六月の、よく晴れた火曜日。俺、遠野巧(とおの たくみ)、三十一歳は、二両分しかないホームの端で、一両きりの古い気動車を待っていた。
先月、九年勤めた会社を辞めた。印刷会社の営業で、別に何かに潰されたわけじゃない。ただ、ある朝ふと、自分が次の十年も同じ得意先を同じ顔で回っている姿が、はっきり見えてしまった。それが、どうしても怖かった。
次の仕事は、まだ決めていない。退職金とわずかな貯金で、しばらくは食える。空いた時間で何をするでもなく、平日の昼間にぼんやりしているのが、思いのほか落ち着かなかった。
遠野巧「……どこか、行くか」
思い出したのは、子供の頃の記憶だった。
小学校に上がる前、祖父に一度だけ連れていってもらった、山あいのローカル線。霧見線(きりみせん)という。赤い一両きりの車両に揺られて、終点まで行って、また戻ってきた。それだけの旅。なのに、車窓を流れる青い谷と、祖父の煙草の匂いと、座席のざらついた感触を、なぜか今でも覚えている。
祖父はもう、十年も前にいない。
遠野巧(あの線、まだ走ってるのかな)
調べたら、まだあった。ただし、来年の春で廃止が決まっていた。一日の本数も、もう数えるほどしかない。
それを知った瞬間、俺は気づけば乗り換えアプリを開いて、明日の朝いちばんの特急を予約していた。
ホームに、ディーゼルのくぐもった音が近づいてくる。やがて、記憶の中とそっくりな、赤い一両きりの気動車が、ゆっくりと滑り込んできた。
*
乗客は、俺のほかに、地元の老人が二人だけだった。
発車のベルもない。運転士が振り返って確認して、扉が閉まる。がたん、と車体が揺れて、列車は山に向かって走り出した。
街を抜けると、すぐに景色が変わった。田植えを終えたばかりの水田が、空を映して光っている。やがて両側から山が迫ってきて、線路は川に寄り添うように、谷の奥へ奥へと分け入っていく。
新緑だった。
梅雨の晴れ間の、洗ったような緑。山肌のあらゆる種類の緑が、午後の光を受けて、むせ返るほどに濃い。窓を細く開けると、土と水と、青葉の匂いがどっと流れ込んできた。
遠野巧(……ああ、これだ)
座席のざらついた感触も、エンジンの振動も、子供の頃のままだった。祖父はあのとき、何を思ってこの線に俺を乗せたんだろう。聞いておけばよかったことが、今になって、いくつも胸に浮かんだ。
老人たちは途中の駅で、一人ずつ降りていった。気づけば、車内には俺だけになっていた。
列車は、無人の谷を、ことことと登り続けた。
1. 終点、奥霧駅
終点、奥霧(おくぎり)駅に着いたのは、午後二時を回った頃だった。
線路はそこでぷつりと終わっていた。車止めの向こうは、もう山だ。ホームに降りると、エンジンを切った列車が、生き物が息をつくみたいに、しん、と静かになった。
無人駅だった。改札もない。古い木造の駅舎が、ホームに面して建っている。瓦屋根の、こぢんまりとした建物。子供の頃の記憶よりずっと小さく見えるのは、俺が大きくなったからだろう。
その駅舎の引き戸に、手書きの木の札が下がっていた。「珈琲と焼き菓子 灯(あかり)」。
遠野巧「……カフェ?」
待合室を、誰かが店にしているらしい。ガラス越しに、暖かい色の灯りが見えた。次の上りの時刻表を見ると――出発は、夕方の五時十二分。あと三時間もある。
ちょうどいい。コーヒーでも飲んで、時間を潰そう。引き戸に手をかけると、思いのほか軽く、からから、と開いた。
望月灯里「いらっしゃ……わ、お客さん」
カウンターの奥から、女性が顔を上げた。少し驚いた顔をして、それからすぐに、ぱっと笑った。
望月灯里「すみません、つい。お昼過ぎると、もうほとんど人が来ないので」
立ち上がって、こちらへ出てくる。生成りのエプロンに、白いシャツの袖をまくっている。後ろで無造作に束ねた髪。化粧は薄いのに、笑うと目元がくしゃっとして、見ているこっちまで、つられて表情がほどけるような笑顔だった。
待合室の木のベンチはそのまま残されていて、その奥に、古い木のテーブルが三つ。窓辺には、欠けたコーヒーカップに挿した、野の花。壁の時計は、ことこと、と本物の振り子で時を刻んでいた。
望月灯里「お好きな席、どうぞ。今日は貸し切りです」
くすっと笑って、彼女は言った。その声が、静かな駅舎に、やけに澄んで響いた。
2. 一杯の珈琲
窓辺の席に座った。ガラスの向こうに、さっき乗ってきた赤い列車と、その先の山が見える。
望月灯里「コーヒー、自分で焙煎してるんです。深煎りと、中煎り、どっちにします?」
遠野巧「……じゃあ、深煎りで」
望月灯里「はい。焼き菓子、サービスでつけますね。レモンのパウンドケーキ、今日のうちに食べてほしくて」
豆を挽く音が、ごりごりと響く。やがて、店じゅうにいい匂いが満ちた。彼女が運んできたコーヒーは、湯気の立つ、深い色をしていた。一口飲むと、苦みのあとに、ふっと甘い余韻が残った。
遠野巧「……うまい。こんな山の上で、こんなちゃんとしたコーヒーが飲めるとは」
望月灯里「ふふ。うれしい。……でも、それ言ってくれる人も、もうすぐいなくなっちゃうんですけどね」
彼女は向かいの椅子の背に手をかけて、ちょっと寂しそうに笑った。
遠野巧「いなくなる?」
望月灯里「この店、今月いっぱいで閉めるんです。月末で」
窓の外の、線路の先を見ながら、彼女は続けた。
望月灯里「この線、来年の春で廃止でしょう。本数も、もうこれだけになっちゃって。お客さん、一日に数えるほどしか降りてこないんです。さすがに、もう……ね」
そう言って、彼女は胸元のエプロンを、軽く撫でた。
望月灯里「望月灯里(もちづき あかり)っていいます。二年前に、ここ始めたんです。この駅舎、取り壊すって話だったのを、私が借りて」
遠野巧「二年で、閉めるんですか」
望月灯里「……二年も、やれたほうかなって。意地みたいなものだったので」
潔く笑っているのに、その目の奥が、ほんの少しだけ濡れて見えた。俺は、自分の話を、つい口にしていた。
遠野巧「俺、先月、会社辞めたんです。九年勤めた」
望月灯里「えっ」
遠野巧「次も決めてなくて。……なんていうか、終わらせるって、勇気いりますよね」
灯里さんが、はっとした顔で俺を見た。それから、ふっと、肩の力が抜けたように笑った。
望月灯里「……そう。そうなんです。いるんですよ、ほんとうに」
3. 次の列車まで
話してみると、灯里さんは、もともとこの近くの町の出身だった。
望月灯里「高校出て、大阪に出たんです。十年くらい、ずっと向こうで。カフェで働いて、店長までやって」
遠野巧「ばりばりだ」
望月灯里「ばりばりでしたよ。でも、ある日ぜんぶ、いやになっちゃって。数字とか、回転率とか。コーヒー、好きだったはずなのに、味、わからなくなってて」
カウンターを片付けながら、彼女は淡々と話した。
望月灯里「帰ってきたら、この駅、無くなるって聞いて。子供の頃、おばあちゃんとよく乗ったんです、この線。……だから、なんか、ほっとけなくて」
俺は、自分がここに来た理由を話した。祖父と一度だけ乗ったこと。廃止を知って、いてもたってもいられなくなったこと。灯里さんは、カウンターに頬杖をついて、うんうん、と聞いていた。
望月灯里「おじいさんと、ですか。……いいなあ。そういうの」
窓辺に、一冊の古いノートが置いてあった。表紙に「駅ノート」と書いてある。何の気なしに開くと、降り立った旅人たちの、短い言葉で埋まっていた。「乗り納めに来ました」「祖母の故郷です」「いい珈琲でした」。
望月灯里「みんな、置いていってくれるんです。最後だからって、わざわざ遠くから」
ページをめくる俺の手元を、灯里さんが、隣からのぞき込んでいた。
遠野巧「俺も、帰りの列車まで、まだ三時間あるんですけど」
望月灯里「ありますね」
遠野巧「この駅のまわり、何かありますか。せっかく来たので」
灯里さんは、少し考えて、それから、いたずらっぽく目を細めた。
望月灯里「……じゃあ、案内します。どうせ、今日はもうお客さん、来ないので」
エプロンを外して、引き戸に「散歩中」の札を下げる。彼女が外に出ると、新緑の光が、その輪郭をまぶしく縁取った。
4. 廃線跡を歩く
駅の裏手から、線路と並んで、細い道が川沿いに続いていた。
望月灯里「ここ、昔はもう一駅、先まで線路があったんです。それが廃止になって、線路を剥がして、遊歩道にしたの」
足元には、レールの枕木だった石が、点々と残っていた。歩くたびに、足の裏で時間の名残を踏んでいる気がした。
川は、新緑を映して、青くきらめいていた。瀬の音が、絶え間なく耳に届く。灯里さんは慣れた足取りで、川辺の岩を飛び石みたいに渡っていく。
望月灯里「こっち、こっち。見せたいものあるんです」
少し川上に、小さな淵があった。水がたまって、深い緑色をしている。その上に、山の桜が――もう花は終わっていたけれど――枝を大きく差しかけていた。
望月灯里「春は、ここ、桜が散って、水の上が花びらだらけになるんです。私、それが見たくて、店、春まで続けたかったんですけどね」
水面を見つめる横顔が、瀬の音の中で、ふいに遠くなった。
遠野巧「……来年の春も、見られますよ。店が無くても、ここは無くならない」
望月灯里「……そう、ですよね」
彼女は、こっちを振り返って、ちょっと笑った。
望月灯里「遠野さん、優しいですね。……というか、終わらせた人の言葉だから、なのかな」
遠野巧「……どうだろう。俺も、まだ自分の決断、正しかったのかわかってないんで」
望月灯里「ふふ。じゃあ、おそろいですね」
風が、谷を吹き抜けた。青葉が、いっせいにざわめいて、川面に光のかけらをまき散らした。並んで立っていると、彼女の腕が、俺の腕に、ほんの少しだけ触れた。離れなかった。
5. 高台の夕暮れ
遊歩道を引き返して、灯里さんは今度は、駅の裏山へ続く石段を登り始めた。
望月灯里「もうひとつだけ。いちばんいいところ」
息を切らして登りきると、そこは、神社の小さな境内だった。木立が途切れて、谷ぜんたいを見下ろせる高台になっている。
ちょうど、日が傾き始めていた。
谷を埋める新緑が、夕日を浴びて、金色に燃えていた。その底を、川が一筋、光りながら流れている。さっきまで歩いていた廃線跡も、駅舎の瓦屋根も、玩具みたいに小さく見えた。
遠野巧「……すごい」
望月灯里「でしょう。私、ここが、世界でいちばん好き」
二人で、石段に並んで腰を下ろした。
望月灯里「大阪にいた頃、しんどくなると、いつもここを思い出してたんです。……でも、帰ってきて、店も閉めることになって。なんか、私、また何かから逃げただけなのかなって」
遠野巧「逃げてないでしょう。二年、ちゃんとやったんだ」
望月灯里「……」
遠野巧「俺、今日、ここに来てよかった。子供の頃の景色、まだあって。それを大事にしてる人が、いて」
灯里さんが、こっちを見た。夕日に染まった頬が、赤いのか、照れているのか、わからなかった。
そのとき、谷の底から、ぼおっと、列車の警笛が長く響いた。
望月灯里「……あ」
遠野巧「今の、まさか」
望月灯里「……五時十二分。最終、出ちゃいましたね」
俺は、思わず笑ってしまった。腕時計は、とっくに五時半を回っていた。話に夢中で、すっかり忘れていた。
望月灯里「ど、どうしよう。私が連れ回したから」
遠野巧「いや。……逃したかったのかも、俺」
口が滑った。言ってしまってから、心臓が跳ねた。灯里さんは、何も言わなかった。ただ、石段についた俺の手のすぐ隣に、彼女の手が、そっと近づいてきていた。
谷ぜんたいが、ゆっくりとオレンジに沈んでいった。
6. 霧の宿の夜
望月灯里「……うち、泊まってもらうわけにもいかないし。一軒だけ、民宿があるんです。電話してあげます」
高台を降りながら、灯里さんは少し慌てたように言った。
民宿は、駅から歩いて数分の、古い木造の家だった。「霧の宿」と染め抜かれた暖簾をくぐると、奥から、日に焼けた顔の主人が出てきた。
鷲尾さん「おう、あんたかい。灯里ちゃんが言うてた、終電逃した兄ちゃんは」
遠野巧「あ、はい。遠野です。急にすみません」
鷲尾さん「ええよええよ。この時期、平日に来る物好きなんぞ、めったにおらん。歓迎じゃ」
主人の鷲尾(わしお)さんは、からからと笑った。通された部屋は、川に面した、こぢんまりとした和室。窓を開けると、瀬の音が、ざあざあと部屋に満ちた。
夕飯は、一階の囲炉裏端で出してくれた。山菜の天ぷら、川魚の塩焼き、炊き込みご飯。灯里さんも、当たり前みたいに一緒に膳を囲んでいた。
鷲尾さん「灯里ちゃんもなあ、大阪から帰ってきて、二年。あの駅、あの子がおらんかったら、とっくにただの物置じゃ」
望月灯里「鷲尾さん、もう。やめてください」
鷲尾さん「ええじゃないか。……兄ちゃん。あの子の店な、今月で閉まるんよ。知っとるか」
遠野巧「……はい。聞きました」
鷲尾さんは、ぐい飲みの酒をすすって、しみじみと言った。
鷲尾さん「終わるもんは、終わる。それでええんよ。……けどな、終わったあとに、何が残るかは、人による」
そう言って、いたずらっぽく俺たちを見比べた。
鷲尾さん「今日、二人で、ずいぶん長いこと、山ん中うろついとったらしいなあ?」
望月灯里「な、なんで知ってるんですか」
鷲尾さん「この谷は狭いんよ。なんでも筒抜けじゃ」
からから笑って、鷲尾さんは立ち上がった。奥に消える前に、ひとこと。
鷲尾さん「ゆっくりしていき。……灯里ちゃんも、たまには、夜くらい遅うなってええんよ」
7. 灯る駅
夕食のあと、灯里さんと二人、夜の駅まで歩いて戻った。
谷の夜は、街の夜とはまるで違った。街灯は、駅前に一つきり。空には、信じられない数の星が、降ってきそうに瞬いていた。瀬の音だけが、ずっと響いている。
灯里さんが、暗い駅舎の引き戸を開けて、中の灯りをつけた。窓から漏れる暖かい色の光が、無人のホームを、ぽつりと照らした。
望月灯里「……夜の駅、見せたかったんです。誰もいないのに、灯りだけついてて。私、これがいちばん好きで」
遠野巧「……きれいだ」
望月灯里「店の名前、これなんです。『灯』。誰も乗り降りしない駅でも、灯りがついてたら、誰か、ほっとするかなって」
俺たちは、ホームのベンチに並んで腰かけた。肩が、すぐ近くにある。
望月灯里「……遠野さん。明日は、ちゃんと帰っちゃうんですよね」
遠野巧「……一応、帰る場所は、あるので」
望月灯里「……ですよね」
少し、沈黙。灯里さんが、膝の上で、手をきゅっと握った。
望月灯里「……旅の人に、こんなこと言うの、よくないってわかってるんですけど」
遠野巧「……はい」
望月灯里「……今日、すごく、楽しかったんです。この二年で、いちばん」
星明かりが、潤んだ瞳に映っていた。俺は、もう我慢できなかった。彼女の頬に、そっと手を添える。
遠野巧「……俺もです。灯里さん」
灯里さんが、ゆっくり目を閉じた。俺は、その唇に、自分の唇を重ねた。
ちゅ……。
夜風の匂いがする、柔らかい唇だった。
望月灯里「……ん♡」
触れるだけのキスから、少しずつ深く。角度を変えて、もう一度。灯里さんの手が、俺のシャツの裾を、きゅっと掴んだ。
望月灯里「……遠野さん♡」
遠野巧「巧、でいいです」
望月灯里「……巧、さん♡」
潤んだ目で、彼女が俺を見上げた。
望月灯里「……宿、戻りましょう♡」
8. 瀬の音の中で
霧の宿の和室に、二人で戻った。窓を細く開けると、瀬の音と、夜の冷たい空気が入ってくる。布団は、もう二組、並べて敷いてあった。鷲尾さんの仕業に違いなかった。
望月灯里「……鷲尾さん、絶対わかってましたね♡」
遠野巧「……だな」
笑い合って、それから、また唇を重ねた。今度は、もっと深く。舌先で唇をなぞると、灯里さんの口が、そっと開いた。
ちゅ……んちゅ……れろ……♡
望月灯里「ふ……ぁ……♡」
腰に腕を回して、引き寄せる。シャツ越しに、彼女の体温と、速い鼓動が伝わってきた。
望月灯里「……巧さんの心臓、すごい音♡」
遠野巧「灯里さんもだろ」
望月灯里「……ばれた♡」
くすっと笑う唇を、もう一度ふさいだ。畳の上にゆっくり倒れ込んで、白いシャツのボタンを、ひとつずつ外していく。
遠野巧「脱がせて、いい?」
望月灯里「……うん♡」
シャツを開くと、白い肌と、淡い色のブラジャーが現れた。背中に手を回して、ホックを外す。かちっ、と緩んで、形のいい胸が、ふるりとこぼれ出た。先端は、ほんのり桜色。
遠野巧「……綺麗だ」
望月灯里「……あんまり、見ないでください♡ 恥ずかしい♡」
腕で隠そうとする手を、そっとどける。右手で、胸を包むように触れた。
ふにっ。
望月灯里「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような、柔らかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。親指で、先端をくりっと転がした。
望月灯里「ひゃっ♡♡」
びくん、と肩が跳ねる。もう小さく硬くなった先端が、指先に伝わった。
くりくり……くりくり……♡
望月灯里「あっ♡ あん♡♡ 巧さんっ……♡♡」
唇を、先端に落とす。ちゅっ。
望月灯里「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
望月灯里「やっ♡♡ 声、出ちゃう……♡♡ 瀬の音より、大きくなっちゃう♡♡」
遠野巧「いいよ。ここ、川しか聞いてない」
望月灯里「むりぃ♡♡ 巧さんの舌、気持ちよすぎて♡♡」
交互に舌を這わせて、たっぷりと味わった。灯里さんの肌が、うっすら汗ばんでくる。
遠野巧「下も、脱がすよ」
望月灯里「……うん♡」
スカートのホックを外して、ショーツをゆっくり脱がせていく。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。
遠野巧「……もう、濡れてる」
望月灯里「やっ♡ 言わないで……♡ 高台で、手が触れたときから、ずっと……♡♡」
指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
望月灯里「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹でくるくると円を描く。
くり……くり……♡
望月灯里「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」
遠野巧「だめじゃないだろ。気持ちいいんだろ?」
望月灯里「だってっ♡ おかしくなっちゃう♡♡」
蜜をかき回しながら、中指を、ゆっくり沈めた。
ずぷ……♡
望月灯里「あああっ♡♡♡」
熱い。きつい。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、親指で突起を同時に刺激した。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
望月灯里「あっあっあっ♡♡♡ 巧さんっ……すごいっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁をぐっと押す。灯里さんの体が、びくびくと跳ね始めた。
望月灯里「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
望月灯里「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
灯里さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。
望月灯里「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの……♡♡」
9. ひとつになる
潤んだ瞳で、灯里さんが身を起こした。まだ余韻で震えているのに、真っ赤な顔で、いたずらっぽく笑う。
望月灯里「……今度は、私の番♡」
俺のベルトに手を伸ばす。下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。灯里さんが、息を呑む。
望月灯里「……おっきい♡♡」
顔を近づけて、先端を舌先で、ちろっと舐めた。
望月灯里「ん……♡」
ちゅっ、とキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。
望月灯里「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる。束ねていた髪がほどけて、さらりと太ももをくすぐった。上目遣いの、潤んだ瞳。
遠野巧「灯里さん……やばい、気持ちよすぎ」
望月灯里「んふ♡ もっと、してあげる♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走った。
遠野巧「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す。唇が、唾液でてらてらと光っていた。
望月灯里「……ねえ、巧さん♡」
遠野巧「ん?」
望月灯里「……もう、ひとつになりたい♡」
財布から、コンドームを取り出す。
望月灯里「……持ってたんだ?」
遠野巧「いや、これは、その……一応」
望月灯里「ふふ♡ いいよ、責めてない♡ ……つけて♡」
手早く装着して、灯里さんを布団に仰向けにした。窓から差し込む星明かりに、白い裸体が、淡く青く輝いている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
遠野巧「入れるよ、灯里さん」
望月灯里「うん♡ 来て……♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
望月灯里「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
ずぷん♡♡
望月灯里「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」
遠野巧「動くよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
望月灯里「ああっ♡♡♡」
リズミカルに、打ちつけ始める。窓の外の瀬の音に、肌のぶつかる音が重なった。
パンッ……パンッ……♡♡
望月灯里「あっあっあっ♡♡♡ 巧さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
灯里さんが、俺の背中にしがみついてくる。
望月灯里「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
脚が、俺の腰に絡みついた。もっと奥を求めて。角度を変えて、突き上げる。
パンパンパンッ♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
望月灯里「そこぉっ♡♡♡♡ 声、出ちゃうっ♡♡♡」
遠野巧「いいよ。聞かせて」
望月灯里「やだぁっ♡♡ でも、止まんないっ♡♡♡」
結合部から、卑猥な水音が溢れた。谷の瀬の音が、それを優しく隠してくれる。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
望月灯里「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
遠野巧「俺も、もう……っ」
望月灯里「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこっ……♡♡♡♡」
灯里さんが、背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。
望月灯里「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
遠野巧「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
望月灯里「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
灯里さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
望月灯里「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。窓の外で、瀬が、ずっと静かに鳴り続けていた。
10. 朝の駅
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めた。
灯里さんは、まだ俺の腕の中で眠っている。ほどけた髪が頬にかかって、寝顔が、とんでもなく無防備で可愛い。
すぅ……すぅ……。
遠野巧(……夢じゃ、なかった)
窓を開けると、谷の朝が見えた。新緑に、朝霧がうっすらとかかっている。鳥の声と、瀬の音だけ。空気が、冷たく澄んでいた。
望月灯里「ん……♡ 巧さん……?」
灯里さんが目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。俺の腕の中で、目を細めて笑う。
望月灯里「……おはようございます」
遠野巧「おはよう。……今日は、さすがに帰らないと」
望月灯里「……ですよね」
ちょっと寂しそうに、灯里さんが目を伏せた。俺は、ゆうべからずっと考えていたことを、言葉にした。
遠野巧「灯里さん。……旅先の出会いで、終わらせたくないんだ、俺」
望月灯里「……え」
遠野巧「店、月末で閉めるんですよね。……その最後の日、また来ていいですか。いや、それまでにも、何度でも」
灯里さんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと一粒こぼれた。
望月灯里「……いいん、ですか? 私、この谷から、出られないのに」
遠野巧「出なくていい。俺が来る。……それに」
俺は、彼女の手を握った。
遠野巧「次の仕事、まだ決めてないって言ったでしょう。……正直、こういう場所で、何か始めるのも、ありかもって思い始めてる。いきなりすぎ?」
望月灯里「……いきなりすぎます♡」
笑いながら、灯里さんが泣いていた。
望月灯里「でも……うれしい。私も、巧さんと、もっと一緒にいたい」
遠野巧「……付き合ってくれる?」
望月灯里「……はい。今日から、恋人ですね♡」
灯里さんが背伸びして、俺の唇に、ちゅっと軽くキスをした。
*
霧の宿で朝飯を食べると、鷲尾さんが、味噌汁をよそいながら、にやにやしていた。
鷲尾さん「あらまあ、お二人さん。よう眠れたかい?」
遠野巧「……おかげさまで」
鷲尾さん「ふふ。終わるもんのあとに、何が残るか、言うたじゃろ。……ええもんが、残ったみたいじゃな」
奥霧駅まで、灯里さんが見送りに来てくれた。朝いちばんの、赤い一両きりの気動車が、ホームに入ってくる。
乗り込む間際、彼女が言った。
望月灯里「巧さん。……月末、ほんとに来てくれますか」
遠野巧「行きます。……それまでにも、何度でも。終点まで、また乗り通して」
望月灯里「もう♡」
笑って手を振る灯里さんが、新緑の谷を背に、どんどん小さくなっていく。
会社を辞めて、行き場をなくして、子供の頃の記憶だけを頼りに飛び乗った、廃止間近の一両きりの列車。その終点で、もうすぐ閉まる小さな駅舎の灯りをともしていた人が――今、俺の恋人だ。
終わるもののあとに、何が残るか。鷲尾さんの言葉が、ことことと揺れる車内で、ずっと胸に響いていた。
デッキの窓から振り返ると、朝霧の晴れていく谷の奥で、奥霧駅の駅舎が、青葉の中にぽつんと光っていた。
― 終 ―