梅雨の晴れ間、おひとりさま限定の日帰りバスツアーで鎌倉のあじさい寺を巡ったら、隣の席になった和菓子職人の美人と最後に手を繋ぎその夜に結ばれた話

梅雨に入ってから、ずっと頭の芯が湿っていた。

俺、深沢涼太(ふかさわ りょうた)、二十八歳。都内のWeb制作会社で働いている。

四月から続いた大型案件がようやく終わって、五月の連休も全部出勤で潰れて、気づけば六月。窓の外はずっと灰色で、傘を差したり閉じたりするだけの毎日に、心がすり減っていた。

(……どこか、行きたい)

金曜の深夜、ベッドの中でスマホを眺めていたら、旅行サイトの広告がふと目に留まった。

『おひとりさま限定・鎌倉あじさい名所めぐり 日帰りバスツアー』

ひとり参加限定。それが、なぜか刺さった。誰かと予定を合わせる気力もない。でも一人で電車を乗り継いで計画を立てる元気もない。バスに乗っていれば連れて行ってくれる——その受け身さが、今の俺にちょうどよかった。

(明日か。……まあ、いいや。行くか)

残り一席。勢いでカードの番号を打ち込んで、予約完了のメールを見届けてから、俺は久しぶりに深く眠った。

翌朝。梅雨の晴れ間だった。

新宿の集合場所に着くと、すでに同年代から年配まで、二十人ほどが思い思いに立っていた。本当に、見事に全員が一人だ。それがかえって気楽だった。誰も連れがいないなら、一人でいることが浮かない。

「おはようございまーす♡ 本日添乗員を務めます、宮原と申します。あいにくの梅雨ですが、今日は奇跡的に降らない予報です! あじさい日和ですよー♡」

やたらと声の明るい添乗員の女性が、バインダー片手にテキパキと点呼を取っていく。

「お席は基本的に受付順なんですが、おひとり様同士、せっかくなので隣の方とは軽くご挨拶だけでもどうぞー♡」

バスに乗り込む。窓側の俺の席の、通路側。

そこに座ったのが——彼女だった。

(……あ)

白いブラウスに、淡い藍色のロングスカート。肩までのまっすぐな黒髪を、耳の後ろで小さく留めている。化粧は薄くて、でも、伏せた睫毛が長い。膝の上に、小ぶりな籐のかごバッグを抱えていた。

派手さはまったくない。なのに、清潔な水みたいに目を引く人だった。

「あ……隣、失礼します」

「どうぞ。あ、深沢です。よろしくお願いします」

「一ノ瀬です。……一人参加、なんだか緊張しますね」

「俺もです。昨日の夜、勢いで予約したクチで」

「ふふ、一緒です。私も昨日……梅雨の青が見たくなっちゃって」

笑うと、目尻がやわらかく下がった。声が、少し低くて落ち着いている。それがまた、心地よかった。

バスが首都高に乗る頃には、一ノ瀬さんとの会話は自然に続いていた。

「一ノ瀬さんは、お休みなんですか。今日」

「はい。火曜定休のお店で働いてて。今日はその振替で」

「お店、というと」

「和菓子屋さんです。私、和菓子職人で」

「えっ、職人さん。すごいな……」

「全然すごくないですよ。まだ五年目で、毎日あんこと睨めっこしてるだけです」

そう言って、かごバッグから小さな紙箱を取り出した。

「これ、昨日の試作。よかったら。崩れちゃってるかもですけど」

蓋を開けると、淡い水色と紫の、にじむようなグラデーションの練り切りが二つ並んでいた。表面に、繊細な箆(へら)の筋。

「……あじさいだ」

「あ、わかります? そう、紫陽花。梅雨の時季だけの上生菓子なんです」

「綺麗すぎて、食べるのもったいないな……」

「ふふ。和菓子は『食べてもらってこそ』なので。どうぞ、遠慮なく」

楊枝で切って、口に運ぶ。上品な甘さが、舌の上でほどけた。さっきまで湿っていた頭の芯に、すっと風が通った気がした。

「……うまい。なんか、生き返る」

「ふふっ。大げさです」

「いや、本気で。最近ずっと疲れてて。今日も、それで逃げてきたようなもんで」

「……わかります。私も、同じです」

窓の外を流れる景色を見ながら、一ノ瀬さんが少しだけ目を細めた。その横顔に、なぜか目が離せなかった。

最初の目的地は、北鎌倉の明月院だった。

『あじさい寺』の別名どおり、参道の両脇を埋め尽くすように、青いあじさいが咲いていた。雨上がりの葉が、陽を受けて濡れたように光っている。

「わぁ……明月院ブルー、本当に青い……」

「すごいな。空より青いかも」

人混みの中、はぐれないように自然と隣を歩いた。一ノ瀬さんが立ち止まって、スマホを構える。でも、人波に押されて、なかなか狙った角度に入れないでいた。

「撮りましょうか。あじさいと、一ノ瀬さん」

「えっ、いいですよそんな……」

「せっかく来たんだし。記念に」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

青いあじさいの前に立った彼女は、少し照れたように笑った。藍色のスカートが、花の色と溶け合っている。

(……綺麗だ)

シャッターを切りながら、不覚にも、そう思ってしまった。

「ありがとうございます。じゃあ、お返しに深沢さんも」

「いや、俺はいいですよ」

「だめです。一人参加の人ほど、自分の写真がないんですから。ほら」

半ば強引にレンズを向けられて、俺はぎこちなく立った。

「ふふ、緊張しすぎ。もっと自然に」

「こういうの、苦手で」

「じゃあ、私のこと見ててください。はい、撮りますよ」

言われるまま彼女の方を見たら、ちょうど風が吹いて、あじさいの枝が揺れた。何でもない瞬間だったのに、その一枚を、後でずっと見返すことになるなんて、このときは思いもしなかった。

円覚寺をまわって、昼食は北鎌倉の精進料理の店だった。

ツアーの自由席で、俺たちは当たり前のように向かい合って座った。竹籠に盛られた、季節の野菜と豆腐。

「一ノ瀬さんは、なんで和菓子職人に?」

「祖母が、家でよく作る人で。彼岸のおはぎとか、お正月の花びら餅とか。……子供の頃、それを手伝うのが好きだったんです」

「いいな、そういうの」

「祖母が亡くなった年に、専門学校に入り直しました。会社員、辞めて」

「え、一回就職してたんですか」

「はい。三年だけ、事務職を。でも、ずっと——息を止めてるみたいだったんです」

箸を止めて、一ノ瀬さんが少し笑った。

「今は、毎朝あんこを炊いてると、ちゃんと息ができてる気がして。給料は減ったし、手は荒れるし、夏は地獄みたいに暑いんですけど」

「……かっこいいな、それ」

「ぜんぜん。逃げただけかもしれないし」

「いや」

気づいたら、俺は少し前のめりになっていた。

「逃げてここに来た俺が言うのもなんですけど。……ちゃんと息ができる場所を選べたなら、それは逃げじゃないと思う」

一ノ瀬さんが、ふっと目を見開いて、それから、ゆっくりと俯いた。

「……深沢さん、ずるいですね」

「え」

「そういうこと、さらっと言うの」

その頬が、ほんのり赤かった。

午後は、長谷寺。

斜面に造られた境内の、あじさいの散策路を二人で登った。階段の途中で振り返ると——由比ヶ浜の海が、梅雨の晴れ間の光を浴びて、銀色に光っていた。

「……海、見えるんですね」

「ほんとだ。あじさいと海、贅沢だな」

狭い散策路で、人とすれ違うたびに、肩が触れそうになる。そのたびに、一ノ瀬さんの腕が、そっと俺の腕に寄った。

紫、青、薄紅。色とりどりのあじさいに囲まれた、見晴台のような場所で、俺たちは並んで海を見た。

「今日、来てよかったです」

「俺も。……正直、一人でぼーっとするつもりだったんですけど」

「ふふ。当てが外れちゃいましたね」

「いや。……外れて、よかった」

風が、彼女の髪を揺らした。耳にかけ直そうとした一ノ瀬さんの手と、同じ髪をよけようとした俺の手が、宙で軽く触れた。

「あ……」

「……ごめん」

慌てて引っ込めようとした俺の手の、指先を——一ノ瀬さんが、ほんの少しだけ、握り返した。

「……もう少しだけ、このまま」

海風の中で、繋いだ手だけが、温かかった。

ツアーの最後は、小町通りでの自由時間だった。

「皆さーん、解散は鎌倉駅です! 自由時間は一時間、各自で散策をどうぞー♡ ……あら?」

添乗員の宮原さんが、手を繋いだままの俺たちを見て、にっこり笑った。

「ふふ、おひとりさまツアーなのに、お二人さまになっちゃって♡ いいですねぇ、青春♡」

「ちっ、違います!」

「……いや、否定しなくても」

「も、もうっ」

赤くなる一ノ瀬さんがおかしくて、つい笑ってしまった。

夕暮れの小町通りを、二人で歩いた。食べ歩きの団子を半分こして、古い甘味処を冷やかして。彼女は和菓子屋の職人らしく、店先のショーケースを見るたびに「あ、この羊羹の切り口きれい」とか「この最中、皮が薄い」とか、楽しそうに解説してくれた。

「一ノ瀬さん、ほんとに和菓子好きなんですね」

「あっ……すみません、つい職業病で」

「いや。好きなこと語ってる人、いいですよ。見てて楽しい」

「……また、そういうこと言う」

解散時刻が近づくにつれて、二人とも、だんだん口数が減っていった。

(このまま、ただの楽しい一日で終わらせるのか?)

鎌倉駅。宮原さんが、ツアーの締めの挨拶をしている。

「皆さま、本日はお疲れさまでしたー♡ ここで解散となります。気をつけてお帰りくださいね♡」

解散。みんなが、それぞれの改札へ散っていく。一人で来て、一人で帰っていく人たちの後ろ姿。

俺と一ノ瀬さんは、ホームで顔を見合わせた。

「……同じ電車、ですね」

「みたいですね。横須賀線」

二人で並んで電車に乗った。夕暮れの車内は空いていて、長いシートに、肩が触れる距離で座った。

電車が、武蔵小杉を過ぎる。

一ノ瀬さんが住んでいるのは、品川のひとつ手前の駅だと、車内で聞いていた。俺は、もっと先。

降りる駅が、近づいてくる。

「……あの、深沢さん」

「はい」

「今日、本当に……楽しかったです」

「俺もです。すごく」

彼女が、膝の上のかごバッグを、ぎゅっと握った。

「……次の駅、私、降りるんです」

「……はい」

アナウンスが、彼女の降りる駅名を告げる。電車が、ゆっくり減速していく。

このまま、別れる。それが普通だ。連絡先を交換して、また今度、なんて言って。でも——「また今度」が来ないことを、俺はもう何度も経験していた。

ドアが、開く。

一ノ瀬さんが、立ち上がった。そして、振り返って、まっすぐ俺を見た。

「……あの。試作のあじさい、まだあるんです。家に」

「え」

「ちゃんと、形が綺麗なやつ。……食べて、いきませんか」

心臓が、跳ねた。彼女の頬は赤くて、でも、目はそらさなかった。

俺は、迷わず立ち上がった。

「……行きます」

「……っ、即答」

「断る理由が、ない」

閉まりかけたドアを、二人で滑り込むように抜けた。

一ノ瀬さんの部屋は、駅から歩いて数分の、こぢんまりとしたワンルームだった。

きちんと片付いていて、小さなキッチンの棚に、製菓用の道具が几帳面に並んでいる。あんこの、ほのかに甘い匂いがした。

「散らかってて……あ、麦茶でも淹れますね」

「ありがとうございます」

冷蔵庫から取り出した小箱を開けて、彼女は皿に、青と紫の練り切りを二つ並べた。バスの中で見たのより、ずっと形が整っている。

「これが、ちゃんとできたほうの、紫陽花です」

「……やっぱり、綺麗だ」

楊枝を手に取りながら、俺は隣に座った彼女を見た。麦茶のグラスを両手で包んで、少し緊張した横顔。さっき手を繋いだ感触が、まだ指に残っていた。

「一ノ瀬さん」

「……はい」

「……あじさいより、一ノ瀬さんのほうが、綺麗です」

「……っ、もう、それ……反則です」

潤んだ瞳が、俺を見上げた。そっと、頬に手を添える。冷房で、少し冷たかった。

ゆっくり顔を近づけると、彼女は静かに目を閉じた。

——唇を、重ねた。

ちゅ……。

柔らかい。麦茶の、わずかな苦みと、ほのかな甘さがした。

「ん……♡」

触れるだけのキスから、もう一度。今度は、少しだけ角度を変えて、深く。一ノ瀬さんの手が、俺の袖をきゅっと掴んだ。

ちゅ……んっ……ちゅる……♡

唇を食むようにすると、彼女の口が、わずかに開いた。舌先が、おずおずと触れ合う。

れろ……ちゅ……んっ……♡

ぷは、と離れると、二人とも息が上がっていた。

「……はぁ……♡ 深沢さん……」

「……止められなくなりそうだ」

「……止めなくて、いいです」

その一言で、理性の糸が、ほどけた。

ベッドに、彼女をそっと横たえる。藍色のスカートが、白いシーツの上に広がった。

ブラウスのボタンを、ひとつずつ外していく。緊張で、指が少し震えた。

「……あんまり、見ないで、ください。恥ずかしい」

「……無理です。綺麗だから」

ブラウスを開くと、淡い水色の下着に包まれた胸が現れた。職人の華奢な体に、不釣り合いなほど、やわらかそうに実っている。

ホックを外して、下着をずらす。月明かりのような間接照明に、白い胸が浮かんだ。

「……綺麗だ」

「やっ……♡」

腕で隠そうとするのを、そっと外して、右手で包むように触れた。

ふにっ。

「あっ♡」

吸い付くような、やわらかい弾力。指を沈めると、むにっとはみ出す。先端を、親指でくりっと転がした。

「ひゃっ♡♡ んっ♡」

びくん、と体が跳ねる。先端が、指先で硬くなっていくのがわかった。唇を、胸の先に落とす。ちゅう♡

「あぁっ♡♡」

舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。

ちゅるっ♡ れろ♡ ちゅう♡♡

「やっ♡♡ 声、出ちゃう……♡♡」

普段、繊細な指先であの綺麗な和菓子を作る人が、俺の手の中で乱れていく。そのギャップに、頭が痺れた。

スカートを脱がせ、最後の一枚に手をかける。下着の上から、そっと指で触れた。

すり……。

「んっ……!♡」

——じわり。薄い布越しに、熱と湿り気が、はっきり伝わってきた。

「……もう、こんなに」

「だって……電車の中から、ずっと……♡♡」

下着に指をかけて、ゆっくりずり下ろす。とろりと、蜜が糸を引いた。脚の間に体を滑り込ませ、白い太ももの内側にキスを落としながら、ゆっくり中心へ近づいていく。舌先で、そっと触れた。ちろ……。

「んあっ♡♡!」

彼女の腰が、びくんと跳ねた。

ちゅる……れろ……ちゅっ……♡

「あぁっ♡♡ そこ……だめ……♡♡」

一ノ瀬さんの手が、俺の髪をぎゅっと掴む。小さな粒を舌先で見つけて、集中して転がした。

こりこり……ちゅっ……♡

「やっ♡♡♡ あっ、あっ……♡♡」

太ももを押さえて開かせながら、舌を動かし続ける。粒を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げた。

「——っ♡♡♡! だめっ、イっちゃ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」

彼女の背中が、弓なりに反った。華奢な全身が、びくびくと震えて、やがて、力が抜けたようにシーツに沈んだ。

「はぁ……はぁ……♡♡ ……深沢さん、上手すぎ、です……♡」

潤んだ瞳で見上げて、彼女が体を起こした。俺の服に手をかけて、頬を赤らめながら囁く。

「……今度は、私が」

張り詰めたものに、職人の細い指が、そっと添えられた。

「……すごい。こんなに……♡」

指が、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。普段あんこを練る指は、思いのほか繊細で、力加減が絶妙だった。

「……口で、しても、いいですか」

上目遣いで訊いてくる表情が、艶っぽすぎて言葉にならなかった。ちゅ、と先端にキス。ぺろ、と舐めて——ぱくりと口に含んだ。

ずぷ……。温かく濡れた口の中に、包まれる。

「ん……じゅる……♡ んちゅ……♡」

ゆっくり頭を上下させて、頬をすぼめて吸い上げる。

ちゅぱっ……じゅるるっ……♡

「……一ノ瀬さん、やばい、気持ちよすぎる」

「ん……♡ もっと……♡」

ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えられるたび、全身に電流が走った。

「……ストップ。このままだと、出る」

ぷは、と口を離した彼女の唇が、唾液で濡れて光っていた。

「……ふふ。我慢、できました?♡」

「……一ノ瀬さんが、煽るからでしょ」

彼女をベッドに引き上げて、カバンから取り出したものを手早く着ける。蜜で濡れた入り口に、先端をあてがった。

「……来て、ください。深沢さん」

「……いきます」

ゆっくり、押し入れていく。ずぷ……っ。

「んんっ……♡♡!」

温かい。きつい。中が、ぎゅうっと締め付けてくる。

「入って……きてる……♡♡ 奥まで……♡♡」

根元まで収まると、下腹部が密着した。少し動きを止めて、馴染ませてから、ゆっくり腰を引いて、また押し込む。

ずぷ……ずちゅ……♡

「あっ♡♡ んっ♡♡」

パン……パン……パン……。

「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ち、いい……♡♡」

ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から、卑猥な水音が響く。腰を掴んで、少しずつペースを上げた。

パンパンパンパン……!

「あっあっあっ♡♡♡♡ そこっ♡♡ 奥に当たって……♡♡♡」

角度を変えて突き上げると——

「そこぉっ♡♡♡! いいとこ、です……♡♡♡」

一ノ瀬さんの脚が、俺の腰に絡みついてくる。もっと奥を求めるように。

「もっと……♡ もっと、奥……♡♡♡」

窓の外、夜の街の灯りが、カーテンの隙間から細く差していた。

パンパンパンパンパン……!!

「やばっ♡♡♡ また、来ちゃうっ♡♡♡ イっちゃう……♡♡♡♡」

「俺も……っ」

「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イきたい……深沢さん♡♡♡♡」

彼女が、俺の背中に両腕を回してしがみつく。脚も、ぎゅっと腰に絡んだ。奥に押し付けるように——最後の一突き。

「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

どくっ、どくっ、どくっ……!

一ノ瀬さんの全身が震えて、中が痙攣するように搾り取ってくる。

「はぁっ……♡♡♡ すごい……♡♡」

抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。繋がったまま、しばらく互いの鼓動を聞いていた。

ゆっくり体を離すと、一ノ瀬さんが横を向いて、とろけた瞳で俺を見た。

「……深沢さん。私、こんなこと……初対面の人と、初めてで」

「……俺もです」

「ほんとに?」

「ほんとに。……一ノ瀬さんだから、だと思う」

彼女が、ふにゃっと笑って、俺の胸に頬をつけた。

「……ねえ。もう一回、しても、いいですか」

「……こっちのセリフです」

新しいものを着け終えると、今度は一ノ瀬さんが、おずおずと俺の上にまたがってきた。間接照明に、しなやかな白い体が浮かぶ。

角度を合わせて——ゆっくり、腰を落とした。

ずぷん♡♡

「あっ♡♡♡ この格好……奥まで、来る……♡♡♡」

「……っ、一ノ瀬さん、それ……」

「ふふ……♡ 気持ち、いい……?♡」

彼女が、ゆっくり腰を上下させ始めた。

ずぷ♡ ずちゅ♡ ずぷっ♡♡

「ん♡♡ 自分で動くの……恥ずかしい……っ♡♡」

目の前で揺れる胸に、手を伸ばして両方掴んだ。

むにゅっ♡♡

「ひゃんっ♡♡♡ 揉まないで……動けなくなる……♡♡♡」

「いいから、動いて」

ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡

「あっあっあっ♡♡♡ いい場所、当たってる……♡♡♡♡」

たまらず、下から突き上げた。

ずぷんっ♡♡♡

「ひぁっ♡♡♡♡ 下から、だめっ♡♡♡」

彼女の動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。

パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡

ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

「だめっ♡♡♡ そこばっかり……っ♡♡♡ おかしくなっちゃう……♡♡♡♡」

一ノ瀬さんが、俺の上に倒れ込んでくる。汗ばんだ胸が、俺の胸に押し付けられた。そのまま、ぎゅっと抱きしめて、下から激しく突き上げる。

パンパンパンパンッ♡♡♡♡

「あっあっあっ♡♡♡♡ また、来ちゃう……っ♡♡♡♡!」

「俺も……っ! 一緒に、イこう」

「うんっ♡♡♡ 一緒に……っ♡♡♡♡」

彼女が、俺の首にしがみつく。中が、きゅうきゅうとリズミカルに締め付けてくる。奥に押し付けるように——最後の一突き。

「イくぅっ♡♡♡♡♡!!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

一ノ瀬さんの全身が震えて、中が痙攣するように搾り取っていく。

「はぁっ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡」

「……俺も。最高でした」

汗だくの体を重ねたまま、しばらく抱き合っていた。窓の外で、夜の街が静かに息づいている。

しばらくして、一ノ瀬さんが、ぽつりと言った。

「……今日で、終わりにしたくないな」

「……俺も、同じこと考えてました」

俺は、彼女の髪を撫でながら、はっきり言った。

「一ノ瀬さん。また、会いたいです。今日だけの相手にしたくない」

一ノ瀬さんが、顔を上げて、目を見開いた。それから、泣きそうな顔で、くしゃっと笑った。

「……うれしい。私も、ずっと、それを言ってほしかった」

「……付き合ってもらえますか」

「……はい。よろしく、お願いします」

ちゅ、と、彼女が俺の唇にキスをした。

「……あ。あじさい、まだ食べてませんでしたね」

「……すっかり忘れてた」

「ふふ。じゃあ、今、食べましょう。二人で」

ベッドの上で、皿の練り切りを楊枝で半分こした。青と紫の、にじむような梅雨の色。上品な甘さが、火照った体に染み渡る。

「……うまい」

「ふふ。それは、よかった」

それから、季節が一巡りした。

俺は今でも、彼女の店の定休日に合わせて休みを取る。一緒に、どこかへ出かけるために。

「涼太くん、見て♡ 今年の紫陽花、去年より上手にできたの」

休みの朝、彼女のキッチンで、一ノ瀬さん——詩織が、できたての練り切りを差し出してくる。すっかり、俺の前でも気を抜くようになった。

「……ほんとだ。去年のより、青がきれい」

「でしょ♡ 涼太くんと初めて会った日の、明月院ブルー。あれを、ずっと再現したくて」

くしゃっと笑う詩織の手を、俺はぎゅっと握った。あの日、海風の中で、ほんの少しだけ握り返してくれた手を。

今年も、梅雨が来る。

でも、もう、頭の芯は湿っていない。彼女の作る、青い紫陽花が、毎年ちゃんと教えてくれる。雨の季節にも、ちゃんと綺麗なものがあるんだと。

窓の外で、今年最初の雨が、静かに降り始めた。

― 終 ―


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