ボクが大学に入学したとき、白いブラウスにタイトなジーンズを穿いて、腰まである長い黒髪を靡かせて、颯爽とキャンパスを歩く先輩がいた。
小さめのヴィトンのバッグを肩から提げて、バインダーで纏めたテキストを持って歩く姿は、どんなドラマの中の主人公よりも格好良かった。
「ちょっと、キミ」
ある日、校門を潜ったところでそのお姉さんに呼び止められると、ボクは思わず後ろを振り返った。
後ろには誰もいない。
ボクはお姉さんの方に改めて視線を戻し、少し首を傾げながら自分を指差すと、
「そう、そこのキミ」
と言ってお姉さんは頷いた。
「ボクですか?」
「ボク以外に誰もいないことは、今振り返ってみて確かめたんじゃないの?」
強烈な言葉のカウンターパンチを浴びた。
ボクがバツの悪そうな顔をするとお姉さんは、
「新入生でしょ?」
と訊いてきた。
コクリとボクが少しだけ頷くと、
「ねぇ、私たち、どこかで会ったよね?」
と言い出した。
(えっ?こんな綺麗なお姉さんがナンパ?しかも、学校で?)
ボクが露骨に驚いて見せると、
「あ…、そういうのじゃないから」
ときっぱり否定された。
少し気味が悪くなって、その場を立ち去ろうと校舎に向かって歩き出すと、お姉さんが後ろからついてきた。
歩きながらお姉さんが質問を重ねる。
「ねぇ、どこの高校?」
「中学は?」 「どこに住んでるの?」
これが普通のお姉さんだったら無視してしまうのだろうけれど、いつも綺麗だなと思っていた人だったからつい答えてしまった。
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どこから持ってきたのかエプロンを着けたミキちゃんの姿が台所にあるのを見ているだけで何だか心が落ち着いた。
よく見ると、さっき横たわっていたままの姿にエプロンをしているだけなので、素足が見えていたりしていて何だかエロい。
「ハル、起きた?」
ボクの視線を感じたのかミキちゃんがボクの方を見て言った。
見つめていたミキちゃんの脚から視線を逸らして、ひと言"うん”とだけ返事した。
「あ、これ、勝手に借りてるね」
ミキちゃんは来ているトレーナーの胸のあたりを少し引っ張って見せた。
ボクは再び"うん”とだけ答えた。
「土鍋もレンゲもないからこんなのでごめんね」
ミキちゃんは普通のお鍋でお粥を作り、スプーンと一緒に枕元に持ってきてくれた。
「こんなのって、お鍋もスプーンもボクのなんですけど…」
そう思ったけど、黙っていた。
ボクは身体を起こして布団の上に座ると、ミキちゃんはお粥をひと匙掬ってフーフーするとボクに食べさせてくれた。
"こんな”お鍋とスプーンだったけど、お粥は間違いなく美味しかった。
食べ終わって少し落ち着いてから周りを見てみると、部屋の中が綺麗に片付いていた。
ミキちゃんが洗濯機を回している間にコソッと押入れを覗いて、秘蔵のエロ本の無事を確認した。
ミキちゃんはそれからもクルクルと良く動いて、あっと言う間に洗濯物を干してくれたりすると、
「早く良くなってね」
そう言って、玄関先でブーツを履くと、胸の前でボクに小さく手を振って帰って行った。
バイクのエンジン音がだんだん小さくなっていくのをボクは耳を凝らしていつまでも聞いていた。
そんなことがあってから、最初のうちは週末だけのお誘いだったのだけれど、そのうち平日にもお誘いを受けるようになった。
食堂でご飯を食べていると、突然目の前に現れて、唐突に言う。
「ねぇ、ハルぅ、いい天気だよねぇ。映画見に行こっかぁ」
"ボクはミキちゃんと違って講義がたくさんあるんですけど…、それに、いいお天気の時は映画じゃないと思うんですけど…”
そう思ったけど、ミキちゃんに、
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外国人の子供はみんな小さいころから歯科矯正を行っているので、無理なく矯正されていくが、ミキちゃんは高◯生になってからだったのでちょっと大変だったとか。
ボクは何と反応したらいいのかわからなくって押し黙っていると、
「こんな話、ガッカリした?」
と訊いてきたので、ボクは思いっきり首を横に振って、
"全然気にしないよ”
という意思表示だけはした。
「不思議だね。こんな話、身内以外にしたことがないのに、ハルには言えちゃった」
そう言ってもらえてボクは嬉しかった。
けど、もっと他にも訊きたいことがあった。
「それより、ミキちゃんはどうして…、その…、ボクとこうなっても良いって思ったの?」
「こうって…、お付き合いのこと?エッチのこと?」
"うわっ、外国育ちはやっぱりストレートだ”
そんなことを思いながら、少し照れながら、
「どっちも」
と答えた。
「エッチをしたのは、好きだから。好きになったのは…」
ボクが少し身を乗り出すと、ミキちゃんはニッコリ笑って、
「わからない…」
と答えた。
"もう少し、夢を見させてよ”
ボクが露骨にガッカリした顔を見せたのか、ミキちゃんは昔日の思い出を語ってくれた。
「ハルがオタマジャクシ、死なせちゃったときのこと覚えてる?」
「うん、雨が降ってた」
「そう、あの日、私、初潮を迎えてたの」
"ショチョー?署長?”
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女の子は源氏名をノゾミちゃんと言って、放っておいたら勝手にしゃべってくれるタイプの娘だったので安心した。
ほんの少しポッチャリしていて、でも太っているわけではなくて、おっぱいが大きくて、少し明るめの茶色に染めたセミロングの髪に濃いめのメイク。
ミキちゃんとは見た目が正反対の全然違うタイプだったが、一生懸命話をしてくれて、可愛らしい娘だった。
でもそのうちに手がボクの膝に触れてきたり、胸がボクの二の腕に触れたりしてきて、ボクは落ち着かなくなってきた。
これがミキちゃんだったら、鼻の下が長くなるところだけど、ボクの中で初対面でこれはいただけない。
極めつけは、帰るときにノゾミちゃんが"また来てね"と言って軽くだけど口にチュッとキスをしてくれたことだった。
平静を装ったけど、鳥肌が立った。
本人の目の前で口を拭うわけにもいかず、我慢していたら口の中に唾液が溜まってきて、胃液まで逆流してきた。
見送ってくれる女の子たちの視界からボクらの姿が消えたところで、ボクはとうとう気持ち悪さに耐えられなくなって脇道にそれると吐いてしまった。
「おい、おい、タカハル、大丈夫かよ?」
「ゴメン」
柴田が差し出してくれたハンカチを遠慮して、ボクはポケットティッシュを取り出すと口を拭った。
フラフラしながら歩いているボクを見かねて、柴田が下宿まで送ってくれると、そんな日に限ってミキちゃんが来ていた。
「ハル、酔っぱらってるの?」
もう子供ではないので、キスぐらい別に何があったというほどの話じゃないけれど、ボクは何となく後ろめたくて、ミキちゃんの目を見ることが出来ず、曖昧な返事をしていたら、柴田が助け船を出してくれた。
「大して飲んでないんですけと、途中で気分が悪くなっちゃったみたいで…」
ミキちゃんが、クンクン鼻を鳴らしたので、ボクはゲロの匂いが気になった。
「柴田くん、ありがとう」
柴田はそう言われるとホッとした顔で、ミキちゃんにボクを預けるとそそくさと帰って行った。
ノゾミちゃんは素敵な娘だったけど、ボクはどうしても気持ち悪くって、直ぐに風呂場に向かい、シャワーを浴びて石鹸をつけると顔を洗った。
いつもより長くシャワーのお湯を顔に当てて、漸くすっきりして髪を拭きながら風呂場から出てくるとミキちゃんがコーヒーを淹れてくれていた。
「ミキちゃん、今日はどうしたの?」
「メールしても返事がないし、電話しても出ないから心配になって来ちゃった」
慌てて携帯を見てみると、サイレントモードになったままで、ミキちゃんからのメールが二通と着信が二回あった。
「ゴメン…」
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と言って抓られた。
ミキちゃんのご両親には、少し早めにミキちゃんと一緒に暮らし始めることを許してもらって、ボクたちは少しだけ広めのマンションを借りた。
近所の川べりには、幹の太い桜の木があって、春になると立派な花を咲かせるらしい。
一緒に暮らし始めたその夜、ゆっくりゆっくりミキちゃんを突いていると、ミキちゃんはボクの頭を撫でながら、
「中で出していいよ」
と言ってくれた。
ボクがミキちゃんを強く抱きしめると、ミキちゃんはボクの耳元で囁いた。
「ハルの赤ちゃん、早く欲しいな」
昔よく面倒を見てくれたお姉さんはボクのお嫁さんになった。
ボクたちは今でもご近所でオシドリ夫婦として知られている。
この話の続き
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