六月の中旬、俺は中央道を走る高速バスの窓に、ぼんやり頭を預けていた。
俺、三浦涼介(みうら りょうすけ)、二十七歳。都内のWeb制作会社で、ディレクターをやっている。やっている、というか――先月まで、半分壊れかけながらやっていた。
(……なんで星なんか、見に行こうと思ったんだっけ)
きっかけは、深夜二時のオフィスだった。三本同時進行の案件で、もう何日もまともに寝ていなかった。窓の外には、東京の濁ったオレンジ色の夜空。星なんて、一つも見えない。そのとき、ふと思ったのだ。
(俺、最後に星を見たの、いつだ?)
思い出せなかった。それがなぜか、無性に怖かった。気づいたらスマホで「日本一の星空」と検索して、長野県阿智村の星空ナイトツアーと、高原のペンションを一泊で予約していた。新月の週末。月明かりがない、一年でもっとも星がよく見える夜なのだという。
バスがインターを降りて、山道に入る。窓の外が、みるみる緑に変わっていく。耳が、つんと痛くなった。標高が、上がっている。
ペンションは、白樺の林に囲まれた、三角屋根の小さな建物だった。バス停から坂道を十分。ウッドデッキのテラスに、薪のいい匂いが漂っている。
「いらっしゃい、三浦さんね。お一人様、お待ちしてました」
出迎えてくれたのは、人の好さそうな、髭面のオーナーだった。
「うちはね、星好きしか来ないペンションなんですよ。今夜は新月、しかも晴れ予報。最高の夜になりますよ」
チェックインを済ませて、荷物を部屋に置く。窓を開けると、ひんやりした高原の空気が、肺の奥まで流れ込んできた。東京で詰まっていた何かが、すっと抜けていく感じがした。
夕方、テラスでコーヒーをもらおうと外に出た。そのときだった。
(……あれ)
ウッドデッキの隅で、一人の女性が、三脚を立てていた。黒いカメラに、ごつい望遠レンズ。藍色のマウンテンパーカー。後ろで無造作に束ねた黒髪が、夕暮れの風に揺れている。真剣な横顔で、西の空を見上げていた。
(……綺麗な人だ)
声をかけるのもためらわれて、俺はコーヒーカップを手に、少し離れたベンチに座った。彼女は、レンズの向きを微調整しながら、ときどき空にスマホをかざしている。星座アプリだろうか。
「お、葉山さん。今日も気合い入ってますねえ」
オーナーが、薪を抱えて通りかかって、彼女に声をかけた。
「だって、新月の阿智ですよ。撮らない理由がないです」
低めの、落ち着いた声だった。よく通る、けれど押しつけがましくない声。彼女がこっちを振り向いて、俺と目が合った。
「……あ。こんにちは」
「こ、こんにちは」
慌てて頭を下げた。彼女は、ふっと小さく笑って、またファインダーを覗き込んだ。
「三浦さん、こちら葉山美月さん。天体写真家さんでね、もう何度もうちに泊まってくれてる常連さんなんですよ」
「天体写真家……そんな仕事があるんですね」
「あんまり、食べていけない仕事ですけどね」
そう言って、彼女――美月さんは、いたずらっぽく笑った。
夜の七時半。ペンションのロビーに、ツアー参加者が集まった。十人ほどのグループ客が多い中、一人で来ているのは、どうやら俺と美月さんだけらしかった。
「では、これからゴンドラで山頂駅へ向かいます。標高千四百メートル。スキー場のゲレンデが、夜は天然のプラネタリウムになるんです」
ゴンドラに、二人ずつ乗り込む。係員の誘導で、俺は自然と美月さんと同じゴンドラになった。狭いゴンドラの中、向かい合って座る。膝が、触れそうな距離だった。
「三浦さんは、星、好きなんですか?」
「……正直、よくわからないんです。最後に星を見たのがいつか思い出せなくて、それが怖くなって、衝動的に来ちゃって」
「ふふ。いい動機だと思いますよ、それ」
「そうですか?」
「うん。星を見たくなるときって、だいたい、心が疲れてるときだから」
窓の外で、ゴンドラがぐんぐん高度を上げていく。眼下に、村の灯りが小さくなっていった。
「……顔。けっこう、ボロボロですよ。三浦さん」
「えっ」
「目の下のクマ。私、人の顔の影、よく見るんで。光と影、商売道具だから」
ふっと笑う美月さんの目元が、ゴンドラの薄明かりに照らされて、優しかった。
山頂駅に着いて、ゲレンデへ出た瞬間――足が、止まった。
「……は」
声にならなかった。頭上に、星が、降ってきていた。降ってくる、としか言いようがなかった。びっしりと、空という空を埋め尽くす、無数の光の粒。都会の夜空とは、もう別の天体だった。
「では、これからライトをすべて消します。三、二、一――」
ふっ、と、わずかな足元の照明まで消えた。完全な闇。そして、目が慣れてくると――星が、さらに増えた。空が、明るくなったと錯覚するほど。淡い光の帯が、空をまっすぐ横切っている。
「あれ……もしかして」
「天の川。夏の天の川ですよ。新月の今夜は、特によく見える」
隣に、いつの間にか美月さんが立っていた。闇の中、彼女の横顔は影になって、星明かりだけが、その輪郭を青白く縁取っている。
「あそこ、三つ並んで明るいの、見えます? 夏の大三角。ベガ、デネブ、アルタイル」
「あの……いちばん明るいのが?」
「そう、ベガ。織姫星。で、川を挟んだあっちが、彦星のアルタイル」
美月さんが、俺の肩越しに腕を伸ばして、空を指さす。彼女の髪から、ほのかにシャンプーの匂いがした。
「七夕の伝説、知ってます? 一年に一度しか会えない二人」
「……天の川を、挟んで」
「そう。本当はね、ベガとアルタイルって、十四光年も離れてるんですよ。光の速さでも、十四年かかる距離」
ふっと、美月さんが息をついた。
「会いたくても、会えない。けど、ちゃんと、お互いに光ってる。……私、その話、わりと好きなんです」
そのとき、空の端を、一筋の光がすうっと走った。
「あっ……!」
「流れ星。願い事、間に合いました?」
「……無理です。早すぎる」
「ふふ。三回唱えるの、難しいんですよね、あれ」
闇の中で、二人で小さく笑った。隣にいる人の体温だけが、やけにはっきりと感じられた。
一時間ほどの観察を終えて、ゴンドラで下山する。ペンションに戻ったのは、夜の十時近かった。
「三浦さん、明日は?」
「夕方のバスまで、特に予定は……」
「じゃあ、昼間の阿智、案内しましょうか。私、明日も泊まりなんで」
「いいんですか?」
「一人で散歩するのも飽きたんで。……ちょうどいい」
そう言って、美月さんは、おやすみなさい、と階段を上がっていった。俺は、しばらくテラスに残って、もう一度、夜空を見上げた。
(……星を見に来たはずなのに)
頭に浮かぶのは、星ではなく、星を見上げる彼女の横顔だった。
翌朝。よく晴れていた。梅雨の合間の、貴重な青空。約束どおり、美月さんは九時にロビーに現れた。昨夜のパーカーではなく、白いシャツに、デニム。髪も下ろしている。別人みたいに、柔らかい雰囲気だった。
「……なんか、昨日と印象、違いますね」
「夜は戦闘モードなんで。昼間は、ただのぐうたらです」
レンタサイクルを借りて、二人で村を巡った。澄んだ水が流れる用水路。神社の杉並木。蕎麦の花が咲き始めた畑。美月さんは、ときどき自転車を停めて、小さなコンパクトカメラで、何でもない風景を撮っていた。
「昼間も撮るんですね」
「うん。昼の光がきれいな場所は、夜もきれいなことが多いんです。地形とか、空気の抜け方とか」
昼食は、村の蕎麦屋に入った。冷たい山菜蕎麦。窓の外には、青い山並み。木漏れ日が、美月さんの頬で揺れていた。
「美月さんって、いつから星を撮ってるんですか」
「……三年前から、かな。本格的には」
箸を置いて、美月さんが、少し遠くを見た。
「もともと、私、東京で雑誌のカメラマンやってたんです。ファッションとか、料理とか。忙しくて、毎日数字に追われて。……ある日、ぱったり、シャッターが切れなくなっちゃって」
「シャッターが……」
「うん。指が動かないの。カメラを構えると、吐き気がして。完全に、燃え尽きてた」
俺は、息を呑んだ。それは、つい先月までの、俺自身だった。
「逃げるみたいに、ここに来たんです。それで、何の気なしに夜空にレンズを向けたら……星って、こっちが何を期待してても、ただ、勝手に光ってるんですよ。数字も、締め切りも、関係なく」
ふっと、美月さんが笑った。
「それ見たら、なんか、許された気がして。あ、私も、ただ光ってればいいんだって」
「……わかる気が、します。すごく」
「ふふ。三浦さんも、そういう顔してたもんね。ゴンドラの中」
見透かされていた。でも、不思議と、嫌じゃなかった。同じ場所で躓いて、同じ空に救われた人が、目の前にいる。それだけで、胸の奥が、じんと温かくなった。
午後は、村の高台にある展望台まで、自転車を漕いだ。眼下に、阿智の谷が一望できる。風が、汗ばんだ肌を撫でていく。
「ここね、私のお気に入りの場所。今夜の撮影、ここでするつもりなんです」
「今夜も、撮るんですか」
「新月は、二晩しかないですから。……ねえ、三浦さん」
美月さんが、こっちを見た。下ろした髪が、風に流れる。
「今夜、ツアーじゃなくて……私の撮影、ついてきます? ここなら、二人だけで、ゆっくり天の川、見られますよ」
心臓が、小さく跳ねた。
「……行きます。ぜひ」
「ふふ。即答だ」
「断る理由が、ないので」
「……うん。私も」
その横顔が、夕暮れの光の中で、少しだけ照れているように見えた。
夜の九時。ペンションのオーナーに車で送ってもらって、俺たちは展望台に立った。
「帰りは電話くれれば、いつでも迎えに来ますからね。……まあ、ごゆっくり」
オーナーが、にやりと笑って、車を出していった。後に残されたのは、二人と、満天の星だけ。
美月さんが、慣れた手つきで三脚を立てる。俺は、彼女の隣で、ただ空を見上げていた。昨日よりも、星が近い気がした。
「はい、シャッター切るんで、ちょっと静かにしててくださいね。三十秒、開けるんで」
カシャ、と微かな音。シャッターが、ゆっくり開いていく。三十秒という時間が、やけに長く、そして静かに流れた。風の音さえ止んで、世界に二人きりのようだった。
「……見て、これ」
撮れた写真を、液晶で見せてくれた。肉眼では淡くしか見えなかった天の川が、画面の中では、無数の星の渦になって、くっきりと浮かび上がっていた。赤や青の星の色まで、写り込んでいる。
「……うわ。すごい。こんなに、写るんだ」
「でしょ。カメラはね、人の目より、ずっと長く、光を溜められるんです。一瞬じゃ見えないものも、待ってあげれば、ちゃんと見える」
美月さんが、液晶から顔を上げて、俺を見た。星明かりが、その瞳に、小さく映り込んでいる。
「……人も、そうかもしれないですね。一瞬じゃわからないことも、ちょっと待ってあげたら、見えてくる」
二人の距離が、いつの間にか、すぐ近くになっていた。レジャーシートに並んで腰を下ろして、寝転がる。視界いっぱいに、星空が広がった。
「……なんか、宇宙に放り出されたみたいだ」
「ふふ。私も、初めてここで寝転がったとき、そう思った」
肩が、触れていた。どちらからともなく。手の甲が、そっと触れる。
「……三浦さん」
「はい」
「東京に帰ったら、また、星、見られなくなりますね」
「……ですね」
「私が撮った写真、送りましょうか。スマホの待ち受けにでも」
「……それより」
俺は、思い切って、隣を向いた。星明かりの中、美月さんの顔が、すぐそこにあった。
「写真より……また、美月さんに、会いたいです」
美月さんが、息を呑んだ。それから、ゆっくり、はにかむように笑った。
「……ずるい。星の下で、そういうこと言うの、反則ですよ」
「すみません。でも、本当なんで」
「……私も、です」
触れていた手の甲が、ゆっくりと、指を絡めてきた。冷えた夜気の中で、手のひらだけが、温かい。
「……目、つぶってください」
言われるまま、目を閉じた。次の瞬間――唇に、柔らかいものが、そっと触れた。
ちゅ……。
「ん……♡」
触れるだけの、軽いキス。少しひんやりした唇。離れると、美月さんが、潤んだ目で俺を見ていた。
「……星より、こっち見ちゃってる。私」
「俺も、ずっと、そうです」
もう一度、今度は俺から唇を重ねた。角度を変えて、深く。美月さんの手が、俺のシャツをきゅっと掴む。舌先で唇をなぞると、彼女の口が、そっと開いた。
ちゅ……んちゅ……れろ……♡
「ふ……ぁ……♡」
絡み合う舌。星空の下で、二人で夢中で求め合った。ぷはっ、と離れると、唾液が、星明かりに細く糸を引いた。
「……はぁ……♡ こんなの、初めて。撮影、放り出してキスするなんて」
「俺も、こんな、衝動的に……」
「ふふ。衝動で、ここまで来たんでしょ? 三浦さんは」
くすっと笑って、美月さんが、俺の胸に頬を寄せた。星空の下、しばらく抱き合っていた。やがて、美月さんが、小さく言った。
「……ねえ。ペンション、戻りませんか。……二人で」
心臓が、跳ねた。彼女の瞳に、星と、それから、はっきりとした熱が、宿っていた。
「……いいんですか」
「うん。……まだ、三浦さんと、一緒にいたい」
オーナーに電話して、迎えに来てもらった。帰りの車の中、暗がりで、ずっと手を繋いでいた。ペンションに着くと、オーナーは何も訊かずに、ただ「おやすみなさい」と笑った。
美月さんの部屋は、二階の角部屋だった。大きな窓から、白樺の影越しに、星空が見えている。
「……ここからも、星、見えるんですね」
「うん。だから、いつもこの部屋なんです」
窓辺に、二人で並んで立つ。肩が触れる。美月さんが、こっちを見上げた。窓から差す星明かりに、瞳が潤んで光っている。
「美月さん」
「ん……♡」
頬に手を添えると、美月さんが、そっと目を閉じた。俺は、ゆっくり唇を重ねた。
ちゅ……。
さっきよりも、熱いキス。互いの舌を絡めて、深く求め合う。
ちゅる……んちゅ……れろ……♡
「ん……っ♡ 三浦さん……♡」
腰に腕を回して、引き寄せる。美月さんの体が、ぴたりと密着した。シャツ越しに、体温が伝わってくる。
「……心臓、すごい音」
「美月さんもです」
「……ばれた♡」
くすっと笑って、美月さんが、俺の首に腕を回した。シャツのボタンに、手をかける。
「……脱がせて、いいですか」
「……うん♡ でも、電気は、消したまま」
「星明かりだけで?」
「……ふふ。天体写真家なんで♡」
白いシャツのボタンを、一つずつ外していく。窓から差す淡い光に、白い肌と、淡いベージュのブラジャーが浮かび上がった。健康的に引き締まった、けれど女性らしい体つき。
「……綺麗だ」
「やっ♡ あんまり、見ないでください♡ 恥ずかしい♡」
背中に手を回して、ホックを外す。カチッ。ブラがふっと緩んで、胸が露わになった。形のいい、張りのある乳房。先端は、ほんのり桜色。
「……隠さないで」
「……っ♡ そういうの、慣れてないから、心臓持たない♡」
腕で隠そうとする手を、そっとどけた。右手で、左の胸を包むように触れる。
ふにっ。
「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような、柔らかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。もう片方の手で、右も包んだ。
「ん……っ♡ 両方、一緒に……♡♡」
親指で、先端をくりっと転がす。
「ひゃっ♡♡」
びくんと、美月さんの肩が跳ねた。もう小さく硬くなった先端が、指先にコリコリ伝わる。唇を、先端に落とした。ちゅっ。
「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
「あっあっ♡♡ 吸っちゃ、だめ……♡♡ 声、出ちゃう……♡♡」
交互に舌を這わせて、たっぷりと味わう。美月さんの肌が、うっすら汗ばんで、夜気の中で熱を帯びていく。美月さんの手が、俺の頭を、そっと抱え込んだ。
「……ベッド、行きましょ♡」
手を引かれて、ベッドに腰を下ろす。並んで座って、もう一度キスをしながら、デニムのボタンに手をかけた。
「下も、脱がせます」
「……うん♡」
デニムを、ゆっくり脱がせていく。下着と一緒に、足先から抜き取った。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせる。
「……もう、濡れてる」
「やっ♡ 言わないで……♡ さっきの、キスから、ずっと……♡♡」
星明かりに、透明な蜜が、とろりと光っていた。指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねる。小さな突起を見つけて、指の腹でくるくると円を描いた。
くり……くり……♡
「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」
「だめじゃないでしょ。気持ちいいんでしょ?」
「だってっ♡ 三浦さんの指、上手すぎっ♡♡」
蜜をかき回しながら、中指を入り口にあてがった。
「指、入れますよ」
「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」
ずぷ……♡
「あああっ♡♡♡」
ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きつい。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、もう一本。
ずぷっ♡
「ひぃっ♡♡♡ 二本、おっきい♡♡」
二本の指で出し入れしながら、親指で突起を同時に刺激する。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁をぐっと押す。
「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」
美月さんの体が、びくびくと跳ね始める。
「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
美月さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。しばらくして、力が抜けたように、ベッドに沈み込む。
「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの……♡♡」
潤んだ瞳で見上げてくる美月さんが、ゆっくり身を起こした。まだ余韻で震えているのに、星明かりの中で、いたずらっぽく笑う。
「……今度は、私が、三浦さんを気持ちよくする番♡」
ベッドの上で、俺のズボンに手を伸ばす美月さん。ベルトを外して、下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。美月さんが、息を呑む。
「……おっきい♡♡ こんなの、入るのかな♡♡」
顔を近づけて、ぺろ、と先端を舐めた。
「ん……♡ 三浦さんの、味♡♡」
ちゅっ、と先端にキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。
「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる美月さん。下ろした黒髪が、ぱさりと俺の太ももをくすぐる。上目遣いの、潤んだ瞳。
「美月さん……やばい、気持ちよすぎる……」
「んふ♡ もっと、してあげる♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走る。
ずぷっ……ずぷっ……♡♡
「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す美月さん。唇が、唾液でてらてらと光っていた。
「だーめ♡ まだイっちゃ、だめですよ♡」
いたずらっぽく笑う美月さんを、ベッドに引き上げた。鞄から、コンドームを取り出す。
「……用意、いいんだ?」
「いや、これは、その……一応」
「ふふ♡ いいですよ、責めてない♡ ……つけて♡」
手早く装着して、美月さんを仰向けにした。黒髪が、シーツに広がる。星明かりに照らされた裸体が、青白く、淡く輝いている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
「入れますよ、美月さん」
「うん♡ 来て……三浦さんのが、ほしい♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
「おっきい♡♡ おなかの中、広がってく♡♡♡」
ずぷん♡♡
根元まで、収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」
「動きますよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
パンっ♡
「ああっ♡♡♡」
パンッ……パンッ……♡♡
リズミカルに、打ちつけ始める。
「あっあっあっ♡♡♡ 三浦さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
美月さんが、俺の背中にしがみついてくる。爪が、背中に食い込んだ。少し痛い。でも、それがまた、たまらなく興奮する。肌と肌がぶつかる音が、静かな部屋に響いた。
パンパンパンッ♡♡♡
「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
美月さんの脚が、俺の腰に絡みつく。もっと奥を求めて。
「やば……美月さん、止まんない」
「いいの♡ 止まんなくて、いいのっ♡♡」
角度を変えて、突き上げる。
「そこぉっ♡♡♡♡」
結合部から、卑猥な水音が溢れた。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
「俺も、もう……っ」
「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこっ……♡♡♡♡」
美月さんが、背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
美月さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。
「……まだ、抜かないで♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を聞いていた。窓の外には、相変わらず、降るような星空が広がっている。しばらくして、美月さんが、くすっと笑った。
「……ねえ、三浦さん」
「はい」
「……まだ、元気だよね♡♡」
繋がった場所で、また硬くなり始めているのが、美月さんにもわかったらしい。
「美月さんが、気持ちよすぎて」
「もう♡ 謝らないで♡ ……今度は、私が動く♡」
新しいゴムに替えて、美月さんが俺の上にまたがった。騎乗位。黒髪が、肩から胸へと流れ落ちる。星明かりに照らされた美月さんを、下から見上げる。揺れる胸、引き締まったお腹、そして繋がっている場所。角度を調整して――
ずぷん♡♡
「あっ♡♡♡ この体勢、奥まで……入るっ♡♡♡」
ゆっくり、腰を上下させ始める。
ずぷ……ずちゅ……ずぷっ♡♡
「ん♡♡ 自分で動くの、すごっ♡♡♡」
目の前で、胸がぷるんぷるん揺れる。両手を伸ばして、掴んだ。
むにゅっ♡♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉んだら、動けなくなるっ♡♡♡」
「いいから。動いて、美月さん」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ 奥っ……いい場所に、当たってるっ♡♡♡♡」
美月さんが、腰を回すように動き始めた。ぐりんぐりんと、中をかき回される。
「これ……三脚担いで、山ばっか登ってるから♡♡ 脚、強いんですよ私♡♡♡」
「反則だろ、それ……っ」
ぐちゅるっ♡♡ ぐちゅるっ♡♡♡
下から、突き上げる。
ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下から、だめっ♡♡♡」
美月さんの動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。
パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡♡
「だめっ♡♡♡ イくイくイくっ♡♡♡♡♡」
「俺も、もう出る……っ!」
「一緒にっ♡♡♡♡ また一緒にっ♡♡♡♡♡」
ずぷんっ♡♡♡♡
最後の一突きを、奥に叩き込む。
「イくぅぅっ♡♡♡♡♡♡」
どくんっ、どくっ、どくっ、どくっ……!
「あぁぁぁっ♡♡♡♡♡ すごっ……♡♡♡ いっぱい……♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡♡
美月さんが、力を失って、俺の上に倒れ込んできた。汗だくの体を、ぎゅっと抱きとめる。
「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……最高、だった……♡♡♡♡」
「俺も。美月さん」
ちゅ、と汗ばんだ額にキスをした。二人で、しばらく荒い息を繰り返す。窓の外には、白樺の影越しに、星が静かに瞬いていた。
「……ねえ、三浦さん」
「はい」
「星、見に来たのに。……ぜんぜん、星、見てないね、私たち♡」
「……ですね。ずっと、美月さんしか見てない」
「……もう♡ それ、反則だってば♡」
くすくす笑いながら、美月さんが、俺の胸に頬を寄せた。黒髪から、汗と、夜気と、ほのかなシャンプーの混じった、いい匂いがした。
――朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めた。美月さんは、まだ俺の腕の中で眠っている。下ろした黒髪が、頬にかかって、寝顔が、とんでもなく無防備で可愛い。
すぅ……すぅ……。
(夢じゃ、なかった)
そっと窓の外を見る。梅雨の合間の、よく晴れた朝。白樺の葉が、朝日にきらきら光っている。遠くの山並みが、青く澄んでいた。
「ん……♡ 三浦さん……?」
美月さんが、目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。
「おはようございます。よく寝てましたね」
「……朝の光、きれい。撮りたいな」
「昼の光がきれいな場所は、夜もきれい、でしたっけ」
「……覚えてたんだ♡」
美月さんが、嬉しそうに笑って、俺の腕に、そっと自分の腕を絡めてきた。並んで、窓の外を眺める。しばらくして、俺は、口を開いた。
「美月さん。昨日、星の下で言ったこと、本気なんです」
「……うん?」
「また会いたい、って。一晩だけの思い出に、したくない」
美月さんが、こっちを見上げた。その目が、じわっと潤んでいく。
「……私も。本当は、ずっと、そう思ってた」
「東京、戻ったら……俺と、会ってくれますか。ちゃんと、恋人として」
美月さんの目が、まんまるになった。それから、ぽろっと一粒、涙がこぼれた。
「……ずるい。また、星の下みたいなこと言う」
「もう、星、出てないですよ。朝なんで」
「ふふ♡ ……うん。私も、三浦さんのことが好き♡ ……今日から、恋人ですね♡」
そう言って、美月さんが背伸びして、俺の唇に、ちゅっと軽くキスをした。
「ねえ。さっきの、ベガとアルタイルの話、覚えてます?」
「十四光年、離れてる二人」
「うん。……私たちは、新幹線で二時間でしょ。会おうと思えば、いつだって会える」
美月さんが、にっこり笑った。
「天の川より、ずっと近い♡ ……だから、私たちは、ちゃんと、一緒にいられますよ」
絡んだ腕に、そっと手を重ねた。同じ場所で躓いて、同じ空に救われた二人。だったら、これから先も、同じ空を、一緒に見上げていける気がした。
「……今度は、二人で撮りに行きましょう。天の川」
「いいね♡ じゃあ、三浦さんには、三脚係をお願いしようかな♡」
「下っ端ですか」
「ふふ♡ 大事な助手さんです♡」
窓の外、青く澄んだ高原の空に、白樺の葉が、朝の風で、さらさらと揺れていた。
衝動的に予約した、新月の星空ツアー。最後に星を見たのがいつか、思い出せなかった俺が――今、星を撮る人の隣で、目を覚ましている。
これは、たまたまの一晩なんかじゃない。きっと、何度でも一緒に空を見上げる、その始まりの夜だ。
ペンションの窓の向こうで、夏へ向かう高原の緑が、どこまでも青く澄んでいた。
― 終 ―