春の健康診断で再検査を言い渡され、月に一度の保健指導で社内の健康管理室に通ううちに、食事記録を黙って見てくれる年上の産業保健師に惹かれ、再検査をクリアした初夏の夜に白衣を脱いだ彼女と結ばれた話

春の健康診断の結果が、デスクの封筒で届いたのは、四月の終わりだった。

僕、三崎透(みさき とおる)、三十歳。中堅の機械メーカーで、生産管理の仕事をしている。三年前に主任になってから、抱える工程も人も増えて、定時で帰った記憶がほとんどない。

封筒を開けて、結果表に並んだ数字を見て、思わず眉をひそめた。

血圧、上が百五十。肝機能のγ-GTPが基準値の倍。中性脂肪も赤字。体重は、入社の頃から十二キロ増えていた。

そして結果表のいちばん下に、赤いハンコで「要再検査・要保健指導」と押されていた。

三崎透(……保健指導って、なんだよ)

正直、面倒だと思った。コンビニ飯と栄養ドリンクで回してきた三年間の答えが、この紙きれなのだとしても、明日からまた現場は動く。数字をどうこうしている暇なんてない。そう思っていた。

健康管理室は、本社ビルの三階の隅にあった。

ふだんは通り過ぎるだけの、すりガラスのドア。ノックして入ると、消毒液と、かすかにハーブティーのような匂いがした。窓際に観葉植物。壁には身長計と、血圧計の置かれたデスク。白い、静かな部屋だった。

宮坂凪「三崎さん、ですね。お待ちしてました。どうぞ、おかけください」

白衣の女性が、立ち上がって迎えてくれた。

歳は、僕より少し上だろうか。後ろでひとつに束ねた黒髪。化粧は薄くて、けれど目元の涼しさが印象に残る人だった。胸の名札に、「産業保健師 宮坂」とあった。

三崎透「あの……すみません、正直、こういうの初めてで。何をされるんですか」

宮坂凪「されること、なんてないですよ。ふふ。……ちょっとお話しして、血圧を測るだけです。叱ったりは、しませんから」

その言い方が、妙に肩の力を抜かせた。

彼女は結果表を広げて、赤字の項目を、ボールペンの先で、ひとつずつ静かになぞった。責めるでもなく、ただ確かめるように。

宮坂凪「……三崎さん。最近、お夕飯、何時くらいに食べてます?」

三崎透「えっと……だいたい、二十二時とか、二十三時とか」

宮坂凪「何を、食べてますか」

三崎透「……コンビニの、唐揚げ弁当とか。あと、栄養ドリンクと」

言いながら、自分で情けなくなった。彼女は、ふっと小さく笑った。

宮坂凪「正直に言ってくれて、ありがとうございます。隠す人、多いんですよ。……じゃあ、血圧、測りましょうか」

腕にカフが巻かれて、しゅう、と空気が入っていく。きゅうっと締めつけられて、それから、ぷしゅう、とゆっくり緩んでいく。

宮坂凪「……上が、百四十八。緊張、してます?」

三崎透「いや……たぶん、いつもこんなもんです」

宮坂凪「そうですか。……三崎さん、ひとつだけ。今日は、よく来てくれましたね」

数字のことは、ひとつも責められなかった。ただ、来たことだけを、彼女は労ってくれた。

月に一度、保健指導で健康管理室に通うことになった。

正直、最初は気が進まなかった。けれど、宮坂さんとの面談は、想像していたものと、ぜんぜん違った。

宮坂凪「これ、よかったら使ってください。食べたもの、書くだけのノートです。写真でも、メモでも、なんでも」

渡されたのは、薄い手帳だった。カロリーを計算しろとも、何を食べるなとも言われなかった。ただ「書くだけ」。半信半疑で、僕はその夜から、食べたものを写真に撮って、貼るようになった。

二回目の面談で、僕はおそるおそる、その手帳を差し出した。一週間分の、コンビニ弁当と、カップ麺と、ときどきの居酒屋の写真。

宮坂さんは、それを一枚ずつ、黙ってめくった。咎める言葉を待っていた僕は、拍子抜けした。

宮坂凪「……火曜日の、このお弁当。サラダ、付けたんですね」

三崎透「あ……はい。なんか、書くと思うと、ちょっと気になって」

宮坂凪「いいことです。書くと、人は、見はじめるんですよ。自分のことを」

彼女は、手帳の余白に、細いきれいな字で、ひとことだけ書き添えた。「火曜、◎」。それだけだった。

三崎透「……宮坂さん、ぜんぜん怒らないんですね」

宮坂凪「怒って、数字が下がるなら、いくらでも怒りますけど。……下がらないので」

くすっと笑う、その横顔を見ていたら、なぜか、次の面談まで、ちゃんと書いてこようと思った。数字のためじゃなくて、この人に見せるために。

通ううちに、宮坂さんのことが、少しずつわかってきた。

健康管理室は、いつ行っても静かで、彼女はだいたい、窓辺の植物に水をやっているか、誰かの面談記録を書いているかだった。社員のあいだでは「健康管理室の宮坂さん」で通っていて、評判は、いいとも悪いとも聞かなかった。ただ、目立たない人だった。

ある面談の帰りぎわ、僕は雑談のつもりで訊いた。

三崎透「宮坂さんは、ずっと、こういうお仕事を?」

宮坂凪「……前は、病院の看護師でした。救急の」

三崎透「救急。……すごい、忙しそうですね」

宮坂凪「忙しかったです。やりがいも、ありました。……でも、運ばれてくる人を見ていて、思ったんです。倒れる前に、会えていたら、って」

彼女は、ボールペンをくるりと回して、窓の外を見た。

宮坂凪「働きすぎて、ある日ぱたっと倒れて、運ばれてくる。そういう人を、何人も見ました。みんな、それまでは元気に、ふつうに働いてたんです。……数字は、ずっと、警告を出してたのに」

三崎透「……」

宮坂凪「だから、倒れる前の人に、会える仕事がしたくて。それで、保健師になったんです。……健康管理室って、暇そうに見えるでしょう。でも私は、ここでみんなが暇でいてくれることが、いちばんいいんです」

その言葉が、胸に残った。

倒れる前の人に、会いたい。——僕は、彼女にとっての、その「倒れる前の人」なんだと、はじめて気づいた。だからこんなに、丁寧に見てくれるのか、と。

六月に入って、現場でちょっとした事故対応が重なった。

連日、終電。食事の写真を撮る余裕もなくて、手帳は白いままだった。気づけば、面談の予約をした水曜の朝、頭がぼんやりして、立ち上がるたびに視界がちかちかした。

それでも現場は動く。僕は無理を押して、午前の会議に出た。立ったまま資料を説明している途中で——ふっと、足元が抜けた。

戸田「おい、三崎? ……三崎! 大丈夫か!」

同期の戸田の声が、遠くで聞こえた。膝から崩れて、机の角に手をついた。意識はあったけれど、汗が止まらなくて、心臓だけがばくばくと走っていた。

気づいたら、僕は健康管理室のベッドに寝かされていた。窓のブラインド越しに、白い光。隣で、宮坂さんが、僕の手首を取って、脈を測っていた。

宮坂凪「……三崎さん。聞こえますか」

三崎透「……宮坂、さん」

宮坂凪「戸田さんが、運んでくれました。……血圧、上が百七十。寝不足と、脱水と、たぶん、ぜんぶです」

いつもの落ち着いた声が、ほんの少しだけ、硬かった。彼女は、冷たいタオルを僕の額にのせて、それから、ぽつりと言った。

宮坂凪「……間に合って、よかった」

その「間に合って」が、ただの社員の体調管理の話じゃないように、聞こえた。

三崎透「……すみません。せっかく、見ててもらってたのに」

宮坂凪「謝らないでください。……あのね、三崎さん」

彼女が、ベッドの脇の丸椅子に座って、僕の顔を、まっすぐに見た。

宮坂凪「私、あなたの数字を見てるんじゃないんです。あなたを、見てるんです。……だから、もう少しだけ、自分を大事にしてください。お願いです」

白衣の襟元から、彼女の鎖骨が見えた。いつも涼しい目元が、このときだけ、潤んでいた。

胸の奥で、ずっと締めつけられていたカフが、ぷしゅう、と緩む音がした気がした。

その日から、僕は、ちゃんと帰るようになった。

戸田にも工程を渡して、二十時には会社を出る。健康管理室でもらった食事の手帳を、また毎晩つけはじめた。宮坂さんに、もう二度と、あんな顔をさせたくなかった。

面談のたびに、数字は、少しずつ下がっていった。

宮坂凪「上が、百三十四。……三崎さん、すごい。下がってます」

三崎透「ほんとですか」

宮坂凪「ほんとです。中性脂肪も、たぶん、再検査、いけますよ」

彼女が、自分のことみたいに、嬉しそうに笑った。

帰りぎわ、僕は思いきって、ずっと気になっていたことを訊いた。手帳に貼った、いつかの定食屋の写真を指して。

三崎透「このお店、宮坂さんが教えてくれた、駅前の定食屋。……行ってみたら、すごくよくて。日替わり、毎週変わるんですね」

宮坂凪「あ、行ってくれたんですね。あそこ、私も、よく行くんです。一人で」

三崎透「……一人で?」

宮坂凪「ふふ。意外ですか。保健師だって、毎日自炊できるわけじゃ、ないんですよ」

白衣の彼女しか知らなかったから、「一人でごはんを食べる宮坂さん」を想像したら、急に、彼女が、ただの一人の人に見えた。同じように、夜にひとり、定食屋のカウンターに座る人。

そう思ったら、もう、月に一度の面談だけじゃ、足りなくなっていた。

再検査の日は、六月の半ば、よく晴れた日だった。

朝いちばんで近くのクリニックへ行って、採血をして、午後に結果が出た。血圧、肝機能、中性脂肪。赤字だった項目が、ぜんぶ、基準値の内側に戻っていた。

その足で、僕は健康管理室に寄った。報告したかったのは、会社じゃなくて、宮坂さんだった。

三崎透「宮坂さん。……これ、再検査の結果。ぜんぶ、クリアでした」

宮坂凪「……ほんとに?」

彼女は結果表を受け取って、一行ずつ目で追って、それから、両手で口元を覆った。涼しい目元が、みるみる潤んでいく。

宮坂凪「……よかった。ほんとに、よかった。三崎さん、がんばりましたね」

三崎透「宮坂さんの、おかげです。……ぜんぶ」

宮坂凪「私は、何も。書いて、戻ってきたのは、三崎さんですよ」

涙をぬぐって笑う彼女を見ていたら、言葉が、自然に口をついて出た。

三崎透「あの……宮坂さん。今日、これで、僕、保健指導、卒業ですよね」

宮坂凪「……そうですね。残念だけど、卒業です」

三崎透「だったら、もう、社員と保健師じゃ、ないですよね」

彼女が、はっと顔を上げた。僕は、心臓の音が聞こえそうなくらい緊張しながら、続けた。

三崎透「今夜、ごはん、行きませんか。……白衣じゃない、宮坂さんと」

健康管理室の時計が、こつ、こつ、と秒を刻んだ。彼女は、しばらく結果表を胸に抱えたまま、俯いて——それから、小さく、けれどはっきり、うなずいた。

宮坂凪「……じゃあ。白衣、脱いできます」

待ち合わせた駅前で、私服の宮坂さんは、別人みたいだった。

白衣の代わりに、薄手の夏のワンピース。ほどいた髪が、夜風に、さらりと揺れている。歩きながら、彼女は少しだけ、はにかんでいた。

宮坂凪「……変じゃ、ないですか。会社の人に、こんな格好」

三崎透「変じゃないです。……すごく、綺麗で。ちょっと、直視できないくらい」

宮坂凪「もう。……そういうの、面談では、言わなかったのに」

二人で、あの定食屋のカウンターに並んで座った。日替わりの焼き魚と、小鉢がいくつも並ぶ定食。彼女は、ビールを少しだけ飲んで、頬をほんのり染めた。

宮坂凪「……三崎さんと、こうしてごはん食べる日が来るなんて、思ってませんでした」

三崎透「僕もです。……最初、保健指導、面倒だって思ってたの、ばれてました?」

宮坂凪「ばれてましたよ。ふふ。でも、ちゃんと毎月来て、手帳も書いてくれて。……だんだん、面談の日が、楽しみになってたの、私のほうなんです」

カウンターの下で、彼女の指先が、僕の指に、そっと触れた。

宮坂凪「……ねえ、三崎さん。うち、ここから、歩いてすぐなんです」

三崎透「……え」

宮坂凪「見せたいものが、あって。……健康管理室の宮坂じゃない、私の、台所」

潤んだ瞳が、まっすぐ僕を見ていた。僕は、こくりとうなずいた。

宮坂さんの部屋は、駅から数分の、小さなマンションの一室だった。

きちんと片付いた、台所の広いワンルーム。彼女が冷蔵庫を開けると、中に、いくつものガラス容器が、整然と並んでいた。ひじきの煮物。蒸し鶏。野菜のマリネ。色とりどりの、作り置き。

宮坂凪「……これが、私の台所です。日曜に、まとめて作るんです。一人でも、ちゃんと食べたくて」

三崎透「……すごい。これ、ぜんぶ宮坂さんが」

宮坂凪「ふふ。人には『書くだけでいい』なんて言っておいて。自分は、こんなに必死で」

笑いながら、彼女が、ガラス容器のひとつを、そっと撫でた。

宮坂凪「……救急にいた頃、私、自分のごはんなんて、立ったまま五分で済ませてました。それで、私自身が、一回、倒れたんです。……だから今は、自分を、ちゃんと座らせて、食べさせてる」

それは、いつかの面談で聞いた話の、いちばん奥の部分だった。倒れる前の人に会いたかった彼女は、かつて、倒れた人だった。

僕は、後ろから、そっと彼女の肩に手を置いた。彼女の体が、びくっと、小さく震えた。

三崎透「……宮坂さん。今日は、座って食べてた?」

宮坂凪「……今日は。三崎さんと、座って、食べました」

三崎透「よかった。……ちゃんと、見てますからね。宮坂さんのこと、僕も」

振り返った彼女の目が、潤んでいた。いつも僕を見ていた人を、今度は、僕が見ている。

頬に手を添えると、彼女が、そっと目を閉じた。

ゆっくり、唇を重ねた。

ちゅ……。

ビールの、かすかな苦みと、やわらかい熱。触れたところから、じんと、全身に広がっていく。

宮坂凪「ん……♡」

一度離れて、もう一度、深く。彼女の手が、僕のシャツの胸元を、きゅっと握った。

ちゅ……んっ……ちゅる……♡

唇を食むと、彼女の口がわずかにほどけて、舌先が、おずおずと触れ合う。

れろ……ちゅ……んっ……♡

ぷは、と離れると、二人とも、息が上がっていた。

宮坂凪「……はぁ……♡ 三崎さん……」

三崎透「……止まれなくなりそうです」

宮坂凪「……止まらなくて、いいですよ。今日は、保健師じゃ、ないので」

その一言で、理性の糸が、ほどけた。

きちんと整えられたベッドに、彼女をそっと横たえる。窓から差す街灯の光が、白いシーツの上に、二人の影を落とした。

夏のワンピースのボタンを、ひとつずつ外していく。緊張で、指が少し震えた。

宮坂凪「……あんまり、見ないでください。明るいの、恥ずかしい」

三崎透「……無理です。綺麗だから」

前を開くと、シンプルな下着に包まれた胸が現れた。白衣の下に、こんなにやわらかなものを隠していたのかと、頭が痺れた。

ホックを外して、下着をずらす。街灯の光に、白い胸が、ふるりと浮かんだ。

三崎透「……綺麗だ」

宮坂凪「やっ……♡」

腕で隠そうとするのを、そっと外して、右手で包むように触れた。

ふにっ。

宮坂凪「あっ♡」

吸い付くような、やわらかい弾力。指を沈めると、むにっとはみ出す。先端を、親指でくりっと転がした。

宮坂凪「ひゃっ♡♡ んっ♡」

びくん、と体が跳ねる。先端が、指先で、みるみる硬くなっていく。唇を、胸の先に落とした。ちゅう♡

宮坂凪「あぁっ♡♡」

舌先で転がしながら、反対の胸を、ゆっくり揉みしだく。

ちゅるっ♡ れろ♡ ちゅう♡♡

宮坂凪「やっ♡♡ 声、出ちゃう……♡♡」

いつも冷静に脈を測っていた、あの落ち着いた人が、僕の手の中で、息を乱していく。そのギャップに、くらくらした。

ワンピースを脱がせ、最後の一枚に手をかける。下着の上から、そっと指で触れた。

すり……。

宮坂凪「んっ……!♡」

——じわり。薄い布越しに、熱と湿り気が、はっきり伝わってきた。

三崎透「……もう、こんなに」

宮坂凪「だって……ずっと、我慢、してたから……♡♡」

下着に指をかけて、ゆっくりずり下ろす。とろりと、蜜が糸を引いた。脚の間に体を滑り込ませ、白い太ももの内側にキスを落としながら、ゆっくり中心へ近づいていく。舌先で、そっと触れた。ちろ……。

宮坂凪「んあっ♡♡!」

彼女の腰が、びくんと跳ねた。

ちゅる……れろ……ちゅっ……♡

宮坂凪「あぁっ♡♡ そこ……だめ……♡♡」

宮坂さんの手が、僕の髪を、ぎゅっと掴む。小さな粒を舌先で見つけて、集中して転がした。

こりこり……ちゅっ……♡

宮坂凪「やっ♡♡♡ あっ、あっ……♡♡」

太ももを押さえて開かせながら、舌を動かし続ける。粒を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げた。

宮坂凪「——っ♡♡♡! だめっ、イっちゃ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」

彼女の背中が、弓なりに反った。細い全身が、びくびくと震えて、やがて、力が抜けたように、シーツに沈んだ。

宮坂凪「はぁ……はぁ……♡♡ ……三崎さん、上手、すぎ……♡」

潤んだ瞳で見上げて、彼女が体を起こした。僕のシャツのボタンに手をかけて、頬を赤らめながら囁く。

宮坂凪「……今度は、私が。診させて、ください」

張り詰めたものに、しなやかな指が、そっと添えられた。

宮坂凪「……すごい。こんなに……♡」

指が、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。脈を測るときの、あの繊細な指が、今は、まるで違う熱を持って動いていた。

宮坂凪「……口で、しても、いいですか」

上目遣いで訊いてくる表情が、艶っぽすぎて、声にならなかった。ちゅ、と先端にキス。ぺろ、と舐めて——ぱくりと口に含んだ。

ずぷ……。温かく濡れた口の中に、包まれる。

宮坂凪「ん……じゅる……♡ んちゅ……♡」

ゆっくり頭を上下させて、頬をすぼめて吸い上げる。

ちゅぱっ……じゅるるっ……♡

三崎透「……宮坂さん、やばい、気持ちよすぎる」

宮坂凪「ん……♡ もっと……♡」

ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えられるたび、全身に電流が走った。

三崎透「……ストップ。このままだと、出る」

ぷは、と口を離した彼女の唇が、唾液で濡れて、光っていた。

宮坂凪「……ふふ。脈、すごく速い。……上が、百八十くらい、ありそう♡」

三崎透「……宮坂さんの、せいでしょ」

彼女をベッドに引き上げて、財布から取り出したものを、手早く着ける。蜜で濡れた入り口に、先端をあてがった。

宮坂凪「……来て、ください。三崎さん」

三崎透「……いきます」

ゆっくり、押し入れていく。ずぷ……っ。

宮坂凪「んんっ……♡♡!」

温かい。きつい。中が、ぎゅうっと締め付けてくる。

宮坂凪「入って……きてる……♡♡ 奥まで……♡♡」

根元まで収まると、下腹部が密着した。少し動きを止めて、馴染ませてから、ゆっくり腰を引いて、また押し込む。

ずぷ……ずちゅ……♡

宮坂凪「あっ♡♡ んっ♡♡」

パン……パン……パン……。

宮坂凪「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ち、いい……♡♡」

ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から、卑猥な水音が響く。腰を掴んで、少しずつ、ペースを上げた。

パンパンパンパン……!

宮坂凪「あっあっあっ♡♡♡♡ そこっ♡♡ 奥に当たって……♡♡♡」

角度を変えて突き上げると——

宮坂凪「そこぉっ♡♡♡! いいとこ、です……♡♡♡」

宮坂さんの脚が、僕の腰に絡みついてくる。もっと奥を求めるように。

宮坂凪「もっと……♡ もっと、奥……♡♡♡」

静かな部屋の中、二人の息づかいと、肌のぶつかる音だけが、混じり合った。

パンパンパンパンパン……!!

宮坂凪「やばっ♡♡♡ また、来ちゃうっ♡♡♡ イっちゃう……♡♡♡♡」

三崎透「俺も……っ」

宮坂凪「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イきたい……三崎さん♡♡♡♡」

彼女が、僕の背中に両腕を回してしがみつく。脚も、ぎゅっと腰に絡んだ。奥に押し付けるように——最後の一突き。

宮坂凪「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

どくっ、どくっ、どくっ……!

宮坂さんの全身が震えて、中が痙攣するように、搾り取ってくる。

宮坂凪「はぁっ……♡♡♡ すごい……♡♡」

抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。繋がったまま、しばらく、互いの鼓動を聞いていた。

ゆっくり体を離すと、宮坂さんが横を向いて、とろけた瞳で僕を見た。

宮坂凪「……三崎さん。私、こういうこと……ずっと、なくて」

三崎透「……僕もです」

宮坂凪「ほんとに?」

三崎透「ほんとに。……宮坂さんだから、だと思う」

彼女が、ふにゃっと笑って、僕の胸に頬をつけた。整った部屋の、静かな夜だった。

宮坂凪「……ねえ。もう一回、しても、いいですか」

三崎透「……こっちのセリフです」

新しいものを着け終えると、今度は宮坂さんが、おずおずと、僕の上にまたがってきた。街灯の光に、しなやかな白い体が、浮かぶ。

角度を合わせて——ゆっくり、腰を落とした。

ずぷん♡♡

宮坂凪「あっ♡♡♡ この格好……奥まで、来る……♡♡♡」

三崎透「……っ、宮坂さん、それ……」

宮坂凪「ふふ……♡ 気持ち、いい……?♡」

彼女が、ゆっくり腰を上下させ始めた。

ずぷ♡ ずちゅ♡ ずぷっ♡♡

宮坂凪「ん♡♡ 自分で動くの……恥ずかしい……っ♡♡」

目の前で揺れる胸に、手を伸ばして、両方掴んだ。

むにゅっ♡♡

宮坂凪「ひゃんっ♡♡♡ 揉まないで……動けなくなる……♡♡♡」

三崎透「いいから、動いて」

ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡

宮坂凪「あっあっあっ♡♡♡ いい場所、当たってる……♡♡♡♡」

たまらず、下から突き上げた。

ずぷんっ♡♡♡

宮坂凪「ひぁっ♡♡♡♡ 下から、だめっ♡♡♡」

彼女の動きと、僕の突き上げが、いちばん奥で、ぶつかる。

パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡

ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

宮坂凪「だめっ♡♡♡ そこばっかり……っ♡♡♡ おかしくなっちゃう……♡♡♡♡」

宮坂さんが、僕の上に倒れ込んでくる。汗ばんだ胸が、僕の胸に押し付けられた。そのまま、ぎゅっと抱きしめて、下から激しく突き上げる。

パンパンパンパンッ♡♡♡♡

宮坂凪「あっあっあっ♡♡♡♡ また、来ちゃう……っ♡♡♡♡!」

三崎透「俺も……っ! 一緒に、イこう」

宮坂凪「うんっ♡♡♡ 一緒に……っ♡♡♡♡」

彼女が、僕の首にしがみつく。中が、きゅうきゅうと、リズミカルに締め付けてくる。奥に押し付けるように——最後の一突き。

宮坂凪「イくぅっ♡♡♡♡♡!!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

宮坂さんの全身が震えて、中が痙攣するように、搾り取っていく。

宮坂凪「はぁっ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡」

三崎透「……僕も。最高でした」

汗だくの体を重ねたまま、しばらく、抱き合っていた。窓の外で、初夏の夜風が、カーテンをふわりと揺らした。

しばらくして、宮坂さんが、僕の腕の中で、ぽつりと言った。

宮坂凪「……保健指導、卒業しちゃったら、もう、会えなくなるのかなって。……ずっと、それが、こわかったんです」

三崎透「……僕も、同じこと、考えてました」

僕は、彼女の髪を撫でながら、はっきり言った。

三崎透「宮坂さん。これからも、会いたいです。社員と保健師じゃ、なくて。……ちゃんと、付き合ってください」

宮坂さんが、顔を上げて、目を見開いた。それから、泣きそうな顔で、くしゃっと笑った。

宮坂凪「……うれしい。私も、ずっと、それを言ってほしかった」

三崎透「……いいんですか。会社の人と」

宮坂凪「ふふ。……倒れる前の人に、会いたかったんです。私。……でも、三崎さんには、倒れたあとも、ずっと会いたいって、思っちゃった」

ちゅ、と、彼女が僕の唇にキスをした。それから、冷蔵庫の、整然と並んだ作り置きを見て、いたずらっぽく笑う。

宮坂凪「……明日の朝ごはん、ありますよ。ちゃんと、座って、食べましょうね」

三崎透「……はは。それ、保健指導じゃないですか」

宮坂凪「ふふ。今日からは、ただの、おせっかいです」

それから、季節が一巡りした。

僕は、あいかわらず同じ会社で働いている。けれど、もう、フロアに最後まで一人で残ることは、ほとんどなくなった。仕事を、人に渡せるようになった。早く帰りたい場所が、できたからだ。

血圧は、すっかり落ち着いた。毎年の健康診断も、もう赤字はない。けれど、僕はいまでも、月に一度くらい、健康管理室のすりガラスのドアを、ノックする。

戸田「お前さ……もう再検査ないのに、なんで健康管理室、通ってんの?」

三崎透「……まあ、いろいろ。健康は、大事だから」

戸田は最後まで気づかなかったけれど、社内で僕らの仲を知っているのは、ほんの数人だ。

休みの朝、宮坂さんの——凪の台所で、二人で並んで、作り置きの朝ごはんを食べる。ガラス容器のひじきと、蒸し鶏と、彼女がその朝に焼いてくれた、だし巻き卵。

宮坂凪「透くん、ほら。ちゃんと座って。立って食べない」

三崎透「……はい。座ってます」

宮坂凪「ふふ。……いい子」

すっかり、僕の前でも、気を抜くようになった凪が、いたずらっぽく笑う。

あの春、赤いハンコの押された結果表を、面倒だと思った。倒れる前の人に会いたいと言った彼女に、僕は、ぎりぎりのところで、間に合ってもらえた。

腕に巻かれたカフが緩むみたいに、こわばっていた毎日が、少しずつ、ほどけていく。

数字は、人を、見てくれない。でも、数字の向こうから、ちゃんと僕を見てくれた人が、いま、目の前で、だし巻き卵を取り分けている。

初夏の朝の光が、整った台所と、二人の上に、やわらかく差していた。

― 終 ―


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