人付き合いに疲れて二年の冬を持て余していた僕が、古い校舎の屋上でひとり望遠鏡を覗く先輩につられて入った廃部寸前の大学天文部で、無口なその四年の先輩に星の見方を教わるうちに惹かれ、ふたご座流星群を追って登った雪の観測小屋で結ばれた話

1. 屋上の人

十二月の、よく晴れた夕方だった。

二宮樹(にのみや いつき)、二十歳。大学二年。僕はそのとき、構内のいちばん古い校舎の、いちばん上の階の廊下を、あてもなく歩いていた。

理由なんてなかった。ただ、まっすぐ下宿に帰る気になれなかっただけだ。

大学に入ったら、何かが変わると思っていた。サークルにも入ってみた。バイトも始めた。でも、どこにいても、輪の中心で笑っている連中と、自分とのあいだに、薄いガラスが一枚あるみたいだった。気づけば僕は、人の多い場所から、少しずつ足が遠のいていた。

その日も、講義のあと、行き場のない時間を持て余して、誰も来ない古い校舎まで来てしまった。階段の先に、「屋上」と書かれた、錆びた鉄の扉がある。ふだんは閉まっているそれが、その日はなぜか、細く開いていた。

風が、隙間から流れ込んでくる。冷たい。けれど、その向こうの空が、夕暮れの濃い藍色に染まりかけていて、僕は、吸い寄せられるように、扉を押した。

屋上に、人がいた。

一人の女性が、三脚に据えた望遠鏡を、じっと覗き込んでいた。厚手のダッフルコートに、ぐるぐる巻いたマフラー。膝まである黒髪を、コートの襟の中にしまっている。こちらに背を向けて、微動だにせず、ただ、空の一点を見ていた。

二宮樹(……なんだ、この人)

声をかけるのも、引き返すのも、できなかった。僕は、扉のところで、立ち尽くしていた。

やがて、彼女が、ふっと顔を上げた。振り返って、僕に気づく。けれど、驚いた様子もなく、感情の読めない目で、僕をしばらく見た。

真壁千秋「……天文部に、入りたい人?」

二宮樹「え」

真壁千秋「違うなら、扉、閉めて帰って。冷気が入ると、レンズが曇るから」

淡々とした、低い声だった。にこりともしない。それなのに、なぜか、突き放された感じはしなかった。

僕は、なぜか、嘘をついた。

二宮樹「……入りたい、です」

自分でも、なんでそう言ったのか、わからなかった。

2. たった一人の部員

その人は、真壁千秋(まかべ ちあき)と名乗った。

四年生。天文部の、部長だった。

真壁千秋「入部届、ここに名前書いて。……まあ、もう、形だけだけど」

二宮樹「形だけ、って」

真壁千秋「うちの部、今、部員、私一人なの」

差し出された入部届の名簿を見て、僕は言葉を失った。在籍者の欄に、真壁千秋、の一行だけ。あとは、線を引いて消された、卒業生たちの名前が、ずらりと並んでいる。

真壁千秋「五年前までは、十人くらいいたんだって。私が一年のときには、もう三人。二年で二人。三年で、私だけになった」

二宮樹「……一人で、ずっと?」

真壁千秋「うん。一人で、部室の鍵、開けて。一人で、望遠鏡、出して。一人で、空、見てた」

彼女は、淡々と言った。寂しそうでも、なんでもない口ぶりだった。だからこそ、その言葉が、妙に、胸に刺さった。

二宮樹「なんで、やめなかったんですか。一人なら、別に……」

真壁千秋「この望遠鏡を、ほっとけなかったから」

真壁さんは、屋上の望遠鏡に、そっと手を置いた。年季の入った、白い鏡筒。あちこち塗装が剥げて、けれど、レンズだけは、磨き抜かれて澄んでいた。

真壁千秋「この子、私が生まれるより前から、ここにいるの。歴代の部員が、みんなで守ってきた。……私の代で、放り出すわけには、いかないでしょ」

僕は、その横顔を見ていた。夕闇に、白い息が、ふわりと溶けていく。無愛想で、無口で、何を考えているか、わからない人。なのに、この望遠鏡に触れる手だけが、ひどく、優しかった。

真壁千秋「二宮くん、だっけ。……言っとくけど、うち、新歓コンパも、合宿も、何もないよ。やることは、ただ、空を見るだけ。それでも、いいの?」

二宮樹「……はい」

真壁千秋「変わってるね」

二宮樹「真壁さんに、言われたくないです」

そう返すと、真壁さんは、一瞬、きょとんとして――それから、ほんの少しだけ、口の端を上げた。笑った、と気づくのに、数秒かかるくらい、かすかな笑みだった。

3. 星をくれる人

その日から、僕の冬は、星でできた。

放課後、屋上に行くと、たいてい真壁さんが、先に来ていた。望遠鏡をセットして、ノートに何か書きつけている。僕が扉を開けると、顔も上げずに、「来たね」と言う。それだけ。

最初の夜、真壁さんは、僕に、望遠鏡の接眼レンズを覗かせてくれた。

真壁千秋「……見えてる?」

二宮樹「えっ……これ、何ですか。輪っかが」

真壁千秋「土星。その輪っか、本物だよ」

息が、止まった。

教科書の写真でしか見たことのない、あの土星が――小さな、けれど確かな丸い球と、それを取り巻く環が――真っ暗な視野の中に、ぽつんと、白く浮かんでいた。何億キロも先の星が、今、僕の目の中にある。それが、信じられなかった。

二宮樹「……すごい。ほんとに、ある」

真壁千秋「ふふ。みんな、最初、そう言う」

真壁さんが、隣で、初めて、声に温度を乗せた。

それから、彼女は、変わった。

冬の星座を、ひとつずつ、教えてくれた。オリオン。冬の大三角。すばる。彼女の細い指が、暗い空をなぞる。星の名前を、神話を、何光年先にあるのかを、彼女は、よどみなく語った。無口な人が、まるで、別人みたいだった。星の話をするときの真壁さんは、目が、きらきらしていた。

真壁千秋「あのね、二宮くん。今、私たちが見てる星の光、何年も前にあの星を出た光なの。中には、もう、とっくに消えちゃった星もある。……死んだ星の光を、私たちは、今、きれいだなって、見てる」

二宮樹「……なんか、切ないですね」

真壁千秋「切ない? 私は、そうは思わないな」

二宮樹「え?」

真壁千秋「だって、消えても、光は、こうしてまだ届いてる。誰かが見上げてくれるかぎり、その星は、まだ、終わってない。……そう思わない?」

凍えるような屋上で、彼女の白い息が、星明かりに、ほどけていった。僕は、星を見ているはずなのに、いつのまにか、星を語る彼女の横顔ばかりを、見ていた。

4. 通う冬

それから、僕は、毎日のように屋上へ通った。

寒い夜は、二人で、自販機のあたたかい缶コーヒーを握りしめて、空を見上げた。真壁さんは、相変わらず無口だったけれど、僕にだけは、ぽつぽつと、いろんな話をしてくれるようになった。

ある夜、僕は、ずっと気になっていたことを聞いた。

二宮樹「真壁さんは、なんで、そんなに星が好きなんですか」

真壁千秋「……笑わない?」

二宮樹「笑いません」

真壁千秋「私ね、高校のとき、ちょっと、いろいろあって。学校に、行けなくなった時期があったの」

意外だった。けれど、僕は、黙って、続きを待った。

真壁千秋「家からも出られなくて。夜中だけ、こっそり、ベランダに出てた。誰にも会わなくていいから。……そのとき、空を見上げたら、星が、あったの。あたりまえに。私がどんなにダメでも、ぜんぜん関係なく、ただ、きれいに、光ってた」

真壁さんは、缶コーヒーを、両手で包んでいた。

真壁千秋「星は、私に何も聞かない。がんばれとも、言わない。ただ、そこにいてくれる。……それが、あのとき、いちばん、救いだった」

二宮樹「……それで、天文部に」

真壁千秋「うん。星に、恩返し、っていうのも変だけど。せめて、見てあげたくて。誰かが見てるかぎり、星は終わらないって、さっき言ったでしょ。……あれ、ほんとは、自分に言い聞かせてる言葉なの」

僕は、なんだか、胸が苦しくなった。

ガラス一枚向こうの世界で、いつも笑っている連中と、馴染めずにいた自分。誰にも言えなかった、その心細さ。それと、よく似たものを、この人も、抱えていた気がした。だから、たった一人でも、この屋上に通い続けたのかもしれない。

二宮樹「……俺も、ちょっと、わかります。その感じ」

真壁千秋「二宮くんも?」

二宮樹「うまく言えないですけど。……みんなの輪の中に、入れない感じ。ここに来ると、それを、忘れられる」

真壁さんは、しばらく黙って、それから、星を見上げたまま、小さく言った。

真壁千秋「……じゃあ、お互いさまだ」

二宮樹「お互いさま?」

真壁千秋「二宮くんが来てから、私、一人じゃ、なくなったから」

その横顔が、缶コーヒーの湯気の向こうで、ほんのり、赤かった。寒さのせいだ、と、僕は、自分に言い聞かせた。

5. 廃部の知らせ

異変に気づいたのは、年の瀬の近い、ある日だった。

その日、屋上に行くと、真壁さんが、一通の書類を手に、じっと立っていた。いつもの無表情が、いつもより、硬かった。

二宮樹「真壁さん? どうしたんですか」

真壁千秋「……学生課から。来年度、天文部、正式に、廃部だって」

二宮樹「え」

真壁千秋「私が卒業したら、部員、また、二宮くん一人になるでしょ。一人だと、部の存続条件、満たせないの。……だから、私の卒業と一緒に、おしまい」

風が、屋上を吹き抜けた。真壁さんの手の中で、書類が、かさり、と鳴った。

彼女は、淡々としていた。淡々と、しすぎていた。それが、かえって、痛々しかった。

真壁千秋「まあ、しょうがないよね。五年も、人が増えなかったんだし。望遠鏡は……たぶん、どこかの倉庫に、しまわれて、それで」

二宮樹「……真壁さん」

真壁千秋「うん?」

二宮樹「悔しくないんですか」

僕は、思わず、言っていた。真壁さんが、目を見開いて、僕を見た。

二宮樹「ずっと、一人で、守ってきたんでしょ。なのに、最後、こんな、紙一枚で。……俺は、悔しいです。真壁さんが、こんなのを、しょうがないって、言うのが」

真壁さんは、しばらく、何も言わなかった。それから、ふっと、力が抜けたように、笑った。今度は、泣きそうな、笑いだった。

真壁千秋「……二宮くんって、ほんとに、変な後輩」

二宮樹「よく言われます」

真壁千秋「ふふ。……ありがとう。悔しがってくれて」

僕は、決めた。

二宮樹「真壁さん。最後に、一回、やりましょう。観測会」

真壁千秋「観測会?」

二宮樹「この部の、いちばん最後の活動として。誰にも見せなくていい。俺と、真壁さんと、二人で。……このボロい望遠鏡と一緒に、最高の星空を、見るんです」

真壁さんの目が、揺れた。それから、ゆっくりと、うなずいた。

真壁千秋「……ちょうど、いい流星群が、あるの」

二宮樹「流星群?」

真壁千秋「ふたご座流星群。十二月の半ば。一年で、いちばん、たくさん流れる。……街なかじゃ、だめ。ちゃんと暗い、山の上じゃないと」

その目に、ひさしぶりに、星の光が、戻っていた。

6. 顧問と山の小屋

山の上で、と言っても、あてはなかった。

困った僕らに、手を貸してくれたのは、天文部の顧問――といっても、名前を貸しているだけの、桑島教授だった。物理学科の、白髪の老教授。学生からは「化石」と呼ばれている、変わり者だ。

研究室を訪ねて事情を話すと、桑島教授は、分厚い眼鏡の奥で、目を細めた。

桑島教授「ほう。真壁くんが、後輩を連れてくるとはな。長生きはするもんだ」

真壁千秋「教授。茶化さないでください」

桑島教授「茶化しとらんよ。……ふたご座流星群を、山で、か。いい考えだ」

教授は、机の引き出しから、一本の古い鍵を取り出した。

桑島教授「県境の山に、わしの古い知り合いが持っとる、観測小屋がある。今は誰も使っとらん。電気もないが、薪ストーブはある。……二人で、行ってくるといい」

二宮樹「いいんですか、そんな」

桑島教授「かまわんよ。あの望遠鏡を、最後に、いちばん星の見える場所へ連れて行ってやってくれ。……それが、わしから、天文部への、餞別だ」

教授は、鍵を、真壁さんの手のひらに、そっと載せた。

桑島教授「真壁くん。きみは、よく、一人で、あの屋上を守った。誰も褒めんかったろうが。……わしは、ずっと、見とったよ」

真壁さんが、鍵を握りしめて、深々と、頭を下げた。その肩が、少しだけ、震えていた。

帰り道、僕らは、駅まで、雪のちらつく坂道を、並んで歩いた。

真壁千秋「……ねえ、二宮くん」

二宮樹「はい」

真壁千秋「二人きりで、山小屋に、泊まることになるけど。……いいの?」

頬を、ほんのり染めて、真壁さんが、上目遣いに、僕を見た。いつもの無表情が、その瞬間だけ、ほどけていた。僕は、心臓が、跳ねた。

二宮樹「……俺は、いいです。真壁さんが、よければ」

真壁千秋「……ばか」

そう言って、真壁さんは、マフラーに、口元を、ずぼっと埋めた。けれど、その耳が、真っ赤なのは、雪のせいでは、なかった。

7. 雪の山道

ふたご座流星群が、極大を迎える夜。

僕らは、バスを乗り継いで、県境の山の麓まで来た。そこから、雪の積もった林道を、望遠鏡と、寝袋と、食料を背負って、一時間。息を切らして登りきった先に、桑島教授の言っていた、その小屋は、あった。

丸太を組んだ、小さな山小屋だった。屋根に、雪が、こんもりと積もっている。鍵を開けて、中に入ると、ひんやりとした空気と、古い木の匂いがした。

真壁千秋「……わ。思ってたより、ちゃんとしてる」

二宮樹「ストーブ、あります。火、つけますね」

僕は、薪ストーブに、教授が用意してくれていた薪をくべて、火をつけた。やがて、ぱちぱちと薪が爆ぜて、オレンジ色の炎が、小屋の中を、じんわりと暖め始めた。

窓の外は、もう、真っ暗だった。けれど、空を見上げて、僕は、息を呑んだ。

二宮樹「……真壁さん、空。やばいです」

真壁千秋「ほんとだ。……すごい」

街では、絶対に見えない数の星が、空一面に、ばら撒かれていた。降ってきそうなくらい、近い。天の川が、淡く、白い帯になって、空を横切っている。屋上で見てきた星空が、子供だましに思えるくらいの、本物の、満天の星だった。

真壁千秋「これが、見せたかったの。二宮くんに」

二宮樹「……こんなの、初めてだ」

真壁千秋「ふふ。じゃあ、本番は、もっとすごいよ。流れ星が、ここに、降ってくるんだから」

僕らは、小屋の前の、雪のない軒下に、シートを敷いた。寝袋を二つ、並べて広げる。そこに、もぐりこんで、空を見上げる作戦だ。

ストーブで沸かしたお湯で、ココアを淹れた。二つのカップから、白い湯気が、星空に向かって、立ちのぼる。寝袋に並んで座って、僕らは、空が、いちばん暗くなるのを、待った。

真壁千秋「……寒くない?」

二宮樹「平気です。真壁さんは?」

真壁千秋「……ちょっと、寒い」

そう言って、真壁さんが、僕の寝袋のほうに、ほんの少しだけ、身を寄せてきた。肩と肩が、触れる。コート越しに、彼女の体温が、伝わってきた。

8. ふたご座流星群

最初の一筋は、突然だった。

空の高いところを、すうっと、白い光が、走った。

真壁千秋「あっ……! 流れた!」

二宮樹「えっ、どこ、どこ……!」

真壁千秋「もう消えちゃった。……ほら、また!」

今度は、僕にも、見えた。視界の端を、すっ、と、星が、流れ落ちていく。それから、堰を切ったように、ひとつ、またひとつと、流星が、夜空を駆け始めた。長いの、短いの。橙色に尾を引くもの。一瞬で消えるもの。

僕らは、寝袋に寝転んで、ただ、空を見上げていた。流れるたびに、どちらからともなく、声が漏れる。

二宮樹「……すごい。ほんとに、降ってくる」

真壁千秋「ね。……ねえ、二宮くん、知ってる? 流れ星が消えるまでに、願いごとを三回唱えると、叶うんだって」

二宮樹「三回は、無理ですよ。一瞬じゃないですか」

真壁千秋「ふふ。だから、いつも願える準備をしてないと、だめなの。……ずっと、心の中で、思い続けてること。それなら、一瞬でも、唱えられるでしょ」

僕は、隣の真壁さんを、見た。星明かりに、彼女の横顔が、青白く、浮かんでいた。長い睫毛が、空を見上げて、瞬きをする。その瞳に、流れ星が、いくつも、映っては、消えていく。

僕は、そのとき、自分の願いごとが、もう、決まっていることに、気づいた。

二宮樹「真壁さん」

真壁千秋「ん?」

二宮樹「俺、願いごと、決まってます。ずっと、思ってたこと」

真壁千秋「へえ。何?」

二宮樹「……真壁さんと、卒業しても、一緒にいたい」

真壁さんが、息を、呑んだ。空を見上げていた瞳が、ゆっくりと、僕のほうを向く。

二宮樹「星の見方、教わってるうちに……気づいたら、星より、真壁さんのことばっかり、見てました。星を語る真壁さんが、いちばん、きれいだって。……好きです。先輩として、じゃなくて」

ちょうど、そのとき。

ひときわ大きな流星が、長い尾を引いて、空を、ゆっくりと、横切った。火球、というやつだ。あたりが、一瞬、青白く、明るくなった。

真壁さんの目から、つうっと、一粒、こぼれた。それが、星明かりを、きらりと、弾いた。

真壁千秋「……ずるい。こんな、星が降ってる下で、言うなんて」

二宮樹「だめ、でしたか」

真壁千秋「だめじゃ、ない。……私も、同じ願いごと、してたの。ずっと」

二宮樹「……え」

真壁千秋「二宮くんが、屋上の扉、開けてくれた日から。……私の星空に、二宮くんが、いるの」

僕は、寝袋から、半身を起こして、真壁さんの、冷たくなった頬に、手を添えた。彼女は、逃げなかった。涙に濡れた瞳で、まっすぐ、僕を見ていた。

降りしきる流星の下で、僕らは、そっと、唇を、重ねた。

ちゅ……。

冷たい外気の中で、触れたところだけが、燃えるように、熱かった。

9. 小屋の夜

唇を離すと、白い息が、二つ、星空に、溶けて、ひとつになった。

真壁千秋「……手、冷たい」

二宮樹「真壁さんの頬も、冷たいですよ」

真壁千秋「……中、入ろっか。ストーブ、暖かいし」

頬を染めて、真壁さんが、僕の手を、きゅっと握った。その手を引いて、僕らは、小屋の中に戻った。

薪ストーブの炎が、暗い小屋を、橙色に染めている。二人ぶんの寝袋を、ストーブの前に、ひとつにつなげて、広げた。その上に、向かい合って座る。窓の外では、まだ、流星が、ときおり、流れていた。

僕は、もう一度、真壁さんを、抱き寄せた。今度は、長く、深く、唇を重ねる。マフラーをほどき、コートのボタンを、ひとつずつ外していく。真壁さんの手が、僕のシャツの裾を、きゅっと、握った。

ちゅ……れろ……ちゅるっ……♡

真壁千秋「ん……♡」

舌先で、唇のあわいをなぞると、真壁さんの口が、おずおずと、開いた。からめると、彼女の体が、びくっと、震える。

真壁千秋「んむ……っ♡ 二宮くん……♡」

二宮樹「樹で、いいです」

真壁千秋「……樹」

名前を呼ばれて、僕の頭の芯が、痺れた。

セーターを脱がせると、薄手のインナーの下から、思いのほか豊かな胸の、ふくらみが、現れた。いつも分厚いコートに隠れていた体は、想像していたよりも、ずっと、女性らしい線をしていた。

真壁千秋「……あんまり、見ないで。恥ずかしい」

二宮樹「……きれいだ」

真壁千秋「もう……そういうの、慣れてないの♡」

インナーをまくり上げ、背中に手を回して、ホックを外す。カチッ、と小さな音がして、白いブラが、ゆるんだ。ストーブの灯りに、雪のように白い肌と、淡い色の先端が、ふわりと、浮かび上がった。

真壁千秋「……っ♡」

右手で、そっと、左の胸を包んだ。

ふにっ。

真壁千秋「あっ……♡」

手のひらに吸い付くような、やわらかさだった。指を沈めると、形を変えて、また戻る。もう片方の手も、添えて、両方を、ゆっくりと、揉みしだく。

真壁千秋「ん……っ♡ 樹の手、あったかい……♡」

親指で、淡い色の先端を、くりっと、転がした。

真壁千秋「ひゃっ♡♡」

びくん、と、真壁さんの肩が、跳ねた。小さく芯を持ち始めた先端が、指先に、こりっと、伝わってくる。

くりくり……くりくり……♡

真壁千秋「あっ♡ あんっ♡♡ そこ、変な感じっ……♡」

唇を、胸の先に、落とした。ちゅっ。

真壁千秋「ひぅっ♡♡♡」

舌で転がしながら、反対の胸を、揉み続ける。

ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡

真壁千秋「やっ♡ 吸っちゃ……声、出ちゃうっ♡♡」

外は、しんと静まりかえった、雪の山。聞こえるのは、薪の爆ぜる音と、彼女の、甘い声だけだった。

10. 星明かりの下で

二宮樹「真壁さん、下も……いい?」

真壁千秋「……千秋、って、呼んで?」

二宮樹「……千秋さん」

真壁千秋「……うん♡ いいよ。来て……♡」

スカートの中に、手を滑り込ませる。タイツと下着を、まとめて、ゆっくりと、引き下ろした。膝を立てて閉じようとする、白い太ももを、そっと、開かせる。

二宮樹「……もう、濡れてる」

真壁千秋「やっ♡ 言わないで……♡ キスの、ときから、なの♡♡」

薄い茂みの奥が、ストーブの灯りに、とろりと、濡れて光っていた。指先で、そっと、なぞる。

くちゅ……。

真壁千秋「ひゃあっ♡♡」

びくん、と、腰が跳ねた。割れ目の上の、小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると、円を描く。

くり……くり……♡

真壁千秋「あぁっ♡♡♡ そこっ、だめっ……♡♡」

二宮樹「だめじゃ、ないでしょ。気持ちいいんですよね?」

真壁千秋「だってっ♡ 樹の、指っ……♡♡」

蜜を、指に、たっぷりとまとわせて、中指を、入り口に、あてがった。

二宮樹「指、入れますね」

真壁千秋「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」

ずぷ……♡

真壁千秋「あああっ♡♡♡」

ゆっくり、指が、沈んでいく。熱い。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中を、かき混ぜながら、突起を、親指で、同時に、刺激する。

ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡

真壁千秋「あっあっあっ♡♡♡ それっ、両方っ……おかしくなるっ♡♡♡」

指を、二本に増やして、奥の壁を、ぐっと、押し上げる。

真壁千秋「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばっ……♡♡♡」

真壁さんの体が、びくびくと、跳ね始めた。

真壁千秋「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」

指の動きを、速める。

ぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡

真壁千秋「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」

びくんっ、びくんっ♡♡♡

真壁さんの背中が、弓なりに、反った。中が、ぎゅうっと、指を締め付けて、やがて、力が抜けたように、寝袋に、沈み込む。

真壁千秋「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの、初めて……♡」

潤んだ瞳で、真壁さんが、僕を見上げた。それから、震える手を、僕のベルトに、伸ばしてくる。

真壁千秋「……今度は、私。樹のも、見せて……?」

ベルトをゆるめ、下着ごと、引き下ろすと――限界まで張り詰めたものが、ばちん、と、跳ね上がった。真壁さんが、息を、呑む。

真壁千秋「……っ♡ おっきい……♡」

おずおずと、顔を近づけて、先端に、ちゅっと、口づけた。それから、舌を出して、ちろちろと、舐めてくる。

真壁千秋「ん……れろ……♡♡」

慣れない手つきが、かえって、たまらなかった。やがて、ぱくりと、口に含んで、ゆっくりと、頭を上下させる。さらりと垂れた黒髪の隙間から、上目遣いの瞳が、こちらを、覗いていた。

真壁千秋「ん……じゅるっ♡♡ ……気持ち、いい?」

二宮樹「……やば、すぎます。でも、それ以上は、イっちゃうから」

ぷはっ、と、口を離した真壁さんの唇が、濡れて、てらてらと、光っていた。

真壁千秋「……最後は、一緒がいい♡ ……樹と、ひとつに、なりたいの♡」

僕は、リュックから、避難袋に入れておいたゴムを、取り出した。

真壁千秋「ふふ……ちゃんと、用意してたんだ?」

二宮樹「いや、これは、その……万一の、備えで」

真壁千秋「ふふっ♡ 責めてないよ。……えらい♡」

手早く着けて、真壁さんを、寝袋の上に、仰向けに、横たえた。ストーブの灯りに、雪みたいに白い肌が、橙色に、染まっている。脚のあいだに、体を進め、先端を、入り口に、あてがった。

ぬちゅ……♡

二宮樹「いきますね、千秋さん」

真壁千秋「うん♡ 来て……♡♡」

ゆっくりと、腰を、押し進める。

ずぷ……ずぷぷ……♡♡

真壁千秋「あぁっ♡♡♡ 入って、くるっ♡♡♡」

きゅうきゅうと、締め付けながら、奥へ、引き込んでくる。やがて、ぴたりと、根元まで、収まった。

真壁千秋「はぁっ♡♡ 全部、入った……♡♡ ……あったかい♡♡」

二宮樹「動きますよ」

ゆっくりと、腰を引いて、また、押し込む。

ずるっ……ずぷんっ♡♡

真壁千秋「ああっ♡♡♡」

リズミカルに、打ちつけ始める。肌と肌がぶつかる音が、薪の爆ぜる音に、混ざっていく。

パンッ……パンッ……♡♡

真壁千秋「あっあっあっ♡♡♡ 樹っ♡♡ 奥っ、当たってるっ♡♡♡」

真壁さんの腕が、僕の背中に、回されて、しがみついてくる。窓の外では、まだ、流星が、ひとつ、またひとつと、流れていた。星が降る夜に、僕らは、ひとつに、なっていた。

パンパンパンッ♡♡♡

真壁千秋「やばっ♡♡ また、来ちゃうっ♡♡♡」

二宮樹「俺も、もう……っ」

真壁千秋「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イこっ……♡♡♡♡」

真壁さんが、両腕で、ぎゅっと、しがみついてくる。奥に、押し付けるように――最後の、ひと突き。

真壁千秋「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

二宮樹「イく……っ!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

真壁千秋「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」

真壁さんの全身が、震えて、中が、痙攣するように、締め付けてくる。抱き合ったまま、僕らは、荒い呼吸を、繰り返した。

ちゅ、と、軽く、唇を重ねる。窓の外で、また一筋、流れ星が、長い尾を引いて、空を、横切っていった。

真壁千秋「……ねえ、樹」

二宮樹「ん?」

真壁千秋「今の流れ星に、私、もう一回、同じ願いごと、しちゃった♡」

11. 朝の雪原で

――翌朝。

窓から差し込む、雪あかりの白い光で、目が覚めた。

ストーブの火は、おき火になって、まだ、ほのかに、あたたかい。真壁さんは、僕の腕の中で、すうすうと、寝息を立てていた。長い黒髪が、頬にかかって、無防備な寝顔が、とんでもなく、可愛かった。

そっと、身を起こして、窓の外を見た。一面の、銀世界だった。夜のあいだに、また、雪が降ったらしい。木々が、真っ白に、雪化粧をして、朝日に、きらきらと、輝いている。

真壁千秋「ん……♡ ……樹?」

真壁さんが、目を覚ました。寝起きの、少し、かすれた声。

二宮樹「おはようございます。千秋さん、外、見て。すごい雪です」

毛布を巻いたまま、二人で、窓辺に並んだ。真壁さんが、雪原に、目を細める。寝起きの、やわらかい顔だった。

真壁千秋「……きれい。雪が降った朝の空気って、いちばん、好きなんだ。世界が、リセットされたみたいで」

僕は、その横顔に、言った。ずっと、言おうと思っていたことを。

二宮樹「千秋さん。部、廃部になっても。……天文部、俺、なくさないです」

真壁千秋「え?」

二宮樹「来年、俺、新歓、がんばります。一人でも、二人でも、後輩、連れてきます。部員が二人いれば、存続条件、満たせるんですよね。……千秋さんが、五年守ってきたあの望遠鏡、俺が、引き継ぎます」

真壁さんが、目を、見開いた。

二宮樹「だから、千秋さんは、卒業しても、いつでも、屋上に、戻ってきていいです。OGとして。……その望遠鏡は、ずっと、千秋さんの星空を、待ってますから」

真壁さんの瞳が、じわっと、潤んだ。ぽろっと、一粒、頬を、転がり落ちる。

真壁千秋「……ずるい。朝から、泣かせる気?」

二宮樹「泣かないでください。……それで、返事は?」

真壁千秋「……うん。私も、樹のことが、好き♡ 卒業しても、ずっと、一緒にいたい。……今日から、恋人ね♡」

真壁さんが、背伸びをして、僕の唇に、ちゅっと、軽く、キスをした。それから、いたずらっぽく、笑う。星を語るときみたいに、目を、きらきらさせて。

真壁千秋「ねえ、樹。星の光って、消えても、誰かが見上げてるかぎり、終わらないって、言ったでしょ」

二宮樹「言ってましたね」

真壁千秋「あの部も、同じだね。私が卒業して、いなくなっても。……樹が、見上げ続けてくれるかぎり、終わらない」

二宮樹「……はい」

真壁千秋「ふふ。……だから、ちゃんと、守ってよ? 私の、いちばん大事な、星空」

窓の外、雪に洗われた山の上に、抜けるような、冬の青空が、広がっていた。

人付き合いに疲れて、ガラス一枚向こうの世界を、ただ眺めていた僕は、誰も来ない屋上の、たった一人の天文部に、迷い込んだ。

そこで出会ったのは、星の光に救われて、その光を、たった一人で見上げ続けてきた、一人の人だった。

これは、消えかけていたひとつの星座が、もう一度、二人の手で、灯りはじめる――その、始まりの朝の話だ。

― 終 ―


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