転職が決まって、前の会社の有給がまるごと残っていた。
俺、谷口修平、二十四歳。次の出社まで二週間と少し。せっかくだから一人で京都に行くことにした。三月の京都。観光のピークには少し早くて、空気がまだ冷たい。
「五日もあれば、けっこう回れるよな」
新幹線の中で、俺はスマホに作った旅程表を見返していた。一日目は清水寺と二寧坂、二日目は嵐山、三日目は——と、時間刻みで予定が埋まっている。
(我ながら、計画立てすぎだよな)
昔からそうだった。何をするにも下調べして、地図に印をつけて、その通りに動かないと落ち着かない。宿はあえてホテルじゃなくて、町家を改装したゲストハウスにした。一人だと夜が手持ち無沙汰になるから、誰かと喋れる場所がいいと思って。
京都駅から市バスに揺られて、細い路地の奥にその宿はあった。格子戸をくぐると、土間と畳と、古い梁がそのまま残った天井。
「うわ、雰囲気いいな……」
チェックインを済ませて、ドミトリーのベッドに荷物を置く。二段ベッドが並んだ静かな部屋。同室の客は出払っているのか、誰もいなかった。
夕飯を近くの定食屋で済ませて宿に戻ると、もう外は真っ暗だった。部屋に戻る前に、共用ラウンジを覗いてみる。
土間を改装したラウンジには、長い木のテーブルと、年季の入ったソファ。隅にコーヒーのセルフサービスがあった。そして、テーブルの一番奥。
一人の女性が、大きな世界地図を広げていた。
(……?)
紙の地図だ。今どき珍しい。それも、折り目だらけで角がすり切れた、相当使い込まれたやつ。首から、黒いフィルムカメラを下げている。ショートよりは少し長い髪を無造作に結んで、ゆったりしたニットの袖をまくっている。地図の上を、指でなぞっていた。
(綺麗な人だな……)
横顔の鼻筋がすっと通っていて、まつげが長い。化粧っ気はほとんどないのに、目の力が強い。セルフのコーヒーを淹れようとして、ポットを見たら——空だった。
「あ……」
つい声が漏れた。彼女がぱっと顔を上げる。
「それ、さっきあたしが最後の一杯もらっちゃった」
ふっと笑って、自分のマグカップを持ち上げてみせた。
「半分こする?」
「え、いや、悪いですよ」 「いいのいいの。一人で飲むには多かったし」
そう言って、空いてるマグカップに自分のコーヒーを注ぎ分けてくれた。湯気と一緒に、香ばしい匂いが立つ。向かいの椅子を勧められて、なんとなく座った。一口飲む。少し濃いめで、でも好きな味だった。
「ね、おいしいでしょ。豆だけは、いいの選んでるんだって」
「うまいです、これ」
地図に目をやった。太平洋からヨーロッパ、アフリカまで、油性ペンで線が引かれている。点が、無数に打たれていた。
「これ……旅した場所、ですか?」
「うん。世界一周してきたの。先月帰ってきたばっかり」
さらっと言われて、思わずコーヒーを置いた。
「世界一周?」
「えへ、引くでしょ」 「いや、すごい……普通に尊敬します」 「尊敬って言葉、久しぶりに聞いた」
彼女が、くしゃっと笑った。笑うと目尻に皺が寄って、急に距離が近くなる。
「あたし、月城真央。二十四。今この宿の離れに、長めに住んでる」
「離れ?」 「うん。中庭の奥に個室があるの。ドミトリーは落ち着かないから、そっち借りてて」 「谷口修平です。二十四です」 「あ、タメだ」
真央が嬉しそうに地図を畳んだ。
「修平は? 一人旅?」
「はい。転職の合間に。来週から有給消化が終わるんで、それまで京都を……」
スマホの旅程表を見せると、真央が目を丸くした。
「……え、これ全部、時間決まってるの?」
「あー、はい。性格で」 「すごいね。あたし、明日どこ行くかも決めてないのに」
そう言って、彼女はおかしそうに笑った。馬鹿にする感じじゃない。本当に面白がっている顔だった。
「旅程表に『清水寺 9:00-10:30』って書く人、初めて見たかも」
「そんなに変ですか」 「変っていうか、まじめ。修平って、いい顔するね、そういう話してるとき」
——いい顔、と言われて、なんと返していいか分からなかった。
「真剣な顔。決めたことちゃんとやろうとする顔。あたしにはないやつ」
カメラを持ち上げて、ファインダーを覗く真央。カシャ。
「え、撮ったんですか今」
「撮った。いい顔だったから」
いたずらっぽく笑って、カメラを下ろす。フィルムを巻く、ジリジリという音がした。
それから、コーヒーが冷めるまで俺たちは喋り続けた。真央が見てきた景色の話。ボリビアの塩湖が空を映して、上下が分からなくなる話。モロッコで道に迷って、知らない家族に夕飯をごちそうになった話。俺が出張ばかりで、観光地に行っても写真を撮るだけで素通りしてきた話。
「もったいない。撮るだけって」
「真央さんは、ちゃんと見てるんですね」 「見てるっていうか……残したいって思うものを探してる。違うんだよね、それって」
その言い方に、なんだか引っかかった。ただの旅好きじゃない。この人は、何かを本気でやっている人だ。
「真央さんの写真、見てみたいです」
言ってから、馴れ馴れしかったかと思った。でも真央は、ちょっと考えてから頷いた。
「……いいよ。離れにラップトップあるから、データのやつ見せたげる」
「いいんですか」 「人に見せるの、久しぶりだけどね」
中庭を抜けて、奥の離れへ。飛び石を踏んで、小さな引き戸を開けると、本とフィルムの箱で散らかった四畳半の部屋があった。座布団を勧められて座ると、真央がラップトップを膝に乗せて、隣に来た。肩が触れそうな距離。画面に、写真が一枚ずつ流れていく。
「……」
言葉が出なかった。砂漠の朝。ラクダ使いの少年の、まっすぐな目。市場の喧騒の中で、一瞬だけ笑った老婆。雨上がりの路地に映った、傘の影。どれも、ただ綺麗なだけじゃなかった。その人のその一瞬が、まるごと閉じ込められている。
「すごい……これ、真央さんが全部?」
「うん」 「いや、お世辞抜きで、本物だと思います。これ」
真央が画面から目を離さないまま、ちょっと黙った。
「……本物、か」
「写真家、目指してるんですよね」
「目指してる、ってほど胸張れないけどね」
その横顔に、さっきまでの軽さがなかった。
「やめときなよ。明日も早いんでしょ、旅程表」
話を逸らされた。でも、踏み込んじゃいけない気がして、俺も笑って受け流した。
「そうですね。明日、清水寺九時です」
「ぷっ、ほんとに時間決まってる」
笑いながら、真央がふと言った。
「ねえ、修平。明日、その旅程表、半日だけ破ってみない?」
「え?」 「観光客のいない京都、見せたげる。夜明け前に集合できる?」
その目が、本気だった。俺はスマホの旅程表を、見もせずにポケットに突っ込んだ。
「行きます」
「即決だ。意外」 「破ってみたくなったんで」
真央が、嬉しそうに目を細めた。
「じゃ、五時。離れの前ね」
翌朝。まだ夜と朝の境目みたいな、藍色の空。
吐く息が白い。真央は厚手のコートにマフラーを巻いて、当然のようにカメラを首から下げていた。
「おはよ。寝ぼけてない?」
「五時起きとか、社会人なめないでください」 「あはは、それもそうか」
始発に乗って、伏見へ。人気のない参道を歩いて、伏見稲荷の鳥居をくぐる。
そして——千本鳥居。
朱色の鳥居が、トンネルみたいにどこまでも続いている。それが、誰もいない。完全に、二人きりだった。
「……うわ」
「でしょ。昼間はここ、人でぎゅうぎゅうなんだよ」
朝の薄い光が、朱色の柱の隙間から差し込んで、地面に縞模様を落としている。空気がしんと張りつめて、自分の足音だけが響く。
「この時間だけなんだよね。ここがこんなに綺麗なの」
真央がしゃがんで、カメラを構えた。鳥居の連なりにレンズを向ける。
カシャ。ジリジリ。
「フィルム、なんですね。今どき」
「うん。何枚撮れるか決まってるでしょ、フィルムって」
巻き上げのレバーを指で送りながら、真央が言う。
「だから一枚一枚、ちゃんと見る。次があると思うと、雑になるから」
その言葉が、なぜか胸に残った。真央が立ち上がって、こっちにレンズを向けた。
「修平、そこ立って。朱色に挟まれて」
「え、俺?」 「いいから」
鳥居のトンネルの真ん中に立たされる。朝の光が背中から差して、足元に長い影が伸びた。ファインダー越しに、真央がじっと俺を見ている。
「……うん。いい顔するね、やっぱり」
カシャ。
「俺、変な顔してませんでした?」
「してない。なんかね、ここにちゃんと立ってる人の顔。修平っぽい」
カメラを下ろして、真央がふっと笑った。その笑顔を、今度は俺が目に焼き付けた。
それから哲学の道へ移動した。桜にはまだ早い。蕾が固い枝の下を、疎水沿いに二人で歩く。水の音だけが、ずっとついてくる。
「あたしね、写真撮るとき、シャッター切る前にすごい考えるの」
「考える?」 「これは残す価値があるかなって。フィルム一枚、無駄にしたくないから」 「真央さんらしい」 「でも、それって裏返すと……自信がないだけなんだよね」
立ち止まって、真央が水面を見た。
「写真家になりたい、ってずっと言ってる。でも、それで食べていくって決めるのが、こわい。世界一周も、ほんとは逃げてたのかも」
声が、少し小さくなった。視線が、首から下げたカメラに落ちる。
「あんなに撮ってきたのに、帰ってきて何ヶ月も、写真展のひとつも応募できてない。変だよね。撮るのは好きなのに、見せるのがこわいの」
俺は、少し考えてから言った。
「昨日見せてもらった写真、俺、お世辞言える性格じゃないんで」
真央がこっちを見た。
「本物だって思いました。残す価値があるかって、真央さんが一枚ずつ迷って撮ったやつだから、本物なんですよ。あれを見せないのは、もったいないです」
水の音が、しばらく続いた。
「……ずるいなあ、修平」
「なにがですか」 「まじめな顔で、まっすぐ言うんだもん」
そう言って、彼女は前を向いて歩き出した。ちょっと早足だった。耳が、赤かった。
その日は結局、夕方まで一緒にいた。旅程表は、まるごと破れた。でも不思議と、惜しくなかった。
夜。ご飯を食べた帰り道、真央が「もう少し歩かない?」と言った。
たどり着いたのは、鴨川デルタ。川が二つに分かれる、三角州の先端。河原に、人が等間隔で座っている。京都名物の、あの光景。
「知ってる? カップルが等間隔に並ぶやつ」
「聞いたことあります。鴨川等間隔の法則」 「そう。みんな、ちゃんと距離取ってる」
俺たちも、空いている場所に腰を下ろした。最初は、ちゃんと拳ひとつぶんの距離を空けて。川の流れる音。遠くで誰かが笑う声。対岸の灯りが、水面に揺れている。
しばらく黙って、川を見ていた。それから——真央が、少しだけ、こっちにずれた。
肩が、触れた。
「……法則、破れましたよ」
「ばれた」
くすっと笑う。マフラー越しに、肩の温度が伝わってくる。
「修平といると、決めてたことが、どんどん崩れる」
「それ、俺の台詞です。旅程表、ぼろぼろになりました」 「ごめんね」 「謝らないでください。たぶん、今日が一番、京都来てよかったです」
真央が、川面に目をやったまま、ぽつりと言った。
「あのね、修平」
「はい」 「旅先の出会いって、終わるから綺麗なんだよ」
その横顔に、昼間の哲学の道で見た、あの寂しい影が戻っていた。
「お互い知らない場所で、知らない自分になれて。でも、それぞれの場所に帰ったら終わる。だから、こわくないし、綺麗なまま残る。あたし、ずっとそうやって旅してきた」
——だから、深く考えるな、と。そう言われている気がした。
俺は、川を見るのをやめて、真央の横顔をまっすぐ見た。
「……終わらせなければいいだろ」
真央の肩が、ぴくっと動いた。
「綺麗なまま終わらせるとか、そんなの俺は要らないです。終わらない方が、ずっといい」
「……修平」
「真央さんが東京帰るなら、俺も東京です。会えます。終わらせる理由、ひとつもない」
真央が、こっちを向いた。
街灯の灯りに照らされた瞳が、揺れている。いつも軽やかなはずの視線が、逃げ場を探すみたいに、首のカメラに落ちて——でも、今度は、すぐにまた俺に戻ってきた。
「……ずるいって、言ったじゃん」
「ずるくていいです」
真央が、笑った。泣きそうな、笑い方だった。
「……ねえ、離れ、来る?」
心臓が、跳ねた。
「行きます」
「また即決」 「破ってみたくなったんで。法則」
真央が、俺の手をきゅっと握った。冷えた指。でも、握り返すと、すぐに温かくなった。宿まで、手を繋いだまま歩いた。夜の路地は静かで、二人の足音だけが響いていた。
中庭の飛び石を踏んで、離れの引き戸を開ける。電気をつけずに、窓から差す月明かりだけの部屋で、俺たちは向かい合った。
真央が、首からカメラを外して、そっと棚に置いた。
「これは、今は……いいや」
頬に手を添えると、真央が目を閉じた。長いまつげが、影を落とす。唇を、重ねた。
ちゅ……。
冷えていた唇が、すぐに温まる。軽く触れて、離して、もう一度。角度を変えて深く。舌先で唇をなぞると、真央の口が、ふっと開いた。
ちゅる……んちゅ……。
「ん……♡」
腰に手を回して引き寄せる。ニット越しに、細い体の輪郭が伝わってきた。
「真央」
「呼び捨て、いいね♡」
くすっと笑った口を、また塞ぐ。今度は舌を絡めて。
ちゅぷ……れろ……ちゅる……♡
「ん……ふっ……♡」
真央の手が、俺のシャツの胸元をきゅっと掴む。ぷはっ、と離れると、二人の間に細い糸が引いて、月明かりに光って切れた。
「……脱がせて♡」
ニットの裾に手をかけて、ゆっくり頭から抜いた。結んでいた髪が、ばさっとほどけて肩に広がる。白い肌。細い鎖骨。グレーのシンプルなブラに包まれた胸が、月の光に淡く照らされている。
「綺麗だ」
「やだ、あんまり見ないで♡」 「無理。ずっと見てたい」 「ばか……♡」
首筋に唇を落とす。鎖骨をなぞって、肩に。背中に手を回して、ホックを外した。カチッ。
腕で隠そうとする真央の手を、そっとどかす。ふくらみは大きすぎず、でも形がよくて、先端がほんのり色づいて、もう少し硬くなっていた。
包むように触れる。ふにっ。
「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような柔らかさ。指を沈めると、わずかに汗ばんだ肌が吸い付く。
親指で先端を転がすと、真央の体がびくっと跳ねた。
「んっ……♡♡」
唇を寄せて、先端をちゅっと吸う。
「やっ……!♡ それっ……♡♡」
舌先で硬くなった先端をころころ転がしながら、もう片方を手で揉む。
ちゅう……れろ……ちゅっ♡
「あぁっ……♡♡ 吸われると……変な声出ちゃう♡♡」
真央の手が、俺の髪をくしゃっと掴んだ。
俺は、真央をそのまま敷布団に横たえた。月の光が、白い体の上をすべる。スカートを脱がせて、最後の一枚に手をかける。布越しに、そっと指で触れた。
すり……。
「ひゃっ……!♡」
——じわり、と。布越しでも、熱と湿り気がはっきり伝わった。
「もう、こんなに」
「だって……鴨川にいた時から、ずっと……♡」
ショーツを引き下ろす。とろりと、透明な蜜が糸を引いた。整えられた薄い茂みの下、ピンク色の花弁が、月明かりに濡れて光っている。
脚の間に体を滑り込ませて、太ももの内側に唇を落としながら、ゆっくり中心へ近づく。
舌先で、花弁にそっと触れた。
ちろ……。
「んあっ……!♡」
真央の腰が、びくんと跳ねた。
ちゅる……れろ……ちゅっ……♡
「あぁっ……♡♡ やっ……そんなとこ……♡♡」
真央の指が、俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。
小さな突起を見つけて、舌先を集中させた。
こりこり……ちゅっ……れろ♡
「そこっ……!♡♡ あっ、あっ、あっ……♡♡」
太ももを押さえて開かせながら、突起を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げる。
「——っ♡♡♡!! イっ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」
真央の背中が弓なりに反って、全身がびくびく震えた。しばらくして、力が抜けたように布団に沈む。
「はぁ……はぁ……♡♡ ……なに、これ……♡」
潤んだ瞳で、こっちを見上げてくる。
「……あたしにも、させて♡」
体を起こした真央が、俺の前で膝立ちになった。カチャ……ジー……。ベルトを外して、ズボンを下ろす。布越しでも、限界まで硬くなったものが、はっきり形を主張している。真央がそっと布越しに手を添えて、息を呑んだ。
「……すごい♡ ばくばく言ってる♡」
下着のウエストに指をかけて、ゆっくり引き下ろす。ぼるん、と勢いよく飛び出した。
「わ……♡♡ おっきい……♡」
細い指が幹に絡んで、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。
「口でも、していい?♡」
上目遣いで聞いてくる。月明かりに濡れたその表情が、艶っぽすぎて言葉にならなかった。ちゅ、と先端にキス。ぺろ、と舐めて——ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かい口の中に、先端が包まれる。
「ん……じゅる……♡ んちゅ……♡」
ゆっくり頭を上下させながら、頬をすぼめて吸い上げる。ほどけた髪が、揺れる。
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡
「真央、やばい、それ……」
「んふ♡ もっと?♡」
ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えるたびに、喉の奥に触れて、全身に痺れが走った。
「待って……それ以上は、イく……」
ぷはっ、と真央が口を離す。唾液が、つうっと糸を引いた。
「だめだよ♡ まだ、これからなのに♡」
いたずらっぽく笑う真央を、布団に引き上げた。財布からコンドームを取り出すと、真央が目を細めた。
「……用意いいんだ♡」
「一応、男なんで」 「ふふ♡ つけて♡ ……早く、欲しい♡」
手早く装着して、真央を仰向けにする。ほどけた髪が、布団に広がる。紅潮した頬、潤んだ瞳。脚の間に体を進めて、先端をあてがった。
ぬちゅ……♡
「入れるよ、真央」
「うん……♡ 来て♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡
「んんっ……♡♡! 入って……くる……♡♡」
温かい。きつい。きゅうきゅうと締め付けながら、奥に引き込んでくる。
「おっきい……♡♡ 中、いっぱいになってく……♡♡♡」
ずぷん、と根元まで収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
「はぁっ……♡♡ ぜんぶ、入った……♡♡」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
パン……パン……パン……♡
「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ちいい……♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から、水音が響く。
「真央、すごい、締まってる」
「だって、修平のが……おっきいからっ……♡♡♡」
腰を掴んで、少しずつペースを上げた。
パンパンパン……!
「あっあっあっ♡♡♡! そこっ……当たって……♡♡♡」
角度を変えて突き上げると——
「そこぉっ♡♡♡!!」
真央の脚が、俺の腰に絡みついた。爪が背中に食い込む。少し痛い。でも、それがまた興奮する。
「修平っ……♡♡ 顔、見せて……♡♡」
正常位だと、真央の表情が全部見える。眉が寄って、口が開いて、瞳が潤んで——いつもの軽やかな彼女が、今は、俺の下で乱れている。キスを落としながら、腰を動かし続けた。
「んっ……んぅっ……♡♡♡」
真央の中が、きゅうきゅうとリズミカルに締め付けてくる。
パンパンパン……!
「あっ♡♡ ダメっ……♡♡♡ そこばっかり……♡♡♡」
「真央、いいよ。すごくいい」
「あたしもっ……♡♡ もっと……♡♡♡」
体を起こして、真央の腰を抱え直す。さらに奥を突くと、真央が顔をのけぞらせた。
パンパンパンパン……!!
「やっ♡♡♡ 奥っ……奥に当たってるっ……♡♡♡♡」
ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が部屋に響く。
「イっちゃ……♡♡♡ また、イっちゃうっ……♡♡♡♡」
「いいよ、一緒に」 「うんっ……♡♡ 一緒に……♡♡♡ 来てっ……♡♡♡♡」
真央が、両腕を伸ばして俺の背中にしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように——最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
真央の全身が震えて、中が痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡ すご……かった……♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返す。ちゅ、と軽くキスをした。
「……もう少し、このまま♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を聞いた。しばらくして、ゆっくり体を離す。
「……ねえ、修平」
「ん?」
真央が、横向きになって、俺の胸に頬を寄せた。
「フィルムってさ、残り枚数が見えると、惜しくなるんだよね。あと何枚、しかないって」
「うん」 「今、ちょっと、それと同じ気持ち」
ほどけた髪を撫でながら、俺は言った。
「惜しまなくていい。明日も、明後日もある」
真央が、顔を上げて俺を見た。
「……ほんとに?」
「ほんとに」 「……じゃあ、もう一回、惜しんでいい?♡」
真央が、いたずらっぽく笑って、俺の上にまたがってきた。繋がっていた場所が、また硬くなり始めている。
「……自分で動くの?」
「うん。今度は、あたしが♡」
新しいコンドームを着けて、真央が腰を落とす。
ずぷん……♡♡
「あっ♡♡♡ この体勢、奥まで入るっ……♡♡♡」
月明かりに照らされて、白い体が淡く光る。ほどけた髪が、肩から胸に流れ落ちる。真央が、ゆっくり腰を上下させ始めた。
ずぷ♡ ずちゅ♡ ずぷっ♡♡
「ん♡♡ 自分で動くと……あたるとこ、わかるっ……♡♡♡」
目の前で、胸が揺れる。手を伸ばして、両方を包んだ。
むにゅっ♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉まないで……動けなくなるっ……♡♡♡」
「いいから。続けて」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ ここっ……いいとこ、当たってるっ……♡♡♡♡」
真央が腰を回すように動かす。ぐりんと、中をかき回される感覚。
「世界中、いろんなとこ行ったけどっ……♡♡ こんなの、初めてっ……♡♡♡」
「真央……」
下から、突き上げた。
ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下からっ……ずるいっ……♡♡♡」
真央の動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。
パンパンパンパン……!!
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
「だめっ♡♡♡ また来るっ……イくイくイくっ……♡♡♡♡」
「俺も、もう……っ」 「一緒にっ……♡♡♡ 一緒がいいっ……♡♡♡♡」
真央が、俺の上に倒れ込んでしがみついてくる。
最後に、奥へ深く——突き上げた。
「イくぅぅっ♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
真央の中が、痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡ すごかった……♡♡」
汗ばんだ体を、そのまま抱きしめた。月明かりの中、二人の呼吸だけが部屋に満ちている。
「……修平」
「ん?」
「終わらせなくて、よかった」
ちゅ、と、真央が俺の胸に唇を落とした。そのまま、抱き合って眠りに落ちた。
——朝。障子越しの光で、目が覚めた。隣を見ると、真央が、俺の腕の中で眠っている……はずだった。でも、いなかった。
体を起こすと、棚の前で、真央が膝を抱えて座っていた。あのフィルムカメラを、首にかけて。そして、ファインダーを、こっちに向けている。カシャ。
「……今、撮った?」
「撮った。寝てる修平」
照れたように笑って、カメラを下ろす。フィルムを巻く、ジリジリという音。
「フィルム、一枚無駄にしたんじゃないですか。残す価値、考えるんでしょ」
「考えたよ。考えて、撮った」
真央が、膝を抱えたまま、ぽつりと言った。
「あたしね、旅先で誰かと過ごしても、朝は必ず先に出てたの。荷物まとめて、置き手紙して、消えるの。終わるところ、見たくなくて」
「……」
「でも今朝、起きて、出ていこうとして……できなかった」
膝に顎を乗せて、真央が俺を見る。
「初めてだよ。朝まで、いてほしかった人」
朝の光が、真央の横顔を照らしている。いつもカメラに逃げる視線が、今は、まっすぐ俺を見ていた。俺は、布団から起き上がって、真央の隣に座った。
「東京、いつ帰るんですか」
「来週。修平は?」 「俺も来週。出社、再来週」 「……じゃあ」 「会えますよ。何回でも」
真央が、笑った。今度は、泣きそうじゃない笑い方だった。
「ねえ、修平」
「はい」 「あたし、写真展、応募してみる。ずっとこわかったやつ」 「……いいんですか」 「修平が、本物だって言ってくれたから。それと——」
カメラを持ち上げて、真央が言った。
「見せたい人が、できたから」
その言葉が、胸にまっすぐ届いた。
「俺、絶対見に行きます」
「彼氏として?♡」 「……そういうこと、ですよね」 「うん。そういうこと♡」
真央が、ぎゅっと抱きついてきた。さらさらの髪が、頬に触れる。朝の光が差し込む四畳半で、二人で笑った。
——それから、二ヶ月。
東京に戻ってからも、関係は続いていた。真央は写真のアシスタントの仕事を始めて、休みの日は俺の部屋で、フィルムの整理をしている。俺の旅程表は、相変わらず細かい。でも、真央が「破ろ」と言えば、いつでも破れるようになった。
ある日、スマホにDMが届いた。差出人は、真央。
——『月城真央 初個展「終わらない場所」のお知らせ』
写真展の案内だった。会場は、下北沢の小さなギャラリー。メッセージカードに、こう添えられていた。
『出展作品リストの一番最後、見てね』
リンクを開いて、作品リストを下までスクロールする。一番最後の一枚。
タイトルは、『朝』。撮影地、京都。そして、その横に、被写体のクレジットがあった。
——『被写体兼彼氏:谷口修平』
俺は、思わず声を出して笑った。すぐに電話をかける。
「真央、これ」
「見た?♡」 「肩書き、なんですか『被写体兼彼氏』って」 「だって事実でしょ?♡」
電話の向こうで、真央がくしゃっと笑った気配がした。
「あの朝の写真ね、現像したら、すごくいい顔してたの。修平のいい顔」
「寝てたのに」 「寝てても、いい顔するんだよ、修平は」
窓の外、東京の空は、京都で見上げたのとはまた違う色をしていた。でも、隣に同じ人がいる。それだけで、十分だった。
旅先の出会いは、終わるから綺麗だと、真央は言った。俺たちは、それを終わらせなかった。だから——きっと、これからもっと綺麗になる。
「ねえ、個展のあと、また旅行行こ♡ 今度は二人で」
「行きます。即決で」 「ふふ♡ 旅程表、持ってくる?♡」 「持っていって、真央に破られに行きます」
電話の向こうで、真央が、いちばん嬉しそうに笑った。
― 終 ―