前職を辞めて、次の会社に入るまでに二週間だけ空白ができた。
俺、七瀬航(ななせ こう)、二十六歳。社会人になってから一度もまとまった休みなんて取ったことがなかった。
「……行くか、どこか」
転職の決まったあの夜、勢いでフェリーのチケットと宿を予約していた。行き先は沖縄の、本島からさらに船で渡る小さな離島。
人生初の一人旅。それも泳ぎが得意でもないのに、選んだアクティビティが「体験ダイビング」だった。我ながら、どうかしている。
六月の島は、もう完全に夏だった。港に降り立った瞬間、潮の匂いと太陽の熱が一気に体を包んだ。空が、嘘みたいに高い。
サトウキビ畑の間を抜ける一本道を歩いて、海沿いの小さなダイビングショップにたどり着いた。木の看板に手書きで店名。軒先に干されたウェットスーツが潮風に揺れている。
「すみません、ネットで体験ダイビング予約した七瀬です」
声をかけると、店の奥から人が出てきた。
(……え)
日焼けした肌。ショートカットの黒髪を無造作に後ろで留めている。タンクトップから伸びた腕も肩も、健康的に焼けて引き締まっていた。そして何より、こちらを見てふわっと開いた笑顔が——太陽みたいだった。
(めちゃくちゃ綺麗な人だ……)
慌てて頭を下げた。
「うちが今日のインストラクターの真栄田海音(まえだ あまね)。よろしくねー♡」
「あ、はい、よろしくお願いします」 「ガチガチだねー七瀬さん。海、初めて?」 「正直……泳ぎ、あんまり得意じゃなくて」 「だからよー、そういう人いっぱい来るさー。大丈夫、うちがついてるからね♡」
その「うちがついてる」の一言が、なぜか妙に頼もしかった。
説明を受けてウェットスーツに着替える。慣れない素材に四苦八苦していると、海音さんがファスナーを背中まで上げてくれた。
「ほら、できたさー。似合ってるよー」
「からかってます?」 「ふふ、ちょっとだけ♡」
笑うと、日に焼けた頬に小さなえくぼができる。
ショップの裏手から、すぐに海だった。エメラルドグリーンの遠浅。桟橋から少しだけ船で沖に出て、いよいよ初めての海中だ。
ところが——。
マスクをつけてレギュレーターを咥え、顔を水に沈めた瞬間。
(……っ、息が、できない)
頭では分かっている。口で呼吸すればいいだけ。でも体が言うことを聞かない。呼吸が浅くなる。胸が締め付けられる。ごぼごぼと泡だけが立って、心臓がうるさいくらい暴れた。
(やばい、無理かもこれ——)
水中でパニックになりかけた、その時だった。
すっと、目の前に海音さんの顔が来た。マスク越しに、まっすぐ俺の目を見ている。慌てるな、と言うように、ゆっくり頷いた。
そして——俺の手を、ぎゅっと握った。
温かい。日焼けした手のひらの感触が、水の中なのにはっきり伝わる。海音さんが自分の胸に手を当てて、ゆっくり吸って、ゆっくり吐く動作をして見せた。それに合わせて、俺も呼吸する。
すー……はー……。すー……はー……。
(……できた。吸えてる、吐けてる)
握られた手の温度が、不思議と暴れていた心臓を鎮めていく。呼吸が整った頃、海音さんがOKサインを出して、もう片方の手で水中を指差した。
色とりどりの魚の群れ。テーブルサンゴ。差し込む光が海底に網目模様を描いている。さっきまでの恐怖が嘘みたいだった。海の中で、彼女はずっと俺の手を離さなかった。
船に上がってマスクを外すと、海音さんが満面の笑みを向けてきた。
「ねー、最初パニックなりかけたっしょ♡ でも乗り越えたさー。えらいえらい♡」
「……海音さんが手、握っててくれたから」 「うちはそのためにおるからね♡」
濡れた前髪をかき上げる海音さんが、まぶしくて直視できなかった。
その夜、宿に戻っても、握られた手の温度がずっと残っていた。
(……明日も、潜りたいな)
それは魚を見たいというより、たぶん——別の理由だった。
二日目。
「七瀬さん、おはよー♡ 顔色いいさー」
「おかげさまで。今日はもうちょっと深く行けます?」 「お、やる気じゃーん♡ いいよー、連れてったげる♡」
昨日より少し沖。少し深く。呼吸はもう怖くなかった。海音さんが横にいてくれるだけで、海が味方に思えた。
砂地をゆっくり進んでいると、海音さんが急に俺の腕を掴んで、前方を指差した。
(——ウミガメだ)
大きなアオウミガメが、ゆったりと水を掻きながら、すぐ横を泳いでいた。海音さんが「並んで」とジェスチャーする。俺たちはウミガメの少し後ろに並んで、同じ速度で泳いだ。
巨大な生き物が、こんなに優雅に、こんなに静かに、隣を進んでいく。海音さんを見ると、彼女もマスクの奥で笑っていた。
陸に上がって、ログ付けの時間。ショップのテラスで、海を見ながら今日のダイビングを記録する。海音さんが冷たい麦茶を出してくれた。
「七瀬さん、ほんと上達早いさー。明日ライセンス講習いっちゃう?」
「え、二日でそんな簡単に取れるんですか」 「素質あるよー♡ うちが保証する♡」
麦茶を飲みながら、なんとなく訊いてみた。
「海音さん、ずっと島の人なんですか」
「ううん。三年前まで東京におったさー」 「東京……意外です。あ、その、海音さん、おいくつなんですか」 「えー、レディに歳訊くー?♡ ……うち、二十九さー。今年で三十さー」 「全然、見えないです」 「もー♡ お世辞うまいさー♡ 二十六の七瀬さんから見たら、おばさんさー?♡」 「いや、そんな……むしろ」 「ふふ♡ いいよー、続き話したげる♡ 丸の内の商社でOLしてたんだよー。スーツ着てヒール履いてさー」
今の彼女からは、まったく想像がつかなかった。
「毎日、終電。土日も電話鳴って。気づいたら笑い方、忘れてたさー」
ふっと、海を見つめる横顔が少しだけ陰った。
「ある年の夏休みに、この島に来たわけ。それで体験ダイビングしてさー。海の中で、息してるだけで涙出てきたんだよね」
「……息してるだけで」 「うん。あー、うち、ずっと息止めて生きてたんだーって。気づいちゃってさー」
それで、彼女は会社を辞めて、この島に移住したのだという。
「だからよー、昨日の七瀬さんの気持ち、めっちゃわかるわけ。海でパニックなる人、放っとけないさー」
握ってくれたあの手の理由が、少しだけ分かった気がした。
「……俺も、ちょうど仕事辞めたとこなんです。次の会社に入るまでの隙間で、ここに来てて」
「えー、おそろいじゃん♡ 隙間に島来た同士♡」
くしゃっと笑う海音さん。さっきの陰りはもう消えていた。
その夜だった。夕飯のあてもなく、宿の人に教わった島の居酒屋に、ふらりと入った。古い木造の店。三線の音が、生で流れている。
カウンターに座って泡盛を頼むと——奥のテーブルから、聞き覚えのある声がした。
「あれー!? 七瀬さんじゃーん♡ こっちおいでよー♡ 一人でしょー♡」
振り向くと、海音さんが島のおじいやおばあに囲まれて、すでに顔を赤くしていた。
「お邪魔じゃ……」
「なーに言ってるさー、若いの一人で飲んでたら可哀想だろー。座れ座れ」
三線を弾いていた七十は優に超えていそうな常連のおじいが、豪快に笑って俺を手招きした。断る間もなく、海音さんの隣に座らされる。
「あんた、アマネのお客さんかー? アマネはなー、島でいっちばん腕のいいインストラクターさー。けど男っ気が全っ然なくてなー!」
「ちょっとー! おじい、余計なこと言わんでー♡」
「ほー、顔赤いのは泡盛のせいかー? それとも隣のにーにーのせいかー?」
「もーっ♡」
海音さんが俺の腕をぺしっと叩いた。常連たちがどっと笑う。三線に合わせて、誰かが歌い始める。手拍子。泡盛のグラスが何度も重なる。
「七瀬さん、泡盛いける口さー♡」
「ちょっと回ってきました」 「うちもー♡ えへへ♡」
肩がぶつかる距離。海音さんの体温が、潮の匂いに混じって伝わってくる。常連がからかうたびに、海音さんは「もー♡」と笑って、ますます俺の方に体を寄せてきた。
店を出る頃には、星が降るみたいに空を埋め尽くしていた。
「うわー、星きれいさー♡ 七瀬さん、見て見て♡」
夜道を二人で歩く。街灯もまばらで、月明かりだけが頼りだった。
「東京じゃ、こんな星見えないですね」
「でしょー♡ これも、うちが島に残った理由のひとつさー♡」
宿の前で別れ際、海音さんがくるっと振り返った。
「明日、ライセンス講習ね♡ 一発で合格させたげる♡ おやすみー♡」
手を振って帰っていく後ろ姿を、俺はしばらく見送っていた。
(……俺、たぶん、この人のこと)
その先は、口にしなくても分かっていた。
三日目。ライセンス講習の本番。学科のテスト、海でのスキル実習。
「中性浮力、上手ー♡ マスククリアもばっちりさー♡」
海音さんの教え方は丁寧で、でも安全に関わるところだけは声がぴしっと引き締まった。
「七瀬さん。そこ、ゲージの確認は絶対サボったらだめ。命に関わるからね」
「……はい。すみません」 「うん。よくできてるよ♡ そこだけは厳しくいくさー♡」
メリハリのある彼女に、ますます惹かれた。
そして夕方——。
「合格でーす! おめでとー、七瀬さん♡ ダイバー誕生さー♡」
「ほんとですか!?」 「一発合格♡ 言ったっしょ♡」
海音さんが両手でハイタッチを求めてきた。ぱちん、と手を合わせる。そのまま、彼女は俺の手をぎゅっと握って、ぶんぶん振った。海の中で握ってくれた、あの手だった。
「お祝いしよー♡ サンセットビーチ行こ♡」
ショップの冷蔵庫からオリオンビールを二本失敬して、白い砂浜へ歩いた。砂の上に並んで腰を下ろす。
カシュッ。栓を開けて、缶を合わせた。
「かんぱーい♡ ダイバー七瀬航くんに♡」
「乾杯。海音さんのおかげです」
冷えたビールが、火照った喉に染みた。水平線に、太陽がゆっくりと近づいていく。空がオレンジから、ピンク、そして紫へとグラデーションに染まっていく。
海音さんの横顔が、夕陽に照らされてオレンジ色に輝いていた。
(……綺麗だ)
しばらく、二人とも黙って海を見ていた。波の音だけが、ざざ、ざざ、と寄せては返す。
ぽつりと、海音さんが言った。
「……明日、帰っちゃうんだね」
「……はい」
太陽が、半分だけ海に沈んでいた。何か言わなきゃ、と思うのに、言葉が喉につかえて出てこない。
(……このまま、ただの楽しい旅行で終わらせるのか?)
「三日間、楽しかったなー……」
「俺も。海音さんがいてくれたから」 「……うちもさー」
それきり、また沈黙。夕陽がとうとう完全に水平線へ消えた。空にまだオレンジの名残を残したまま、世界が藍色に変わっていく。互いに言い出せない空気が、波の音の中に漂っていた。
ふいに、海音さんが立ち上がった。
「……七瀬さん。最後に、見せたいものあるさー」
「え?」 「ついてきて♡ 夜にならないと見れないやつ♡」
差し出された手を、俺は迷わず握った。
連れて行かれたのは、ショップの裏の、人気のない小さな浜辺だった。月が雲に隠れて、あたりは真っ暗。波の音だけがやけに大きく聞こえる。
「真っ暗ですけど……」
「いいから、波打ち際まで来て♡ ほら、足で水、蹴ってみて♡」
言われるままに、波打ち際で足を動かした。
その瞬間——。
「……っ!」
蹴った水が、青白く光った。足を動かすたびに、波の縁が、無数の小さな星みたいに、青く明滅する。
「夜光虫さー♡ この時期だけ、波が光るんだよ♡」
打ち寄せる波が、岸に届くたびに青く光って、消えていく。砂浜の縁が、まるで天の川みたいに輝いていた。
「すごい……こんなの、初めて見た」
「でしょー♡ うちの、いっちばん好きな場所♡」
海音さんが、波打ち際でくるりと回った。蹴り上げられた水が、青い光の弧を描く。その光に照らされた彼女の笑顔を見た瞬間——もう、止められなかった。
「海音さん」
「ん?」
「……俺、たぶん、海音さんのこと好きです。三日しか経ってないのに、おかしいですよね。でも、好きなんです」
波の青い光が、二人の足元で静かに明滅していた。海音さんが、目を見開いて——それから、くしゃっと泣きそうな顔で笑った。
「……ずるいさー、七瀬さん」
「え」 「うちが、先に言おうと思ってたのに♡ ……うちもだよ。海でパニックなった七瀬さんの手、握った時から、ずっと♡」
ざざ、と波が寄せる。青い光が、二人を包む。
「……キス、していいですか」
「……うん♡」
頬に手を添えると、潮で少し冷たかった。ゆっくり、顔を近づける。
夜光虫の青い光の中で、唇を重ねた。
ちゅ……。
柔らかい。少ししょっぱい。海の味がした。
「ん……♡」
触れるだけのキスから、もう一度。今度は角度を変えて、深く。
ちゅ……んっ……ちゅる……。
海音さんの手が、俺の胸元をきゅっと掴んだ。唇を食むようにすると、彼女が小さく口を開いた。舌先がそっと触れ合う。
れろ……ちゅる……んっ……♡
ぷは、と離れると、唾液の糸が月明かりに細く光った。
「……はぁ……♡ 七瀬さん、キス……上手だね♡」
「海音さんが、可愛すぎるから」 「もー♡ そういうの、ずるいって♡」
波打ち際で、もう一度抱き合ってキスを交わした。青い光が、寄せては返す。海音さんが、ふと、俺の手を握り直した。
「……ねえ。うちの部屋、海、見えるんだ。……来る?」
心臓が跳ねた。まっすぐ俺を見る瞳に、潮の匂いと、期待が混じっている。
「行きます」
「即答さー♡」
「断る理由がない」
「……ふふ♡ うちも♡」
繋いだ手を、もう離さなかった。
海音さんの部屋は、ショップから歩いてすぐの、平屋の一室だった。網戸越しに、潮騒が聞こえてくる。風が、海の匂いを運んでくる。窓の外には、月明かりに照らされた海が広がっていた。
「散らかってるけど……シャワー、浴びる?」
「……一緒に?」 「……っ♡ もー、大胆さー♡」
それでも海音さんは、いたずらっぽく笑って、俺の手を引いた。二人で潮と汗を流して、部屋に戻る。
海音さんが、薄手のキャミソール一枚で、ベッドに腰掛けた。日焼けした肌に、シャワーの雫が光っている。並んで座ると、太ももが触れ合った。
潮騒。網戸を抜ける夜風。月明かり。
俺は、海音さんの頬にそっと触れた。海音さんが、目を閉じる。
——唇を、重ねた。
ちゅ……んっ……♡
今度のキスは、さっきより熱かった。互いの舌を絡め合って、夢中で求め合う。
ちゅる……んちゅ……れろ……♡
「ん……はぁ……♡ 七瀬さん……♡」
腰に手を回して引き寄せる。シャワー上がりの体温が、薄い布越しに伝わってきた。キャミソールの肩紐に、指をかける。
「……脱がせて、いいですか」
「……うん♡ 七瀬さんになら♡」
肩紐をずらすと、はらりと布が落ちて——日焼けした肌と、日に焼けていない白い胸とのコントラストが、月明かりに浮かんだ。形のいい胸。先端は、ほんのり色づいて、もう少し硬くなっている。
「……綺麗だ」
「やっ♡ あんまり見ないでー♡」
腕で隠そうとするのを、そっと掴んでどけた。右手で、左の胸を包むように触れる。
ふにっ。
「あっ♡」
手のひらに吸い付くような、柔らかい弾力。指を沈めると、むにっとはみ出す。親指で先端を、くりっと転がした。
「ひゃっ♡♡ んっ♡」
びくん、と体が跳ねる。先端が、指先でコリコリと硬くなっていくのが分かる。唇を、胸の先に落とした。ちゅう♡
「あぁっ♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。
ちゅるっ♡ れろ♡ ちゅう♡♡
「やっ♡♡ 吸わないでー♡♡ 変な声出ちゃうさー♡♡」
交互に舌を這わせて、たっぷり味わう。海音さんの肌が、うっすら汗ばんで、潮の匂いがした。海音さんの手が、俺の頭を抱えるように回された。
「七瀬さん……うち、もう……♡」
キャミソールを完全に脱がせ、最後の一枚に手をかける。ショーツの上から、そっと指で触れた。
すり……。
「んっ……!♡」
——じわり。薄い布越しでも、熱と湿り気がはっきり伝わってきた。
「……もう、こんなに」
「だって♡ キスの時から、ずっと……♡♡」
ショーツに指をかけて、ゆっくりずり下ろす。とろりと、蜜が糸を引いた。海音さんをベッドに横たえ、脚の間に体を滑り込ませる。
日焼けの境目の、白い太ももの内側にキスを落としながら、ゆっくり中心へ近づいていく。舌先で、そっと触れた。ちろ……。
「んあっ♡♡!」
海音さんの腰が、びくんと跳ねた。
ちゅる……れろ……ちゅっ……♡
「あぁっ♡♡ やぁ……そこ……♡♡」
海音さんの手が、俺の髪をぎゅっと掴む。小さな粒を舌先で見つけて、集中して転がした。
こりこり……ちゅっ……♡
「そこっ♡♡♡ あっ、あっ、あっ……♡♡」
太ももを押さえて開かせながら、舌を動かし続ける。粒を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げた。
「——っ♡♡♡! イッ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」
海音さんの背中が、弓なりに反った。日焼けした全身が、びくびくと震える。しばらくして、力が抜けたようにベッドに沈んだ。
「はぁ……はぁ……♡♡ ……七瀬さん、上手すぎ……♡」
潤んだ瞳で見上げて、海音さんが体を起こした。俺にキスをして、囁く。
「……今度は、うちにさせて♡」
ベッドの上で、海音さんが俺の前に体をずらす。すでに限界まで張り詰めたものに、日焼けした細い指がそっと添えられた。
「……すごい♡ こんなになって♡」
指が、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。
「口で、してもいい?♡」
上目遣いで訊いてくる表情が、艶っぽすぎて言葉にならない。ちゅ、と先端にキス。ぺろ、と舐めて——ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かく濡れた口の中に、先端が包まれる。
「ん……じゅる……♡ んちゅる……♡」
ゆっくり頭を上下させて、頬をすぼめて吸い上げる。
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡
「海音さん、やばい……気持ちよすぎる……」
「んふ♡ もっと、奥まで……♡」
ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えるたびに、喉の奥に触れて、全身に電流が走る。
「……止まって。このままだとイっちゃう」
ぷは、と口を離す海音さんの唇が、唾液で濡れててらてら光っていた。
「だーめ♡ まだイっちゃ♡」
いたずらっぽく笑う海音さんを、ベッドに引き上げた。枕元のバッグから、コンドームを取り出す。
「……用意いいさー♡」
「一応、念のため」 「ふふ♡ ……つけて♡」
手早く装着して、海音さんに覆いかぶさる。月明かりに照らされた、日焼けの肌と白い肌のコントラスト。蜜で濡れた入り口に、先端をあてがった。
「……来て、七瀬さん♡」
「……入れます」
ゆっくり、押し入れていく。ずぷ……っ。
「んんっ……♡♡!」
温かい。きつい。中が、ぎゅうっと締め付けてくる。
「入って……きてる……♡♡ おっきい……奥まで……♡♡」
根元まで収まると、下腹部が密着した。少しだけ動きを止めて、馴染ませる。ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずぷ……ずちゅ……♡
「あっ♡♡ んっ♡♡」
パン……パン……パン……。
「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ちいい……さー♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から、卑猥な水音が響く。潮騒に混じって、肌のぶつかる音が、月明かりの部屋に広がっていく。腰を掴んで、ペースを上げた。
パンパンパンパン……!
「あっあっあっ♡♡♡♡ そこっ♡♡ 奥に当たってるさー♡♡♡」
角度を変えて突き上げると——
「そこぉっ♡♡♡! いいとこっ♡♡♡」
海音さんの脚が、俺の腰に絡みついてくる。もっと奥を求めるように。
「もっとっ♡ もっと奥っ♡♡♡」
網戸を抜ける夜風が、汗ばんだ二人の肌を撫でていく。
パンパンパンパンパン……!!
「やばっ♡♡♡ また来ちゃうっ♡♡♡ イっちゃうさーっ♡♡♡♡」
「俺も……っ」
「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこ……七瀬さん♡♡♡♡」
海音さんが、俺の背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡んだ。奥に押し付けるように——最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
どくっ、どくっ、どくっ……!
海音さんの全身が震えて、中が痙攣するように搾り取ってくる。
「はぁっ……♡♡♡ すごい……♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。繋がったまま、しばらく互いの心臓の音を聞いていた。潮騒が、ずっと聞こえている。
ゆっくり体を離すと、海音さんが横を向いて、とろけた瞳で俺を見た。
「……ねえ、七瀬さん♡ もう一回、しよ♡」
体が、すぐに反応した。
「今度は……うちが上になりたいさー♡」
新しいコンドームを着け終えると、海音さんが俺を仰向けに押し倒した。俺の腰の上に、またがってくる。月明かりに照らされた、しなやかな日焼けの体。引き締まった腹筋。形のいい胸が、目の前で揺れる。
海音さんが、角度を合わせて——ゆっくり腰を落とした。
ずぷん♡♡
「あっ♡♡♡ この体勢……奥まで来るっ♡♡♡」
「……っ、海音さん、それ……」
「ふふ♡ 気持ちいい?♡」
海音さんが、ゆっくり腰を上下させ始めた。
ずぷ♡ ずちゅ♡ ずぷっ♡♡
「ん♡♡ 自分で動くの……すごいっ♡♡♡」
目の前で揺れる胸に、手を伸ばして両方掴んだ。
むにゅっ♡♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉まないでー♡♡ 動けなくなるさーっ♡♡♡」
「いいから、動いて」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ 奥にっ♡♡ いい場所に当たってるっ♡♡♡♡」
海音さんが、腰を回すように動き始める。ぐりんぐりんと、中をかき回される。
「うち……海でいっぱい泳いでるからっ♡♡ 腰、強いんだよー♡♡♡」
「……反則だ、それ」
ぐちゅるっ♡♡ ぐちゅるっ♡♡♡
たまらず、下から突き上げた。
ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下からっ♡♡♡」
海音さんの動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。
パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
「だめっ♡♡♡ そこばっかりっ♡♡♡ おかしくなるさーっ♡♡♡♡」
海音さんが、俺の上に倒れ込んでくる。汗ばんだ胸が、俺の胸に押し付けられた。そのまま、ぎゅっと抱きしめて、下から激しく突き上げる。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
「あっあっあっ♡♡♡♡ また来るっ♡♡♡ 来ちゃうっ♡♡♡♡!」
「俺も……っ! 一緒に、イこう」
「うんっ♡♡♡ 一緒にっ♡♡♡ 一緒にイこうねっ♡♡♡♡」
海音さんが、俺の首にしがみつく。中が、きゅうきゅうとリズミカルに締め付けてくる。奥に押し付けるように——最後の一突き。
「イくぅっ♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
海音さんの全身が震えて、中が痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡」
「……俺も。最高でした」
汗だくの体を重ねたまま、月明かりの中で抱き合う。網戸を抜ける夜風が、ほてった肌に心地いい。潮騒が、ずっと寄せては返していた。
海音さんが、俺の胸に頬をつけて、ぽつりと言った。
「……七瀬さん、明日、帰っちゃうんだよね」
「……はい」
繋がったまま、二人とも黙った。
(……この三日間を、ただの思い出にしたくない)
俺は、海音さんの背中を撫でながら、はっきり言った。
「海音さん。俺、転職しても、休みは全部ここに来ます。会いに来ます。海音さんに」
海音さんが、顔を上げて——その目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「ちがうの♡ 嬉しいの♡ ……うちもさー、東京、行くよ♡ 七瀬さんに会いに♡」
「……遠距離、ですね」 「うん♡ でも、海でも繋がってられたんだもん♡ 距離なんて、平気さー♡」
ちゅ、と、海音さんが俺の唇にキスをした。
「うちと、付き合ってくれる?♡」
「……こっちのセリフです。付き合ってください」
「……♡♡♡ やった♡♡」
海音さんが、太陽みたいに笑った。網戸の向こうで、波がざざ、と寄せて、返した。その夜、俺たちは海の見える部屋で、潮騒を聞きながら眠った。
翌朝。港のフェリー乗り場。出航の汽笛が、もうすぐそこまで来ていた。
「……行っちゃうんだね」
「……はい」
海音さんは、いつもの太陽みたいな笑顔で見送ってくれようとして、でも、目が少し潤んでいた。
「次の連休、すぐ来ます。ライセンス取ったし、今度はファンダイブで」
「ふふ♡ もう一人前のダイバーさー♡ 楽しみにしてる♡」
フェリーの乗船が始まる。俺は、最後に海音さんを抱きしめた。
「……行ってきます」
「うん♡ いってらっしゃい♡ ……うちの、彼氏♡」
タラップを上がって、デッキから手を振る。海音さんが、桟橋で大きく手を振り返してくれた。フェリーが離れていっても、ずっと、ずっと。
エメラルドグリーンの海が、二人の間に広がっていく。
(……必ず、帰ってくる)
俺は、青い海に向かって、そう誓った。
それから半年後。
俺は、新しい会社で、リモートワークに切り替える交渉をやり遂げた。週の半分は東京のオフィス、残りは——この島から。
「七瀬さーん♡ お客さん来たよー♡ 体験ダイビング♡」
「はーい、今行きます」
ショップのテラスで、俺はウェットスーツに着替えながら返事をする。すっかり日焼けして、今では海音さんの仕事を手伝うのが当たり前になっていた。
桟橋の先で、海音さんが、いつもの太陽みたいな笑顔で手招きしている。
「ねー、航♡ 今日のお客さん、泳ぎ苦手なんだって♡ 半年前のあんたみたいさー♡」
「じゃあ、手、握ってあげないとですね」 「……ふふ♡ それ、うちの専売特許なのに♡」
くしゃっと笑う海音さんの手を、俺はぎゅっと握った。あの日、海の中で握ってくれた手を。
エメラルドグリーンの海が、二人の足元で、どこまでも青く澄み渡っていた。
― 終 ―