#真夏

2件の記事

  1. 元カノ・再会

    仕事に擦り切れて、当てもなく走った真夏の峠道で、僕の車はとうとう白い湯気を吐いて止まった。汗だくで駆け込んだ、麓のたった一軒の自動車整備工場。油に汚れたつなぎで、ボンネットの奥からこちらを向いたのは──六年前、僕が東京に残ると言って別れた元カノ・朱里だった。部品が届くまでの三日間、止まっていた二人の時間が、蝉時雨と夕立の匂いの中で、もう一度ゆっくりと回り始める。

  2. 社会人・オフィス

    削減目標の数字に追われて、僕は自分の働くビルを、ただのグラフとしか見られなくなっていた。データを取りに通った地下の防災センターで出会ったのは、空調も電力も一晩じゅう一人で見守る、寡黙な年上の設備員・沢渡さん。建物には体温があり、呼吸があると、彼女は教えてくれた。猛暑のピークを越えた熱帯夜の明け方、誰もいない監視室で、僕たちは結ばれた。