社会人・オフィス
契約書に毎日何百回と社判を押すうち判ひとつの重みも感じなくなっていた法務部の僕が、社名変更で要る会社の実印を一本ずつ手で彫り直す寡黙な年上の印章彫刻師に印刀の入れ方を教わるうちに惹かれ、新社名の登記を終えた木枯らしの夜に誰もいない印章室で結ばれた話
一日じゅう、契約書に会社の判を押し続けて、いつのまにか判ひとつの重みも感じなくなっていた。社名変更で必要になった役員印を、地下の印章室で一本ずつ手で彫り直す嘱託の朝倉志乃さん。柘植に印刀を入れる、その静かな手に教わるうちに、僕は少しずつ救われていく。新しい社名の登記を終えた木枯らしの夜、誰もいない印章室で、僕たちは結ばれた。