかな声だった。
紺色の作務衣のような上着に、動きやすそうな細身のパンツ。日に焼けた肌に、化粧っ気はほとんどない。後ろで無造作にまとめた黒髪から、ほつれた毛が一筋、頬にかかっている。歳は、たぶん俺と同じくらい。観光地のガイドにありがちな、貼りつけた笑顔がない。その代わり、町を見る目に、静かな熱があった。
立花透(……綺麗な人だ)
不意打ちみたいに、そう思った。
七尾凛「奈良井宿は、中山道のちょうど真ん中、六十九ある宿場の三十四番目です。木曽の山の中なのに、これだけの町が残ったのには、ちゃんと理由があります。……歩きながら、お話ししますね」
そう言って、七尾さんは、すっと先に立って歩き出した。
*
ツアーは、宿場の南の端から、ゆっくり北へ抜けていく道のりだった。
七尾さんの説明は、ガイドブックの棒読みとはまるで違った。
七尾凛「この格子、千本格子っていうんですけど。桟の太さも、隙間の幅も、家ごとに少しずつ違うんです。商家は外から中が見えにくいように細かく、職人の家は手元に光がほしいから広め、とか」
立花透「……え、家ごとに、意味が違うんですか」
七尾凛「はい。理由のないデザインって、昔の家には、ほとんどないんですよ」
理由のないデザインは、ほとんどない。
その一言が、規格のパーツを並べるだけの毎日に、ちくりと刺さった。俺は思わず、格子に顔を近づけた。
立花透「……ほんとだ。この家、桟がこっち側だけ細い。光、入れたかったのかな」
七尾凛「お客さん、いいところ見ますね」
七尾さんが、初めてこっちをまっすぐ見た。
七尾凛「もしかして、建築のお仕事ですか」
立花透「あ……はい。一応、設計を。ただ、こんな立派なもんじゃなくて。同じような家の図面を、毎日量産してるだけで」
七尾凛「ふふ。じゃあ、今日は、いい目の保養になるかもしれませんね」
その「いい目の保養」が、想像以上だった。
軒の出の深さ。二階のせり出しを支える腕木の角度。水路を流れる山の水。道の真ん中に置かれた、丸太をくり抜いた水飲み場。一つひとつに、七尾さんは理由と歴史を添えていく。俺は、いつのまにか、他の参加者より一歩前に出て、彼女の言葉を聞き逃すまいとしていた。
*
ツアーの途中、七尾さんは、一軒の漆器店に俺たちを案内した。
七尾凛「木曽は、漆の産地でもあるんです。せっかくなので、本物の仕事を見ていただこうと思って」
薄暗い土間の奥で、白髪の老人が、椀に漆を塗っていた。刷毛の一掃きが、ぞくっとするほど淀みない。
庄治さん「おう、凛ちゃん。今日はお客さん連れか」
七尾凛「庄治さん、すみません、お邪魔します。こちら、設計のお仕事をされてるそうで」
庄治さん「ほう。じゃあ、これ、わかるか。なんで木曽の漆は、こんなに丈夫だと思う」
立花透「……湿気、ですか。漆って、乾くのに湿度がいるって聞いたことが」
庄治さん「お、若いのにわかってるな。この谷の、じめっとした空気がいいんだわ。乾かそう乾かそうとすると、漆はかえって死ぬ。ゆっくり、じめじめ、待ってやる。それで強くなる」
待ってやると、強くなる。
庄治さんは、刷毛を止めずに、ふっと笑った。
庄治さん「凛ちゃんも、そうやって、この町に馴染んだクチだしな」
七尾凛「……庄治さん、その話はいいですから」
七尾さんが、めずらしく、少し慌てた顔をした。その横顔が、さっきまでの凛とした案内人とは違って見えて、俺は、もっとこの人のことを知りたくなった。
*
ツアーは、宿場の北のはずれで、いったん解散になった。年配の夫婦も、写真の青年も、満足げに駅の方へ戻っていく。
俺だけが、なんとなく、その場に残っていた。
七尾凛「……立花さん、でしたよね。帰りの電車、まだ時間あります?」
立花透「あ、はい。夕方まで、特に何も」
七尾凛「よかったら、ツアーじゃ通らない裏道、ご案内しましょうか。設計の人なら、たぶん、好きだと思う場所があって」
立花透「……ぜひ。お願いします」
我ながら、即答だった。
七尾さんは、ふっと口元をゆるめて、宿場の裏手の、細い石段を上り始めた。
*
裏道は、表通りの賑わいが嘘みたいに静かだった。
苔むした石段。傾いた板塀。誰も住まなくなった空き家の、外れかけた格子戸。七尾さんは、その一軒一軒を、まるで古い友人を紹介するみたいに語った。
七尾凛「私、三年前まで、東京で内装の仕事してたんです。商業施設の、流行りのデザインを、半年ごとに作っては壊して」
立花透「……あ、なんか、わかります。その、作っては壊す感じ」
七尾凛「ですよね。ある日、出張でこの町に来て。百年も二百年も、人がただ手をかけて、直して、住み継いできた家を見たら……なんか、自分の作ってたものが、急にむなしくなっちゃって」
石段の途中で、七尾さんは足を止めて、谷を見下ろした。
七尾凛「気づいたら、移住してました。今は、空き家になってた古い旅籠を一軒借りて、自分で少しずつ直しながら、小さな宿をやってます。ガイドは、その合間に」
立花透「……一人で、家を直してるんですか。あの規模の木造を」
七尾凛「無謀ですよね。庄治さんたちに、しょっちゅう怒られてます」
笑う横顔が、谷の光を受けて、やわらかかった。俺は、自分の話を、いつのまにかしていた。
立花透「……俺、たぶん、七尾さんが捨ててきた側の人間です。規格の家を、毎日、何枚も。施主の顔も見ないで」
七尾凛「……」
立花透「今日、ここの格子を見て、ちょっと、苦しくなって。俺、こういう仕事がしたかったはずなのにって」
七尾さんは、しばらく黙って、それから、静かに言った。
七尾凛「捨ててきた、なんて、思わなくていいと思いますよ。……立花さん、さっき、格子の桟の細さに、ちゃんと気づいたでしょう。理由を、読もうとしてた。あれ、誰にでもできることじゃないです」
胸の奥が、ことりと音を立てた気がした。
*
ちょうどその時、山の天気が、ふいに崩れた。
ぽつ、ぽつ、と大粒の雨が落ちてきたかと思うと、すぐに、ざあっと音を立てて夕立になった。木曽の谷の、激しいにわか雨だ。
七尾凛「わっ、来ちゃった。立花さん、こっち!」
七尾さんが、俺の腕を引いて、近くの軒下に駆け込んだ。深い出梁の軒が、ちょうど傘みたいに、雨をはじいてくれる。
立花透「……すごい降りだ」
七尾凛「木曽の夕立は、毎日のことなんです。でも、すぐ上がりますよ。……ほら、この軒の深さ。こういう日のために、昔の人は、軒を深く出したんです」
軒下は、二人並ぶと、肩が触れそうなくらい狭かった。
雨の匂い。濡れた檜と、漆と、土の匂い。七尾さんの髪から、ほつれた一筋が、まだ頬に張りついている。雨に濡れた肌が、ほんのり上気して見えた。
立花透(……近い)
心臓が、勝手に速くなる。七尾さんも、それに気づいたのか、ふと口数が少なくなった。雨音だけが、軒の下に満ちていた。
七尾凛「……立花さん」
立花透「はい」
七尾凛「私のガイド、楽しかったですか」
立花透「……今日、来て、よかったです。たぶん、何年ぶりってくらい」
七尾さんが、こっちを見上げた。雨の照り返しで、その瞳が、潤んで揺れているように見えた。
七尾凛「……私も。お客さんに、こんなふうに思うの、初めてです」
雨が、すうっと小降りになっていく。けれど、俺たちは、軒下から動けなかった。
*
夕立が上がると、宿場は、洗い立てみたいに濡れて光っていた。
石畳の水たまりに、暮れかけた空が映っている。観光客はもうほとんどいなくて、町は、本来の静けさを取り戻していた。
七尾凛「……立花さん。終電まで、まだ少しありますけど」
立花透「はい」
七尾凛「私の宿、寄っていきませんか。直しかけの旅籠、設計の人に、見てほしくて」
その誘いが、ただの建物見学でないことは、たぶん、お互いにわかっていた。俺は、こくりと頷いた。
七尾さんの宿は、表通りから一本入った、出梁造りの古い旅籠だった。重い格子戸を引くと、磨き込まれた土間と、黒光りする太い梁が迎えてくれた。
立花透「……うわ。すごい。この梁、栗ですか」
七尾凛「正解です。築百四十年。私がここに来た時は、埃だらけで、傾いてたんですよ」
立花透「これを、一人で……」
急な階段を上がると、二階は、客間に改装された和室だった。窓は、もちろん千本格子。外の常夜灯の灯りが、桟の隙間から、縞になって畳に落ちている。
七尾凛「ここが、いちばん好きな部屋なんです。この格子の影が、夜になると、こうやって……」
七尾さんが、畳に落ちた金色の縞を、指でそっとなぞった。その横顔を見ていたら、もう、止められなかった。
*
立花透「……七尾さん」
七尾凛「……凛で、いいです」
立花透「凛さん」
名前を呼ぶと、彼女が、ゆっくりとこっちを向いた。格子の影が、その頬を縞に染めている。
俺は、そっと手を伸ばして、頬にかかったほつれ毛を、耳にかけてやった。指先が、火照った肌に触れる。凛さんが、小さく息を呑んだ。
七尾凛「……立花さん、心臓、すごい音」
立花透「凛さんもでしょ」
七尾凛「……ばれてますね」
くすっと笑った唇に、俺は、ゆっくり自分の唇を重ねた。
ちゅ……。
雨上がりの、ひんやりした唇。けれど、すぐに、奥から熱がにじんできた。
七尾凛「ん……♡」
一度離して、もう一度。今度は少し深く。凛さんが、俺の作業着の袖を、きゅっと握った。
七尾凛「……ずっと、お客さんなのに、って、思ってたのに」
立花透「俺も。ガイドさんに、こんなこと、しちゃ駄目だって」
七尾凛「……もう、駄目じゃないです♡」
舌先で、そっと唇をなぞると、凛さんの口が、わずかに開いた。
れろ……ちゅ……ちゅるっ……♡
七尾凛「んむ……♡」
格子戸の縞の中で、しばらく抱き合っていた。やがて、凛さんが、潤んだ目で俺を見上げた。
七尾凛「……灯り、点けなくて、いいですか。この、格子の影だけで」
立花透「……うん。十分、綺麗だ」
*
作務衣の上着の、紐をほどく。前が、はらりと開いた。
下に着けた白い肌着の上から、胸のふくらみが、控えめに上下している。肩を抜かせると、想像していたより、ずっと華奢な体だった。日に焼けた腕と首筋に対して、肌着に隠れていた胸元は、驚くほど白い。
立花透「……綺麗だ。凛さん」
七尾凛「……あんまり、見ないでください。こういうの、久しぶりで……♡」
肌着の裾から手を入れて、背中のホックを探す。カチッ、と外すと、緊張がほどけて、形のいい胸がこぼれ出た。常夜灯の縞模様が、その白い肌の上を、ゆっくり横切っている。
右手で、そっと包むように触れた。
ふにっ。
七尾凛「あっ……♡」
手のひらに吸いつくような、やわらかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。淡い色の先端が、もう少し、硬くなっていた。
七尾凛「ん……っ♡ そんなに、優しくされると……♡」
親指で、先端をくりっと転がす。
七尾凛「ひゃっ♡♡」
びくん、と凛さんの肩が跳ねた。畳に手をついて、堪えるように、息を詰める。
唇を、その先端に落とした。ちゅっ。
七尾凛「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、もう片方を手のひらで包む。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
七尾凛「あっ♡ 声、出ちゃう……♡ 壁、薄いのに……♡♡」
立花透「我慢、しなくていい。今夜、客は俺だけなんでしょ」
七尾凛「……意地悪♡」
交互に舌を這わせると、凛さんの肌が、うっすら汗ばんで、檜と漆の匂いに、甘い匂いが混ざった。
*
立花透「凛さん、下も、いい?」
七尾凛「……うん♡」
細身のパンツのボタンを外して、下着ごと、ゆっくり引き下ろす。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。
立花透「……もう、こんなに」
七尾凛「やっ♡ 言わないで……キスの時から、ずっとなんです♡♡」
淡い花弁が、透明な蜜で、とろりと濡れていた。指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
七尾凛「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると円を描く。
くり……くり……♡
七尾凛「あぁっ♡♡♡ そこ、だめっ……♡♡♡」
立花透「だめじゃないだろ。気持ちいいんだろ」
七尾凛「だってっ♡ 立花さんの指、優しすぎるからっ♡♡」
蜜をかき混ぜながら、中指を、入り口にあてがった。
立花透「指、入れるよ」
七尾凛「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」
ずぷ……♡
七尾凛「あああっ♡♡♡」
ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きゅうきゅうと、締めつけてくる。中をかき回しながら、もう一本。
ずぷっ♡
七尾凛「ひぃっ♡♡♡ 二本、おっきい……♡♡」
二本の指を出し入れしながら、親指で、突起を同時に刺激する。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
七尾凛「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁を、ぐっと押す。
七尾凛「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」
凛さんの体が、びくびくと跳ね始めた。
七尾凛「やっ♡ 来る……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを、速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
七尾凛「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
凛さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締めつけて、蜜が溢れ出す。やがて、力が抜けたように、畳に沈み込んだ。
七尾凛「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの、初めて……♡♡」
*
潤んだ瞳で、凛さんが、ゆっくり身を起こした。まだ余韻に震えながら、いたずらっぽく、俺の作業着のベルトに手を伸ばす。
七尾凛「……今度は、私の番です。お客さんを、満足させないと♡」
立花透「それ、ツアーに含まれてないでしょ」
七尾凛「ふふっ♡ ……特別な、裏コースです♡」
ベルトを外して、下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。凛さんが、息を呑む。
七尾凛「……すごい♡♡ こんなになって……♡」
膝をついて、顔を近づけてくる。
ぺろ……。
先端を、舌先で、ちろっと舐めた。
七尾凛「ん……♡」
ちゅっ、と先端にキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。
七尾凛「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる凛さん。ほつれた髪が揺れて、上目遣いの瞳が、潤んでこっちを見ている。
立花透「凛さん……やば、気持ちよすぎ」
七尾凛「んふ♡ もっと、してあげます♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走った。
ずぷっ……ずぷっ……♡♡
立花透「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す凛さん。唇が、唾液で、てらてらと光っていた。
七尾凛「……だめ♡ まだ、イっちゃ、だめですよ♡」
*
いたずらっぽく笑う凛さんを、そっと畳に横たえた。財布から、コンドームを取り出す。
七尾凛「……ちゃんと、持ってたんですね」
立花透「いや、これは、その……一応」
七尾凛「ふふ♡ 責めてないです♡ ……つけて♡」
手早く装着して、凛さんの脚の間に、体を滑り込ませる。常夜灯の縞が、白い肌の上を、ゆっくり横切っている。先端を、入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
立花透「入れるよ、凛さん」
七尾凛「うん♡ 来て……ほしい♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
七尾凛「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」
きゅうきゅうと締めつけながら、奥へと引き込んでくる。
七尾凛「おっきい♡♡ おなかの中、いっぱいに……♡♡♡」
ずぷん♡♡
根元まで、収まった。下腹が、ぴたりと密着する。
七尾凛「はぁっ♡♡ 全部、入った……♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」
立花透「動くよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
パンっ♡
七尾凛「ああっ♡♡♡」
パンッ……パンッ……♡♡
リズミカルに、打ちつけ始める。
七尾凛「あっあっあっ♡♡♡ 立花さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
立花透「透で、いい」
七尾凛「……透さんっ♡♡♡」
名前を呼ぶと、凛さんが、俺の背中に、しがみついてきた。古い旅籠の畳が、軋む。肌と肌がぶつかる音が、格子の部屋に、静かに響いた。
パンパンパンッ♡♡♡
七尾凛「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
凛さんの脚が、俺の腰に絡みついてくる。もっと奥を、と求めるように。
立花透「凛さん、昼間は、あんなに凛としてたのに」
七尾凛「ふふっ♡ ……夜は、透さんに、ぜんぶ、案内されちゃう♡♡」
笑い合いながら、また腰を打ちつける。角度を変えて、突き上げると、結合部から、卑猥な水音が溢れた。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
七尾凛「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
立花透「俺も、もう……っ」
七尾凛「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イきたいっ♡♡♡♡」
凛さんが、両腕を背中に回して、しがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押しつけるように――最後の一突き。
七尾凛「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
立花透「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
七尾凛「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
凛さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
七尾凛「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。窓の格子からは、相変わらず、金色の縞が、二人の体の上に落ちていた。
*
繋がったまま、しばらく、お互いの心臓の音を聞いていた。やがて、凛さんが、くすっと笑う。
七尾凛「……透さん。さっき、まだ、元気でしたよね♡」
繋がった場所で、また硬くなり始めているのが、彼女にも伝わったらしい。
立花透「……凛さんが、よすぎて」
七尾凛「もう♡ ……今度は、私が、動きます♡」
新しいゴムに替えて、凛さんが、俺の上にまたがった。常夜灯の縞が、その華奢な体に、はらりとかかる。角度を調整して――
ずぷん♡♡
七尾凛「あっ♡♡♡ この格好、奥まで……入るっ♡♡♡」
ゆっくり、腰を上下させ始める。
ずぷ……ずちゅ……ずぷっ♡♡
七尾凛「ん♡♡ 自分で動くの、恥ずかしいのに……止まらないっ♡♡♡」
目の前で、白い胸が、格子の影を縞に纏って揺れる。両手を伸ばして、掴んだ。
むにゅっ♡♡
七尾凛「ひゃんっ♡♡♡ 揉んだら、動けなくなるっ♡♡♡」
立花透「いいから。動いて、凛さん」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
七尾凛「あっあっあっ♡♡♡ 奥っ……いい場所に、当たるっ♡♡♡♡」
凛さんが、腰を回すように動き始めた。ぐりんぐりんと、中をかき回される。
下から、突き上げる。
ずぷんっ♡♡♡
七尾凛「ひぁっ♡♡♡♡ 下から、だめっ♡♡♡」
凛さんの動きと、俺の突き上げが、いちばん奥で、ぶつかる。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡♡
七尾凛「だめっ♡♡♡ イくイくイくっ♡♡♡♡♡」
立花透「俺も、もう出る……っ!」
七尾凛「一緒にっ♡♡♡♡ また、一緒にっ♡♡♡♡♡」
ずぷんっ♡♡♡♡
最後の一突きを、奥に叩き込む。
七尾凛「イくぅぅっ♡♡♡♡♡♡」
どくんっ、どくっ、どくっ、どくっ……!
七尾凛「あぁぁぁっ♡♡♡♡♡ すごっ……♡♡♡ いっぱい……♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡♡
凛さんが、力を失って、俺の胸に倒れ込んできた。汗ばんだ体を、ぎゅっと抱きとめる。
七尾凛「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……最高、でした……♡♡♡♡」
立花透「俺も。凛さん」
ちゅ、と汗ばんだ額にキスをした。窓の外、雨上がりの宿場は、しんと静まり返って、常夜灯だけが、ぽつぽつと灯っていた。
*
――朝。
格子戸の隙間から差し込む光で、目が覚めた。隣で、凛さんが、まだ俺の腕の中で眠っている。ほつれた髪が頬にかかって、寝顔が、とんでもなく無防備だった。
すぅ……すぅ……。
立花透(……夢じゃ、なかった)
そっと身を起こして、格子窓の外を見た。朝靄の中、奈良井の宿場が、洗い立てみたいに濡れて、檜の屋根から、白い湯気みたいなものが立ち上っていた。昨日、この町を、二人で歩いたのだ。
七尾凛「ん……♡ 透さん……?」
凛さんが、目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。
立花透「おはよ。凛さん、見て。町、朝靄で、すごい綺麗だ」
凛さんが、格子窓に身を寄せて、目を細めた。
七尾凛「……朝のこの町、いちばん好きなんです。観光客が来る前の、しんとした時間」
立花透「……綺麗だ」
七尾凛「町でしょう?」
立花透「……いや。凛さんが」
凛さんの頬が、ぽっと赤くなった。
七尾凛「……朝から、それ、反則です♡」
そう言いながら、俺の腕に、そっと自分の腕を絡めてきた。並んで格子窓の前に立って、朝の宿場を眺める。しばらくして、凛さんが、ぽつりと言った。
七尾凛「ねえ、透さん。東京、遠いですよね」
立花透「……まあ、木曽の山ん中だしな」
七尾凛「……でも、私、待つの、得意なんです。家を直すのも、漆が乾くのも、ぜんぶ、待つ仕事だから」
凛さんが、こっちを見上げて、にっこり笑った。
七尾凛「庄治さんが言ってたでしょう。待ってやると、強くなるって。……だから、透さんが、また来てくれるのも、待てます。……来て、くれますか」
俺は、その問いの意味を、ちゃんと理解した。これは、ただの一晩じゃない。続きの始まりだ。だったら、待たせるだけじゃなくて、こっちも、ちゃんと言葉にしないと。
立花透「凛さん。待たせるの、なんか、悔しいから言うけど」
七尾凛「……はい?」
立花透「俺、来月もまた来る。その次も。……凛さんに会いに。恋人として、ちゃんと通いたい」
凛さんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと一粒こぼれた。
七尾凛「……ずるい。朝から、泣かせる気ですか」
立花透「泣くなって。返事は?」
七尾凛「……はい。私も、透さんのことが、好きです♡ ……今日から、恋人ですね♡」
そう言って、凛さんが背伸びして、俺の唇に、ちゅっと軽くキスをした。
七尾凛「ふふ♡ 決まり♡ ……あ、でもね、透さん」
立花透「ん?」
七尾凛「恋人になっても、私のガイドは、手を抜きませんから。次は、漆塗りの体験も、ちゃんと案内します♡」
立花透「……はい、ガイドさん」
七尾凛「ふふっ、いい返事♡」
格子窓の外、朝靄が晴れていく宿場を、中山道が、どこまでもまっすぐに貫いていた。
代わり映えのしない図面に潰されかけて、衝動で押した、一件の予約。千本格子の縞に呼ばれるように、俺は、この谷まで来た。
その町を、誰よりも愛おしそうに語っていた人が――今、俺の隣で、朝靄みたいに澄んだ目をして、笑っている。
これは、たまたまの一日なんかじゃない。きっと、何度でもこの町を一緒に歩く、その始まりの日だ。
― 終 ―