日常・出会い
絵を高精細データに写し取るばかりで本物の絵に一度も触れないまま擦り切れていた美術館アーカイブ係の僕が、長雨の雨漏りでシミになった祖父の掛軸を抱えて飛び込んだ商店街の小さな表具店で、紙は生きていると言って湿りと乾きの“間”で軸を仕立て直す無口な同い年の女表具師に裏打ちの手ほどきを受けるうちに惹かれ、梅雨明けの夜の作業場で結ばれた話
絵画を高精細スキャンでデータに写し取るばかりで、本物の絵には一度も触れないまま擦り切れていた僕は、長雨の雨漏りでシミになった祖父の掛軸を抱えて、商店街の奥の小さな表具店に飛び込んだ。紙は生きていると言って、湿りと乾きの“間”で軸を仕立て直す無口な同い年の女表具師・美濃葵さんに裏打ちの手ほどきを受けるうちに惹かれていって——梅雨明けの夜、僕たちは作業場で結ばれた。